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最後の切り札,EBMに基づいた医療,言葉の滞空時間

x(旧twitter)で「N数」という言葉に対する違和感のポストをみました。確かに言われてみれば耳にすることがあります。
"Number of number"って"King of kings"みたいな感じですね(いや,ちょっと違うか)。
余談ですが,三谷幸喜さんが「エントリーナンバー3番」というのが重複している気がして気持ち悪いので,「エントリーナンバー3」か「エントリー3番」と言ってほしいとおっしゃっていたのを思い出しました。

そういえば,Wordの文書校正が「最後の切り札」を重ね言葉として指摘してきたことがありました。「えっ?」と思って調べると確かに「切り札」に最後という意味があるので重ね言葉になるようです。
頭痛が痛い,とか,馬から落ちて落馬する,とか,重ね言葉とか重複表現と呼ぶそうです。

一方で,井上ひさしさんは以下のように書いています。

子どものころ、笑いの対象でしかなかったあの重複表現も、修辞学では「冗語法」といういかめしい名前をもった立派な技法の一つだということも知りました。

井上 ひさし. 井上ひさしの日本語相談

外国でもこの重複表現は使われていて,例えば
「耳で聞く(hear with one's ears)」,「目で見る(see with one's eyes)」
という表現があるように。
シェイクスピアもこの重複表現の愛用者で,『ロミオとジュリエット』のなかに、"I saw the world, I saw it with mine eyes."という台詞があるそうです。。

こうも述べられています。

似かよった意味の言葉、つまり類語を反復することで相手にそのことを強調しよう、そのことを印象づけようとするのではないか。べつに云いますと、似かよった意味の言葉を並べてその意味の滞空時間を長引かせようとするのではないか。もうひとつ、語呂のよさ、云いやすさをつくりだすために、意味の似かよった言葉をならべるときもあるのではないでしょうか。「後悔するなよ」と云うより、「あとで後悔するなよ」と云うほうが調子が整って云いやすいと思うからです。

井上 ひさし. 井上ひさしの日本語相談

言葉の「滞空時間」という表現にグッときました。

そういえば,我々の業界では,「EBMに基づいた医療」という言葉が使われることがあります。EBMがEvidence-based Medicineだから,「EBMに基づいた医療」はEvidence-based Medicine-based Medicine(エビデンスに基づいた医療に基づいた医療)になってしまいます。
そういう言葉を使う人はEBMが何の略なのかご存じないのではないか?と内容の信頼性まで損なってしまうような偏見を持っていましたが,あれも実は言葉の滞空時間を長くして印象づけるためのものだったのかもしれません。
つまり,「基づいている感」を印象づけたい,圧倒的基づいてる感!,悪魔的基づいている感を!

「N数」も,実は数を強調するため,滞空時間を長引かせるための言葉なのかもしれません。やはり数の暴力,Nの暴力(リンク先,一番下参照)


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