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老舗印刷会社の倒産

はじめに

老舗印刷会社、東京スガキ印刷が自己破産を申請しました。倒産の原因は複数の取引先の倒産に伴う焦げ付きが大きな要因です。この記事では、倒産の背景、他の会社が再現可能な対策について考察します。

東京スガキ印刷株式会社 hp

倒産とは

企業が経済的に困難な状況に陥り、債務を支払うことができなくなり、通常の事業運営を続けることが不可能になる状態を指します。倒産には主に以下の2つの形態があります:

  1. 破産:債務者が裁判所に申し立てを行い、裁判所がその財産を清算して債権者に分配する手続きを指します。

  2. 民事再生:企業が財務再建を図り、裁判所の管理下で再生計画を立て、それに基づいて債務を返済しながら事業を継続する手続きを指します。

経営状況の変遷

東京スガキ印刷は、創業1959年の老舗印刷会社です。2008年に新社屋を建て、パンフレットやカレンダー、パッケージ印刷など幅広い事業を手がけていました。2009年には売上高20億円、2017年には25億円超、2018年には28億4600万円を記録し、順調に見えました。しかし、純利益は数百万円程度で、ぎりぎりの経営が続いていました。

コロナ禍の影響

2020年の新型コロナウイルスの感染拡大により、飲食店やイベント業界が大きな打撃を受けました。これにより、東京スガキ印刷の主力取引先である大手外食チェーンやイベント関連の受注が減少。さらに、取引先からの値下げ要請も相まって、2020年7月期には最終赤字に転落しました。2022年同期、2023年同期も最終赤字が続き、資金繰りが厳しくなっていました。

取引先の倒産

2024年に入り、取引先の倒産が相次ぎました。1月10日には明和ベンディクス(埼玉県川口市)が破産手続きの開始決定を受け、約4800万円の焦げ付きが発生。3月1日にはスピンドル(東京・千代田)が破産手続き開始決定を受け、約640万円が焦げ付きました。これにより、資金繰りがさらに逼迫し、株主企業に資金支援を要請しましたが断られました。

引用:帝国データより
引用:帝国データより

自己破産の決断

最終的には、4月5日期日の支払手形の決済が難しくなり、自己破産を申請することとなりました。負債は債権者184人に対し17億713万円に上りました。帝国データバンクの調査によると、2023年度の印刷業者の倒産は全国で98件発生し、前年比1.6倍、2年前比2.1倍に増加しています。

引用:帝国データ全国企業倒産集計 2024年3月報

再現可能な対策

他の会社が同様の状況を回避するためには、以下の点が重要です。

  1. 多角化とリスク分散: 印刷業界はデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでおり、新しい事業領域への進出が必要です。例えば、デジタルマーケティングやオンライン印刷サービスなど。

  2. 資金繰りの管理: 資金繰りが厳しくなる前に、早期に対策を講じることが重要です。例えば、複数の資金調達ルートを確保したり、コスト削減策を積極的に実施すること。

  3. 取引先の信用管理: 取引先の信用状態を定期的にチェックし、リスクの高い取引先との取引を見直すことも重要です。

印刷業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の事例

以下に代表的なものを挙げます:

  1. オンデマンド印刷:

    • デジタル印刷技術の進化により、必要な時に必要な量だけ印刷するオンデマンド印刷が普及しました。これにより、在庫管理のコスト削減や、個別ニーズに応じたカスタマイズ印刷が可能になりました。

  2. Web-to-Printサービス:

    • 顧客がインターネットを通じて印刷物を注文し、デザインをカスタマイズできるサービスです。これにより、顧客は自宅やオフィスから簡単に印刷物を注文できるようになり、印刷業者は効率的な受注管理を行えます。

  3. デジタル・プルーフィング:

    • 印刷前にデジタルデータでプルーフ(校正)を行うことで、ミスを事前に発見し、修正することができます。これにより、印刷物の品質向上とコスト削減が実現します。

  4. 自動化とロボティクス:

    • 印刷プロセスや後加工の自動化が進んでいます。例えば、ロボットアームによる紙の搬送や、自動裁断機の導入などが挙げられます。これにより、人手不足の解消や生産性の向上が図られています。

  5. データ分析とAI:

    • 印刷業務の効率化やマーケティング効果の向上のために、ビッグデータやAI(人工知能)を活用する事例が増えています。例えば、顧客の購買データを分析してパーソナライズされた広告を印刷するなどが挙げられます。

  6. サステナビリティの取り組み:

    • デジタル技術を活用した紙の節約やインクの効率的な使用など、環境に配慮した取り組みも進んでいます。これにより、環境負荷を減らし持続可能なビジネスモデルを構築することが可能になります。

これらのDXの取り組みにより、印刷業界は従来のビジネスモデルから脱却し、新たな価値を創造し続けています。

おわりに

東京スガキ印刷の倒産は、印刷業界全体にとっても教訓となる出来事です。経営環境が厳しい中で、リスク管理や多角化がますます重要となっています。他の印刷会社もこれらのポイントを参考に、持続可能な経営を目指してほしいものです。

引用:2024/05/23 日本経済新聞 朝刊 15ページ

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