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銭湯日和
昔の自宅のお風呂はエコキュートなんてものはなく、ボイラーで湯を沸かしていたものだ。
我が家に外にはボイラー用の給油タンクがついてた。
しかしこのシステムは非常に脆かったと思う。
私が保育園のころにはボイラーが壊れて水しか出なくなることもしばしば。
夏なら水風呂でもまぁ凌げるが、冬は極寒だ。
オマケに今の浴槽ほどの保温効果もありゃしない。タイルというかコンクリの風呂場で冷たいのなんの。
体を温めに行ったはずなのに底冷えしてしまうくらいの場所であった。
冬に壊れたら流石にってことで近所の銭湯へ連れてってもらったものだ。
……わたしにとってそんな銭湯は遊園地にちかい。
とてもラッキーな場所。いいことづくし。
しかし、母と行くとカラスの行水並に早いので、なるべくばぁちゃんを誘っていったもの。
ばぁちゃんにとって銭湯は【医者並の信頼】があったので週に4回以上。よく行ってた。
いつも夕方頃にばーちゃんはいく。それ目掛けてばぁちゃんちに行くと連れて行ってもらえる。
「ばーちゃん!温泉いこー!わたしもいくー!」と勝手口から声をかける。そうするとにこにこしながら手ぬぐいを1枚多く持って出てきてくれる。
ばーちゃんは「ビヨは私に似て温泉が好きやなぁ。気持ちいいもんなぁ」と嬉しそうに手ぬぐいを首に巻いてくれた。
ばーちゃんといくと長湯もそうだがいろいろラッキーが多いのである。
それをわかってた。子供ながらによく頭がきれた方だと思う。
昔ながらの銭湯。
ひとつの大きく湯と描かれた暖簾がかかる入口から男女に分かれる。
すのこが敷いてあり、そこで靴を脱ぐ。
すのこが変形しているのでカコンカコンと足を載せる度に木がなる。火の用心の拍子木のよう。
さらにしゃらしゃらのついた暖簾とレースの暖簾をくぐると
【いらっしゃい。ゆっくりしていきまっしね。】
とまあるく曲がった背中をさらに曲げてと言われる。
番頭でお金を払う。当時の記憶が曖昧だけど80円くらいだったと思う。私は昔番頭に座って見たかった。
目の前にくじ引きみたいなナイロンタオルと書かれた台紙がたれさがり、番頭さんの前にラジオがなっていてカゴの中には牛乳石鹸があったりなんだかすごく特別な感じでいいなぁと。思ってた。
番頭のおばあちゃんが男女構わず話しかけている。
私の見えない向こう側を見れてるのもなんかいいなぁと思ってた。向こうに何があるのか知りたかったのだ。
子供の頃はそういうのわからないからね笑
秘密にされればされるほどみたいものである。笑
わたしもばあちゃんのお陰で顔見知りだったので
「あら!この子は外孫やね?あったまっていきまっしー」
と、言われた。
ぺこっと頭を下げてまじまじと番頭を覗く。
椅子にパッチワークの座布団が可愛いと思った。
ばーちゃんと場所を探す。
服などを入れるロッカーは食パンの閉じるタグみたいな鍵で書類を止める紐?みたいなのが付いたもの。
それと、藤の蔦かな?を上手く編み込んだカゴ。
それに服を入れる。
床は簾のような床ですこしだけ素足で歩くとペトペトする。
大きな横鏡には広告の印刷があったり、座るドライヤーもあった。今はあまり見かけないけど、でっかい時計のような体重計もあったし、身長測るやーつもあった。
鏡の後ろは男の更衣室で鏡の壁は天井との空間が空いていてそこから声をかけたりするのが日常だった。「もうでるぞー」とか「タオルお前んとこあるやろ!?」とか「下着ねーがいや!そっちんねーがんか!?」とかね?
なのでどこのだれさんが来てるとかなんとなくわかった。
お風呂へと続くひき扉は重いガラスで水垢で霜降り。
その手前の床は人工芝より硬いプラスチックのやつが引いてあった。さぁスッポンポーンになったらお風呂へGO!
入口入ってすぐにケロリンの椅子と桶があるのでそれを持ち洗い場へ向かう。
蛇口がお湯と水とある。例えるならゲームセンターなどにおいてある対戦ゲームのレバーステックみたいなのがついている。
お湯だけだと熱いので水をいい塩梅で桶の中で合わせてあげる。
シャワーはあったけど当たり外れがある。
とても水圧の弱いものから、肌貫通するんじゃないかと思うくらい強いものまで。なぜかあべこべ。シャワーヘッドも壁に埋め込まれたものからホースがついたものまで。それだけ歴史ある銭湯なんだと思う。
そして、そこまで広くないのでシャワーを使うより基本は桶で全て終わらせる。
まずは体を洗い流して浴槽に行く。
よーく洗わにゃダメやぞと言われて育ったのでちゃーんと洗う。最初の桶のお湯は自分好みにぬるま湯でかけ流す。
まずはぶくぶくのお風呂。
これが結構の熱さ。とくに冷えた身体には全身が痺れる。
足をちょんちょん入れては飛び出して慣れてきたら腰を落としては飛び上がる。これを繰り返す。
……ここに入らねば遊べないので我慢して、はいる。
母と来ると「はよ入りまっしね!」と言われて姉に背中にお湯を掛けられてキャッ!と痺れていい思いしないのだけど、ばーちゃんは優しい。「ゆっくり慣れてきまっし」といってくれるのでちょんちょん飛び上がることを許してくれる。まるでチンアナゴのように出たり入ったりして慣れていく。
慣れれば気持ちいい。
ボコボコ音が脳裏にまで響いてくる。
はぁ~!極楽極楽!
そういうとばーちゃんも嬉しそうにする。
浴場も天井が空いていて男湯の声も聞こえる。
ガコンカコンと響く音。
ジャーーーーー!!と勢いよくレバーを押した音。
子供のキャキャする声。
歌っちゃうおじいちゃんの声もね。
家のお風呂より広くて賑やかでよく響く。
日常と違うことが楽しかった。ブクブクの泡を手に貯めたりして遊びながら入れた。浴槽としては6人くらいでギューギューなぶくぶく。入ってくる知らない人おばあちゃんから気持ちいいねと話しかけられたりもする。
お歌歌ってとも言われることもある。夕方の銭湯は子供がアイドルになれる。
そんな田舎の銭湯だった。
ポカポカになったら、
ばあちゃんはいつもサウナに入るので私は水風呂で遊ぶのだ。
これが最高に楽しかった。
熱々の湯から水風呂にダイブすると肌がぎゅーーーっとなるその感覚がたまらなくよかった。
超贅沢!あつあつとひやひやを楽しめるのだ。
手だけをアツアツに 体はひんやり。
このばぁちゃんが出てくるでの時間がわたしにとっては遊びの時間だった。
ばぁちゃんが出てきたら水風呂からあがり頭などを洗う
冷えた身体に温泉を桶でジャバーとかけられる。
痺れる感じももう楽しい。
石鹸で泡を立てる。
髪の毛で遊ぶ。それも怒られないからばーちゃんと行くのが好き。そしてばーちゃんはお隣さんとアカスリをする。
私は手ぬぐいと、泡で遊びながら体を磨いていく。
全てがおわったらなんだかぼんやーりとのぼせてくる。
しかし最後に30秒 唯一この銭湯で見た目にこだわってる岩風呂にはいる。
洞窟みたいな雰囲気が幼少期こわかった。(笑)
岩からジャバジャバとお湯がでている。薄暗い。
誰かおるなら入れるけど1人は絶対無理やと思ってた。
ここで肩まで入って30秒かぞえる。
ばーちゃんいわく 私は親族の中でも30秒数えるのが早い方だったらしい。かてこや!(賢い子)と頭良くなると言われてたそう。
……まぁそんな期待をうらぎるのだがね?笑
お風呂から上がったら出口の人工芝より硬いプラスチックのところで20回ジャンプして水滴を落としてタオルで拭く。
ここからはモタモタしない。
なぜなら湯上りにいつもばあちゃんが瓶の飲み物を買ってくれるからである。
コーヒー牛乳の紙蓋をあけるのも楽しかったけど、すごく長くてメロンソーダみたいなジュースを買ってほしいとお願いした。なぜなら王冠の裏にゴムがついててそれを千枚通しでめくると当たりやハズレがかいてあったのだ。
それがしたくてしたくて。
しかしこのメロンソーダがでかい。でも!王冠めくりしたい。残すことは許されないのでおなかぱんぱんになるメロンソーダを飲んでいた。
ばぁちゃんはイス型のドライヤーにすわって宇宙旅行。
わたしは足つぼ用の竹に乗りながらメロンソーダを飲み干す。
それがいつものルーティンだった。
帰りはもう夜になっているのでばあちゃんと手を繋いで帰る。
この時はだいたいばぁちゃんから歌をリクエストされる。わたしは育園で習った歌を聞かせてあげる。
ばあちゃんは 上手いね上手やと褒めてくれるので思わずスキップになる。
夜の風が頬のほてりを優しく撫でてくれる。
石鹸の入ったおけがカランコロンと音がする。
濃藍色の夜空を見上げると白い息とキラキラ輝く星空が拍手をしてくれているようだった。
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