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次世代バイオテクノロジーを牽引するBerkeley Lights(BLI)がNASDAQにてIPO申請!従来の研究プロセスを数倍にも効率化する独自技術は新型コロナワクチン開発にも貢献か?

1. 会社概要

2011年に設立。アメリカ、カリフォルニアに拠点を置くBerkeley Lightsは生物学、主に細胞学研究を根本的に加速することを目的として独自の光選択技術の技術を用いた細胞研究開発用多目的プラットフォームの提供するバイオテクノロジー企業だ。
同社は主に抗体の発見、細胞株の開発、細胞療法の開発、合成生物学分野においてプラットフォーム提供を行っており、特筆すべきはそのスピードにある。従来であれば数週間かかる工程を数日にまで短縮することを可能にし、トータルの研究期間を数ヶ月から数週間にまで短縮できるのだ。

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では何がこういった革命的な躍進を可能にしているのか?

その鍵を握るのが同社の細胞研究オートメーションシステムである「Beacon」「Lightning」、さらにこれらのシステムをサポートする「Culture Station」だ。                     「Beacon」などには「OptoSelecチップ」と呼ばれる半導体チップが搭載されており、このチップが光選択技術を用いて単一細胞レベルでの研究を可能にしている。

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従来であれば細胞一つ一つの観察に毎回顕微鏡を覗く必要があったり一つの作業に数人のスタッフやかなりの時間が要求されてきたが、同社のプラットフォームはその全てを自動化し、研究工程を可視化するなど今までに必要とされてきた多くのプロセスを効率化することが出来る。

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(左からBeacon, Lightning, Cultrue Station)

光選択技術:半導体チップにレーザー光を当て、チップ表面の光が当たった部分だけ電荷が変化することを用い、1細胞のみを移動させる技術              *細胞株:単一細胞から培養を開始し、増殖培養後も他細胞との交わりがない単一細胞由来の細胞集団。細胞集団の能力は、分泌物、増殖率、細胞サイズ、長期間培養による増殖能の安定度で分類される。           
合成生物学:組織、細胞、遺伝子といった生物の構成要素を部品と見なし、それらを組み合わせて生命機能を人工的に設計したり、人工の生物システムを構築したりする学問分野。

2. ビジネスモデル

主な収益はプラットフォームの提供であるが、オートメーション機器の販売も行っている(日本ではNikonが業務提携を行っており、「Beacon」の代理販売を務めている)。
プラットフォームの提供には実に3パターンあり、       

                                   
直接プラットフォームを購入する - プラットフォームの保証やライセンス料を一定期間で更新し、その更新料も含まれる。                                       
サブスクリプション形式でアクセス権を販売 - 通常2~5年で契約。       
戦略的パートナーシップ - 顧客と実質的に新しいワークフローを開発し、顧客のニーズに対応する。開発に協力した商品の権利の共有、またその商品から得られる収入の一部やプラットフォームライセンス料が含まれ
る。
2018~2019の一年間では直接購入からそれぞれ2120万ドル、3910万ドル(68%、69%)の収益がある。サブスクリプションからはそれぞれ0ドル、89,000ドル(両方の期間で0%)。
戦略的パートナーシップからはそれぞれ690万ドル、960万ドル(22%、17%)

3. 資金調達額

主だったインベスターにはLucas Venture Groupなどのベンチャーキャピタル企業、さらに株式会社ニコンが2018年のパートナー契約を機に9500万ドルの出資をしている。
現在の総資金調達額は1億8100万ドル

4. 財務

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                                                                                             (Berkeley Lights s-1)

5. 競合他社

デジタルバイオテクノロジーにおいて素晴らしい技術を持つBerkeley Lightsであるが、以下の4企業も現在同じ業界でその力を伸ばしてきている。
DanaherMenarini Silicon BiosystemsMiltenyi BiotecSphere Fluidics

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Danaher(DHR)
Danaherはライフサイエンス・医療診断機器、歯科医療機器・環境、応用工学など広い分野で工業製品・ソリューションを提供している企業グループだ。
Dabaherといえば30年間で400件を超える買収の多さ、またその優れた成長戦略で知られる。2010年に細胞スクリーニングや細胞分析などの細胞研究機器を提供しているMolecular Devicesを買収して以降細胞研究分野での成長並びに業績に関しても素晴らしい伸びが見られる。            また新型コロナ発生後にもFDA(アメリカ食品医薬品局)より認可された初のウイルス検査キットを開発し、検査時間の大幅な短縮や正確さで注目を浴びた。
株価に関しても今年3月で121ドルまで一旦落ちたものの、現在は過去10年で最高の185ドルまで値を上げている。
HQ:アメリカ合衆国、ワシントン.D.C
CEO:トーマス・P・ジョイス ジュニア
総売上:179億ドル(2019)
上場:NYSEにて上場
時価総額:1313億
                                 ・・Menarini Silicon Biosystems
1999年に創設され、2013年にMenariniに買収された同社は細胞研究機器の販売を手掛ける企業であり、DEPArrayという独自の画像ベースの細胞分類および分離技術により、研究者に単一細胞の分子分析を可能にしている。
また、同社の管理ソフトウェアは一人でも簡単かつ正確に作業を行えるユーザーインターフェースを導入しており、人や時間の削減に貢献する。HQ:アメリカ合衆国、ワシントン州シアトル
CEO:ニコロ・マナレシ
総売上:9300万ドル
上場:非上場
資金調達額:600万ドル
Miltenyi Biotec
Miltenyi Biotecは細胞研究の分野で基礎研究から臨床応用までエンド・トゥ・エンドで研究をサポートする最先端の製品とサービスを提供している。Berkeley Lights と同じく抗体の発見やT細胞を用いた細胞医療に特化しているが、Berkeley Lightsとは違い磁気活性化細胞選別という細胞分離法を用いて研究を行っている。
HQ:ドイツ、ノルトライン=ヴェストファーレン州ベルギッシュ・グラートバッハ
CEO :ステファン・ミルテニー
総売上:2.87億ドル
上場:非上場
Sphere Fluidics
Sphere FluidicsはBerkeley Lightsと同様に単一細胞分析を可能にするプラットフォームを提供するバイオテクノロジー企業だ。
抗体の発見、細胞株の開発や合成生物学研究などの分野で活躍する研究機器Cyto-Mineが同社の主力製品だ。1日で数百万の個々の細胞を自動的に分析、分類、分配することを可能とし時間やコストの削減に貢献できる。
HQ:イギリス、ケンブリッジ
CEO:フランク・F・クレイグ
総売上:約4100万ドル(2019)
上場:非上場
資金調達額:約1800万ドル


6. 市場環境

同社の見解によると過去20年間で細胞生物学の分野では次世代シーケンシング、単一細胞ゲノム分析、合成生物学などの大きな市場が生まれたが、細胞の機能を最大限に活用するための研究はまだ始まったばかりだという。
同社は抗体治療、細胞治療、合成生物学市場における細胞ベースの製品の売上高は2019年に約1,480億ドルに達し、2024年までに11%のCAGRで2,550億ドルまで成長すると予想している。

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*次世代シーケンシング(NGS):数千から数百万ものDNA分子を同時に配列決定可能な強力な基盤技術。次世代シーケンシングでは、複数個体を同時に配列決定できるなど高度かつ高速な処理が可能であることから、個の医療、遺伝性疾患、および臨床診断学といった分野に変革をもたらしている。


7. 提携パートナー/業績

• 2019年アメリカのビジネスマガジンであるFirst Companyによりデジタルバイオテクノロジー産業のリーダー的存在であるとして、「世界で最も革新的な企業」の一つとして選ばれた。

8. 新型コロナのワクチン開発にも貢献か?

同社は現在新型コロナウイルスの治療薬の開発をしている米国、中国、オーストラリアの大学や医療センターと提携しており、ヴァンダービルト大学医療センター(VUMC)ジェンスクリプトチャイナ(GenScript China)はコロナウイルスのソリューション開発に必要な抗体を見つけるため、同社のBeacon(R)プラットフォームを使い、患者の血液サンプルをスクリーニングしている。また、オーストラリアのクイーンズランド大学は、組換え型サブユニット・ワクチンプログラムの開発を促進する手段として、Beaconプラットフォームを評価している。
治療薬開発において従来のアプローチよりも迅速に製造準備を整えることができ、タイムラインの大幅な短縮につながると期待されている。    

                          (PR Newswire


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