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新年、結婚の奴、猫おばさん_m

書いておかないとすべてのことを忘れてしまうため今年はちょこちょこ日記を更新していきたい、と思いつつ、今年ももう10日も経ってしまった。元日から能登で大きな地震があり、飛行機が炎上して、旧・田中角栄邸が燃え、篠山紀信が亡くなり八代亜紀が亡くなった。今年いろいろありすぎでは…。

正月は母・弟と温泉に行った。なんとなく家ががらんとしており、「いつものお正月」との対比が明らかになってしまうことを避けるような感じで母が連泊を提案したのだった。「ひなびた」というほどの味もない、老朽化して規模縮小してなんとか営業している昭和的あまりに昭和的な温泉旅館は露店風呂が壊れたままで庭は荒れ放題。昔は1日何往復もしたという旅館の名前入りのマイクロバスは運転する人がいないまま放置されていて、送迎がないためタクシーで向かった。

タクシーの運転手さんは90歳ぐらいと思しきおじいさんで、助手席に私物がいろいろおいてあって足元にティッシュ箱とかが転がっているので一寸乗るのを躊躇していたら「はやく乗って~」「乗ってって言ってるのに~」と方言で6回ぐらい言っていた。そして乗ったところでシートベルトをしめようとしたら「シートベルトしないで~」と言われた。

聞き間違いかな?と思ってシートベルトをしめようとしたらもう一度「シートベルトしないで~」と言われたので、頭に「???」を浮かべつつ、シートベルトをしないでおいた。旅館はそこそこ山の中にあるので坂道がスリリングだった。運転手さんは能登半島地震への同情をしきりにのべつつ、ほら、あそこに見える病院には、東京から新幹線でえらいお医者さんが毎日通ってきてくれているんだ、ありがたいこっちゃ、と自慢していた。

なぜシートベルトをしてはならないのかはよくわからなかった。しかし人間はあまりに予想外のことを言われるととっさに聞かなかったことにしてしまうんだな、と思った。

テレビは1日目はずっと能登一色でおなじ映像が何度も流れていたが2日目からは通常営業になっており、逆に能登の情報がぜんぜんわからず、熊本のときと比べても能登のことを忘れ過ぎではないかと思った。SNSでは「自粛ムードはよくない」との意見も流れてきていたが、極端すぎて怖かった。

仕事はじめで海外のエージェンシーの方から「大きな地震があって驚きました。一人でも多くの命が救われることを祈っています」というようなメールが来ていて「Me too」と思ったが、こういうとき、日本代表みたいな顔で返事していいのか、まぁそう返事をするべき場面なのは明らかではあるが、いつも迷う。どのツラさげて日本代表みたいな顔をしているのか。なんにもできていないくせに恥ずかしい。しかし突然日本代表みたいな顔をしなければならないことはたまにあり、自分でもバカまるだしだなと思いながらそういう顔を作っていることがあり、とかくこの世は生きづらい。

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昨年、能町みね子さんの『結婚の奴』という本を読んで面白かったので多くの人に読んでほしいと思って何かを書こうと思ってすっかり忘れていた。
恋人として好き合っているわけではないサムソン高橋さんと「結婚(仮)」をして同居するという話で、まずサムソン邸に能町さんが引っ越してくる当日にめちゃめちゃ下痢をしているところからはじまっていて最高だ。『細雪』の雪子が結婚して東京に向かう列車の中でしかし下痢がぜんぜんとまらない、という「はあ?」と思わず椅子から転げ落ちそうになったラストシーンとの連続性を勝手に感じた。そこからなぜ偽装結婚にいたったのかという因縁と考察へと話は遡っていくのだが、章タイトルが「ハーゲンダッツ」とかぜんぶカタカナ7文字になっていてかっこいい。センスがある。恋愛とか惚れた腫れたという奴を見よう見まねでやってみるのだがイマイチ「こうですか? わかりません!」とよくわからないまま終わる、という黒歴史にはいたたまれない気持ちになりながら共感するところが大きかった。そして突然雨宮まみさんが出てきて手に汗をかきながら読んだ。

それでまぁいろいろすごい面白かったので、『私みたいな者に飼われて猫は幸せなんだろうか?』も読んでみたんだけど、こっちは猫で頭がイカれた人間のイカレ具合が伝わってくる好書で、こんな本を書いてもいいんだ?という頭のネジゆるゆるの感じがとてもよかった。人間への恋愛は違和感だらけでも、猫は無条件に溺愛できるのだった。いかなる毅然としたフェミニストでも、こと猫になると「いい子でしゅね~~~~ ママのことが好きなのね~~~ ママもだいしゅき~~~~♡♡♡」みたいな感じになってしまう人のことを私も知っている。猫にはそれが許される。人は猫に対しては無条件の愛を注くことができる。という話だ。

人間は2つに分類できる、猫おばさんか、そうではないかだ、と本に書いてあった。能町さんは自然に猫おばさんになるタイプで、サムソンさんは自分も自然と猫おばさんに変身しまうのだろうかと思っていたけれど、実際に猫を飼ってみたら、猫を胸にいだきながら「家畜としては可食部分が少ないな」とか考えていた、というから猫に関してはサイコパスだったという。私は自分もかなりサイコパス寄りなのではないかと(そうではないといいのだけど)疑っている。…といいつつ、なにか、ひとは猫を飼うと別人格みたいなものが生まれてくるものなのかもしれない。

【オーディブルで聞いたものメモコーナー】

・津村記久子『うどん陣営の受難』
すぐに聞けて笑える。ゆるくてきびしいにっぽんの会社。こういうの好き。うどんおいしそう。とにかくうどんが食べたくなる。

・夏目漱石『こころ』
なんとなく聞いてしまったけど思ってたよりスリリングで面白かった。先生の手紙ながすぎというか小説の地の文と手紙の文との間に差がなさすぎなんではとは思う。

・向田邦子『思い出トランプ』
名文だけど昭和という時代の雰囲気にとイライラして脳の血管が度々きれそうになるので途中まででやめるかもしれない。

・永井紗耶子『木挽町のあだうち』
直木賞受賞作ということで。すっごいわかりやすいエンタメ作ではあって最後まで聞いてしまったけどなんかうまく行き過ぎ。

・森永卓郎『ザイム真理教』
ぜんぶ財務省が悪い。

・平田はる香『山の上のパン屋に人が集まるわけ』
年商3億はすごい。めんどうくさい人間はすごいな。

・安宅和人『イシューからはじめよ』
イシューがめっちゃ大事なことはわかったがそうかんたんにイシューがわかったら世話がない。

・綿矢りさ『嫌いなら呼ぶなよ』
全編ヒリヒリしてイヤ~~な感じになりつつ「いいぞもっとやれ」と笑いがこみあげてくる。

(m)






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