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天然素材で再生医療革命

セラックの可能性

再生医療の研究が進む中で、岐阜セラツク製造所名古屋工業大学が手がける新たな挑戦が注目を集めています。その挑戦とは、天然物質であるセラックを使った細胞培養材料の開発です。このプロジェクトは、医療や研究のコスト削減に大きく寄与する可能性があります。

岐阜セラツク製造所
名古屋工業大学

セラックとは?

セラックは、タイやインドに生息するラックカイガラムシが分泌する天然樹脂状物質です。これまで、チョコレート菓子のコーティング剤や工業用のニス、医薬品の錠剤コーティングなどに使用されてきました。セラックの特徴は、その多用途性と低価格です。

細胞培養への応用

細胞培養には、細胞が基材に接着することが必要です。セラックは元の状態では哺乳類細胞への接着性がありませんが、化学修飾により接着性を持たせることができます。この改良により、セラックはラミニンのような高価なたんぱく質由来の試薬と比べて非常に安価であることが判明しました。

引用:https://www.immuno-probe.com/laminin

価格の優位性

セラックの価格はラミニンの40万分の1程度です。このコストの低さは、再生医療や研究における大きなメリットとなります。例えば、iPS細胞の研究では、試薬のコストが大幅に削減されることで、研究のスピードと規模を拡大することができます。

セラックの特性

セラックは化学的に光に反応する性質を持たせることができます。光を照射することで接着性が失われ、元のセラックに戻るという特性は、細胞の分離と回収を容易にします。他の培養材料が酵素を使わなければならないのに対し、セラックは簡単に細胞を回収できるので、研究者にとって非常に便利です。

実用化への道

現在、間葉系幹細胞※での接着性が確認されており、今後はiPS細胞※でも同様の成果が期待されています。セラックは食品添加物としても広く使われており、体内に摂取しても問題がないとされています。この安全性が確認され次第、医療材料や食品素材などの企業と連携し、産業化を目指します。

※間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell: MSC)は、骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤など全身のさまざまな場所に存在する体性幹細胞で、自己複製能と分化能を持つ多能性細胞です。骨細胞や軟骨細胞、脂肪細胞、神経細胞、幹細胞などさまざまな細胞に分化できるほか、傷ついた組織に栄養となる成分を放出する機能も持ち合わせています。また、腫瘍形成の危険性が少ないことから、細胞や再生医療のための細胞源として注目されています。

引用:http://bij-net.com/index.php/mscs/

人間の皮膚や血液などの体細胞に、ごく少数の因子を導入し、培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化します。 この細胞を「人工多能性幹細胞」と呼びます。英語では「induced pluripotent stem cell」と表記しますので頭文字をとって「iPS細胞」と呼ばれています。

引用:https://www.glycoforum.gr.jp/article/23A13J.html

広がる用途

  1. セラックは再生医療の試薬としてだけでなく、培養肉骨折治療のインプラント材のコーティング材としても活用が期待されています。また、以前はレコード盤の素材としても使用されていたセラックですが、プラスチックに押されて需要が減少していました。しかし、今回の研究で再び注目を集めることとなりました。

培養肉

成功のポイント

このプロジェクトの成功のポイントは、以下の通りです:

  1. コスト削減:セラックの低価格による研究・医療コストの大幅削減。

  2. 多用途性:医療から食品、工業まで幅広い用途での応用が可能。

  3. 安全性:食品添加物として広く使用されており、安全性が確認されている。

  4. 簡便性:光照射による簡単な細胞回収が可能。

これらのポイントは、他の企業や研究機関が同様の成功を収めるための重要な要素となります。

まとめ

セラックを使った細胞培養材料の開発は、再生医療や研究のコストを大幅に削減し、新たな医療技術の普及を促進する可能性があります。岐阜セラツク製造所と名古屋工業大学の取り組みは、他の企業や研究機関にとっても大いに参考になるでしょう。

細胞培養材料市場について


バイオテクノロジー、薬学、医学研究などの分野で使用される細胞を培養するための製品やサービスを提供する市場です。この市場は、細胞培養に必要な様々な種類の培地、血清、試薬、容器、装置などを含みます。細胞培養技術は、疾患の研究、新薬の開発、再生医療、ワクチン製造など、多岐にわたる応用があります。

市場の成長

生物医薬品の需要の増加、組織工学および再生医療の進展、研究開発投資の増加、細胞ベースのスクリーニング方法への関心の高まりなどによって推進されています。また、3D細胞培養技術の進歩は、この市場のさらなる成長機会を提供しています。

市場の主要なプレイヤー


Thermo Fisher Scientific Inc.、Merck KGaA、GE Healthcare、Corning Incorporated、Becton, Dickinson and Company (BD)などがあります。これらの企業は、高品質な細胞培養製品の提供、新製品の開発、および技術革新を通じて市場で競争しています。

細胞培養材料市場は地域によっても異なりますが、北米が最大の市場を占めており、ヨーロッパ、アジア太平洋地域がそれに続いています。アジア太平洋地域では、中国、日本、韓国が市場の成長を牽引しています。

2023年の時点で、細胞培養材料市場は引き続き成長しており、今後数年間でさらに拡大すると予測されています。この市場の成長に伴い、より効率的で革新的な細胞培養技術や製品の開発が期待されています。

引用: 2024/05/25 日本経済新聞 地方経済面 中部 7ページ
サムネイル写真:http://www.gifushellac.co.jp/?cat=4&p=39


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