あぜかけ姫

国をもうさば、するがの国、たけき、しょうやの、ひとり姫

その名も、たゆたかい、さよてる姫

御年つもりて、14歳、

器量、姿は世にすぐれ

なににとりても、くらからず

それは、さておき、かわちの国にもり聞こえ

かわちの国は、ささごうり、かみなかむら、,13?代伝わる

浅村長者の、その末は、あさわか丸と縁談をくみ、

夫婦仲もむつまじく

親の喜びはいかばかり

家は円満に栄えゆく

何にとりても、くらからぬ

さよてる姫は七夕御前の申し子で

女のことなら、何ひとつとて、ふそくはない・・・・・

その由ながめて、姑御前

あ・・・・・さては、みごとな嫁

こうゆう嫁女は願ても叶わぬ

よい嫁とは思えども、思い廻せばなさけない

我が子の白菊、一針も縫われぬ、何もしらぬ我が子

こうゆう発明な嫁女をもろおても、(くらべれば)親子の恥

娘が知らぬは、母親の恥、親が知らぬは、13代の家の名折れ

思い廻せば、かの嫁女、うちの嫁にはよすぎる

どうがないたして、この嫁を、追い出さねば

親子の恥となる

どうして、この嫁を追い出そうか

いかがわせんと

五日、七日、十日と様々に思案をいたせども

要としてこの発明な嫁を追い出す工面はさらになし

何か落ち度をとらえんとしても

とんちのはやくくる嫁がさとる、きげんをとりなおす

いかがせんと、姑御前

あ・・・・あ・・・・そうじゃ、そうじゃ、思いついた

これより48のあやあぜを申しつけたら

たかでしれたる、苦しさに

我が子の娘も17歳

我が子が知らぬゆえに、同じく14歳といいながら

あやおり、など、なんの知るものか

あやのあぜかけ、かからぬことであろう

そうじゃ、そうじゃ、48のあやを申しつけて

かからぬことを、これを、因縁として、おいださんと

それとは知らぬ、さよてる姫は

姑様、姑様ともてなすこと、かぎりなし

口には優しく、申されても姑御前

ある日のことに

嫁女、急用と呼ばれ

ゆめ、はや、とるものもとりあえず

姑御前と上がり行く

姑の居間になりければ

からかみ、障子をふんわりと開き

両の手をついては

つむりをさげ

申上げます母上様

只今これに、まいりしは、この家の嫁で候

ご用のしだいは、いかがに、候と申す言葉に

姑御前、お・・・・お・・・・・誰かと、思えば

なつかしや、嫁女

そなた、招くも他でもあらず

もそっと、こちらえ、ちこう、よらしゃれ、

そなたを、今日、招いたりもなーーたのみがあることじゃ

他ではござらんがーーこのごろ、せがれに

天下よりの厳しい、申しつけがござりました

その、申しつけともうすもなーー

ぶつろくきょう、という役を申しつけられた

上様からの申しつけられることは

金銀つんでも願うても叶わぬ

この申しつけ、家のほまれ、親は名誉、そなさんは、なおなお、名誉でござる

しかしながら、それをつとむるにはなーーー

48のあやで織り上げたる、上下がなくては、ならぬ

それゆえに、そなさんに、48のあやの上下ありあげ、したてて、もらおうと

たのんだのじゃ、それたのもうとしても

なかなか、日にちが迫ってきて、どうしても、3日のうちに

おりあげてもらわにゃならぬ したてあげてもらわにゃならぬ

どうでござる、嫁女

そうゆうことでござりますか、しからば、かのうか、かなわぬかわしらねども

我つま様のやくぎがつとまるのなら

我つまがつとまさるるも

貞女の道、家のならいでもござります

それでは、どうがないたしても

3日のうちと、もうされるか、

3日のうちに、したててもらわにゃ、まにあわぬ

さようでござりますか、どうがないたしましょう

そうか、そりゃ・・・・・ありがたい、うれしい、では、たのみますぞ

さても、15のあやの糸をとりいだし、嫁にさしだした

嫁は受け取り、我が部屋をさして、さがりゆく

ああ・・・母上様の無理なお言葉

3日のうちとは、少し無理とは思えども

我つまの事ならば、国元の生みの母親から

早道でおしえてもらったこともある

母の早業でかくるなら、なんの・・・3日かかろうに・・・

3日のうちに、織り上げ仕立てて、母上に

みせかけん、そうじゃそうじゃと・・

糸をひきつ、もつれつ、くみたてて

48のくだにくるうつす

48のあやのあぜ、よりつ、もつれつ、ひきあわせ

ひとあぜかけては、唱名となり

ふたあぜかけては、ふうふ、なかよく

あぜをかけては、念仏唱え、南無阿弥陀仏 みだ仏

みあぜかけては、我身の為

よあぜかけては、よそごとのように、気はやさしくかけてゆく

ごあぜかけては、いつも、わがこころ、他を思い

ろくあぜかけては、無理なあぜとしらずして

ななあぜかけては、なんぎのこと

はちあぜかけては、はじになるとは、ゆめしらず

ここのつかけては、49の血を吐くような

なんぎ、くろうとも、しらずして

とおあぜ、15,20とかけてゆく

20はおろか、25や30,30や35,38,40のあぜも

なんのその

話は変わりて、姑御前

まてよ、たかでしれたる、14じゃ、15で

あやの糸をやすやすと、うけとっていたが、

かけがでくるかの・・・・・

あ・・・あ・・・気安く、やさしく、うけとったが

まだ、年若で受け取るとは思ったが

何もいってまいらんから、どうゆうことをしているか

しのんで、のぞく見てやろうと

姑御前、よせばいいのに、足音忍んで、嫁の部屋をさして、しのびゆく

次の一間になれば、息をころして、じっと、隙間から、のぞいてみますると

これは、おもしろいことをしておる

ものにたとえてみるならば

嫁女が40のあやをかける、その手際

小鳥がものをついばむような、おもしろい手際

いや・・・なんとおもりろや・・・・

みるに、びっくりぎょうてん

あ・・・どうゆう、また、えらい、嫁じゃ

このまましておけば、なんの3日もかかるものか

3日もかからん、3日のうちにもおりあげしたててそまうは・

この、あぜ、かけさせては一大事、どうしようか、

おおお・・こうゆうときの神頼み

これより、氏神八幡様に、今宵、丑時参りをいたすなら

いまから、だれも、ねかどき

人の寝息を忍んで、明神様、氏神様に参拝して

かならず、この手48のあぜをひとてなりとも、ふたてなろとも

忘れさせてもらおうと、思い立ったる、姑御前

氏神八幡様といそぎゆく

時は九つ過ぎて、もはや、丑時もかかる時刻

はかりて、いそぎゆく

氏神様になりければ、うがい、ちょうずで身を清め

あらたの、わにぐち、を打ち鳴らし、十のれんげをもみあわせ

なむやもうさん、八幡様

ただいま、これに、まいりしは、13代伝わる、あさむら長者の母親ござります

このたび、せがれの嫁にもらいうけたる、嫁女14歳

我が子娘も14歳

もらった嫁女と我が子を比べてみるならば

まさしく、あけとくれ

我が子は何のもしらぬ、何もかないません、

嫁女と申しても、それを、思えば

48のあやのあぜ、このまましておけば、かくるにちがいはございません

この、あぜ、かけ、おりあげしたつるものならば、

親子の恥、親の恥は13代家の恥

どうがな、いたして、嫁女のあやのあぜ、

どうぞ、一手なりとも、二手なりとも、かくして、わすれさせてくださりませ

忘れさせて、たまわれば、

所願成就に、御身の馬場先に、石の灯籠、千灯籠
              
からかみ灯籠、千灯籠

銀の灯籠、千灯籠
              
三千灯籠
   
それでも、ご承知賜らねば、其の、所願成就に

              杉苗、千本、桜、千本、松、千本

三千本の植木を寄進奉る

それでも、ご承知たまわらねば

あやの、どんちょう、ななながれ

錦の緞帳ななながれ

それも、ご承知ならん、ものならば、

あやの旗、七結び、金の旗、七結び

それでも、ご承知ならぬものなれば、

まだまだ、寄進、たてまつる

忘れさせて、たまわるか、八幡様

いかがでそうろうと、愚痴をならべたて、ならべたて

祈念、一心不乱の姑御前

時はちょうど、丑の頃に

神殿の扉は、風も吹かずに、ギリーギリーとあかる

神殿より老人一人

顔には光の波をうたせ、腰には、梓の弓をはり

ゆわさかさまの、竹の杖

70じゅうの坂を上られたる、老人

しずかに、よろばいよろばい、とあらわれる

やーーーーいかにも、あさむら長者の母親とやら

そなたの願いは何から何まで聞き及ぶ

末社の氏神方、神方と話をしてみれば

そなたのよんだる嫁女は

七夕姫の申し子で、女のならいは何をとっても申し分はない

不足はない、そうゆう嫁女をよびあわせたは

ねごうても、かなわぬ、そなたは、果報者じゃ

それゆえに、よいことを、おしえてやる

そちの、娘は何か、何にもわからぬなら

嫁女、我が子は何にもわからぬ、知らぬ

我が年によって、教えられぬから、そなたが、母親になりかわって

教えてくれ

そなたが、たのんだら、そちの娘は妹、よんだる嫁は姉になる

兄嫁だから姉であろうが、それゆえにな・・・

教えるは姉のならい、姉に従うは、妹の道じゃ・・

頼むは、親の慈悲なるぞ

悪いことは申さぬ

早く、たち帰り

そなたが、そうゆう、思い立ちをいたさぬは、

家は左前になって、つぶれてしまうのじゃぞ・・・・

早くかえらっしゃい

我をだれ、とおもいしか

我は汝が、いつもいつも、朝夕にたのむ

氏八幡とは、この身であるぞ・・

疑いあれば、これを見られよと

我身、我が姿、見たならば、得心ができるであろうと・・

姿をパッと

消したる、老人の姿、八方には光明、こうこうと照りわたる

老人の姿、雪、清水のごとく消えたまう

後に残し、姑御前

もうし、もうし、八幡様

聞こえません、聞こえません

これほどたのんでも、ならんと、もうさるうのか

これほど、たのんでもならんと、あるならば、

これより、御身のため池に飛び込んで

この身は八千代の大蛇となって

八幡様、参詣のある人は男女もろとも、ご成人も幼子も、へだてなく

かったっぱしから、のみころしてしまう

飲み殺しても、後で後悔なさるなよ、八幡様と

ため池さして、とんでゆく

泉水、そばにと、たちよらん、とするときに

八幡様、その場にあらわれて

姑、待て、浅ましき、親じゃのう

まてまて、一人つぶすのも、かわいそうなことじゃが

そなたの嫁、一人と、諸万の参詣人とはかえられぬ

これほど、いっても

どうしても、そなたは、嫁が憎いものか

他に憎いものはございません

申上げたととうり

それは、わかっておる

しからば、どうしても、嫁女を憎まねばならぬのか

女の一心、岩おも通す

おもいたったること

女の念力、八幡様、是非、叶てくださりませ

ならんと、もうしたけれど

ひとりの女と万人はかえられぬ

しかし、一言いっておくぞ、そrが、承知ならかのうてやる

その嫁、そなたが、憎んだなら

我は神の身で有るから、必ずや、罰も恨みもいたさねど

天の報いがめぐってくる

3年たつや、たたないうちに、そなたの家には天火が天下り

家は丸焼け、そなたは、両眼やかれ、かわいい娘は気かふれて

火中でしんでしまうぞ

よいのか、

どのような、ことが、あろうとも、

八幡様、たとえ、親子もろとも、死のうとも

思い立った念力

しからば、屋敷はくろふす、のはらとなっても・・・・

くどいことでございます

どのようになっても、この場がたてば、よろしゅうございます

おおお・・それほどまでに、思い立ったら

よーし・・かのうてやる、かのうてやるから、

早く帰り

はい、必ず忘れさせてたまわれ

必ず隠してやる、今、ゆうたこと、先で、恨むなよ、・・

我はくれぐれも申した

汝の氏神八幡なるぞと・・・そのまま消えてゆく

ゆきがた知れずに消え給う

後に残りし、姑

ああ・・ありがたいと、ふしおがみ、両の手をあわせ

我が家をさして帰り行く

話は変わって、浅村館、さよてるは

夜も眠らず、かけてはみたが、47まではかけたれども

8のあやあぜ、かんじんのひと手、、、はった・・・と忘れ

あわれはここに、さよてるどの

ああ・・おもい廻せば、なさけない・・

ただいままでも、いままでも、おぼえていたる、このひとあぜ

どうして、忘れたか、如何なる、悪魔の仕業かな

どうしたなら良いものかと、3度5度6度7度

かけてはかからぬ、このひとあぜ、48のあやのあぜ

いかがわせん、これより

国に帰り、国の母にたずぬるなら

それは、こうじゃ、こうこうであるぞ・・と

手をとって、教えてもらおうが

いかがわせん

この、あぜ、かからぬは

母に申し訳がない、いかがせん、義理の母

あああ・・おもい廻せば、なるほど、

家を出でて、この家にくる、その時に

再びどのようなことが、あろうとも

親の家には再び帰るな、姑様を生みの母とたより

なにごとにも、母に尋ねよと

必ず、姑様に教えられることならば

そうで、ありましょうと、

習うが、嫁の道

わからぬものは姑様に尋ねよとの母の言葉

姑様を生みの母とたよれと、母がくれぐれもゆうてきかせた

おおおお・・

この上からは、姑様に習わんと

かからぬ、あぜ竹・・手にとりて

姑、部屋へとあがりゆく

姑の居間になりければ

からかみ、障子をふわり、と開き

よろしゅうございますか、母上様とつむりをさげる

申上げ益母上様

おお・・嫁女なるか

母上様、面目次第もありません

何事

おおせつけられたる、48のあやのあぜ

おお・・そのあぜがどうした

はい、47までは、かけましたが

おくの一手、はった、と忘れてしまいました

母上様、かなわぬこととはいいながら

48のひとあぜ、おしえて、くださりませ、おねがいいたします

その、よし、聞くよりも、姑は心の内で

あは・・・あああ・・ありがたい、ありがたい・ありがたいわい

八幡様の御利益か

心の内では大喜び、大笑い、顔にはださぬ

何をいいやるか、そなた、48のあぜ、47までかかった

8のあぜが、かからぬ

はい、どうぞ、おしえてくださりませ

教えることは何よりやすいわい

いつもであったら、おしえてもよかろうが

若いときは48のあぜ、かけていた

かけていたとはいいながら

60すぐるとな、いうも、目がうすくなって、こまみえがする

其れで、教えるというても

日が迫っておるのに、なかなか、教えては、間に合わぬ

何ぞや、嫁女、この家をなんとおもおておる

そなたは、13代伝わる長者の嫁

たかでしれたる、48のあやのあぜがかからぬ、

どうして、人の家の嫁になっている

家風に合わぬ

せがれに成り代わって、只今限り、破談にいたす

とっとと、でていかっしゃれ

嫁ではない、姑ではないぞーーー

早くいかしゃんせ

言葉をかわすも、けがらわしいと

障子ぴしゃりとしめきって

姑、おくの部屋へとはいりゆく

哀れ、ここに、嫁のさよてる・・・・・

泣く泣く、姑の部屋をさがりゆく

我が部屋になって、思案を致す

ああ・・この上からは、姑様よりも、しかられる

小姑様に尋ねれば、と、まだ、かからぬ、あぜ竹手にとりて

妹の部屋へといそぎゆく

妹の部屋になりければ

申上げます、白菊様

おお・誰かと、思えば姉上様、なにかご用で

おゆるしくださいませ

かようこのとうりでございますと・・

どうぞ、48の一手おしえてたまわりませ

何、姉様、47まで、かかって、8はかからなかった

おお・・・それは、おきのどくのことじゃ

教えてあげようと思います、しかしながら、母がおしえぬその一手のあぜを

親が教えぬのに、子の娘が親をそこのけして

どうして、教えることができようか

兄嫁と言いながら、たかで、しれたる、そのあぜが、かからぬして

御身はここの、兄嫁といわれますか

親の教えぬことは、この身であって

親をはねのけて、教える道はござりません

さあ・・・兄嫁さまではござりません、これよりも

母が教えぬことなれば

さても、母から離縁と申されたか

そうゆうことならば

赤の他人、なんで、教える道理が有るものか、見るも汚らわしい

とっとと、この場を出てゆかすあんせと・・・

又もはねつけられて

我が居間さして帰り行く

又もあぜたけ、くみたけ、かけては、又かけて

いかほど、かけても、よりても、8のあぜ、かからぬ

神の力といいながら、さよてる

そうゆうこととは、夢知らず

ああ・・是よりも、国元に帰り

母上様に尋ねるより他に無し

母に尋ね、ならって、このあぜかけ、おりあげれば

ゆかんとしたが、

まてしばし

我が古里までは、45里のながの旅

ろ、かいでゆく、船では5日3日では間にあわぬ

いかがわせん、この上からは、いっそのことに家出しようか

我身すてようか

たとえ、我身すてても、家出しても

このあぜ、かけずに、行くは、無念残念、口おしや

おお・・・この上からは、我が妻様に、訪ねてならおうか

いやいやまてまていましばし

武術のことならば

そうではない、こうであると、

我が妻も手をとって教えてもらえるが

女の道など、我が妻が知ってる道理はあるまい

古里の生みの母までは45里

いかがわせん・・・・おおお・・こうなれば

灘越えてゆかねばならぬ おお・こうなれば
いっそのこと、あとは野になれ、山になれ

我妻様に、尋ねて、習わんと、

かからぬ、あぜ竹、携えて

淺若、居間へと、あがりゆく

いよいよ、夫、浅若、教えてやるか、皆様方

嫁、さよてるの、あわれさは、いかがなりましょうか

ここら、当たりで、ちょっと、一息

次の段

そののちに

さよてる姫は夫に居間になりければ

遙かに、下がり、両の手をついて、つむりをさげ

申上げます、我妻様、お許しくださりませと

からかみ、障子、静かに

おお・・如何なるものかと、思えば

我妻なるか、何よう、あって、まいった

恥ずかしながら、お尋ね致したく、思ってまいりました

尋ねる事、何を聞くのじゃ

あなた様には、たしか、おめでたきことが、ござります

なにが、めでたいことが、あるのだ

母上様の、お話を承りますと

あなた様は、ぶつりくきょう、と言う、役目がもうしつけられたそうでござります

母上様の、言葉には

あやの、上下がなくてはならぬ

48のあや、をかけ、あやの、上下、おりあげ、したて

はやく、織り上げ仕立てよと、申しつけになりましたが

48のあぜ、7、47,までは、かけたが、

奥の一手、はったと、忘れてしまいました

母上様に尋ねて、習おうと、すれば

たびたび、あやは、おりは、したが、このごろ

年によって、目が薄い、教えること、ならん

たかでしれたる、あやのあぜ、かからぬような、嫁は

家風にあわぬ、今、限り、離縁、いたすから

出て行かれよとの、お言葉

家出をいたして、まいるは、いといませんが

48のあぜ、かけずに、いくは

無念、残念と思い、

小姑様に尋ねて、習おうとすれば、

我妻様、親が教えぬ、あぜを、娘として

親、おしのけて、何で、教えられるか

母が、離縁したのであれば、姉ではない

他人である、とっとと、出てゆけよと、言われました

それに、よって、我妻様

武術、剣道の道なれば、教えてももらえようが

まさかの、女の道

あや、など、ご存じないとは、いいながら

千に一つ、万が、一

ご存じあれば、どうぞ、あやの、あぜを一手、教えてくださりませと

聞くよりも、あさわか、

顔色変えて、

何を申す、ぶれいなるぞ

そなたが、申したとうり

武術、剣道、ならば、手を取って、教えてもやるが

女の道、あやのあぜなど、というものは

夫に尋ねる、ふぃとどきものめ、と

みるも、けがらわし、

言うが早いか、嫁、持ったる、あぜ、竹、もって

ひとうち、ふたいち

ちょうしゃくして、

次の一間ににげこんだり

あとに、あわれは、妻、さよてる

あああ・・・おそろしや、この屋かな

思い廻せば、身もよだつ、浅村の家

姑様は稲光、小姑様は、鳴神さま

杖や柱とたよりに、おもいし、我妻様の、あの、ふるまい

いかほど、辛抱、いたしても

たとえ、48のあぜ、かかっても

姑様が稲光、小姑様は鳴神、夫はあばれる、

光るやら、なるやら、あばれるなら

どのような、ことが、あっても、

この身ごときには

この家はつとまらん

いっそのことに、こう、しよう、と

我が居間、さして、下がり行く

我が居間になりければ

緑、千歳の髪、きれいに、あぶらで、つや、とらせ

髪はそのころ、文金高島田

きれいに結いたる、髪も

もとい、のきわ、より

フット、ハサミできり、

カミソリ、とりいだし

四方浄土にそりあげる

にわかに、姿変わり果て、尼、姿

ふたたび、見る、おのれの、姿

こうゆう姿になるからは、

いずくなりとも、まいらんと

かからぬ、あぜ、竹、杖にして

再び、あさわか、部屋さして、上がり行く

ごめんくださりませ、

我妻様

みるよる、びっくり、あさわか丸

いや、だれかと、思えば、かわりはてたる、姿

それは、なにごとじゃ

申上げます、私、ただいまかぎり、ながのいとまをくださりませ

なにを、申す

しからば、そちは

私をきらって、家を出るともうすか

よくも、聞かれよ

その、あぜ、竹で

我がうったるをそれほどまでに

無念に思い、にくんだのか

憎いで、たたいたのではない

よくも、きけよ

天下より、申しつけっれたる、役ぎか何かしらねども

母から聞いた覚えもない

我は夢知らぬ事

それはそれとて

母親に尋ねれば親で知っているなら

教えても良かろう

たとえ、親が教えなくとも

妹で、こうじゃ、と知っているなら

教えてもよいものを

ああ・・親子ともに

憎いと思うって

打ったる竹、良くも、因縁を聞けよと

我妻

はじめに、一手、うったるは

母にあてた、あぜ竹

ふたつ、たたいたるは、妹にあてたる竹

どのようなことが、あろうとも

親は親、子は子であるとも

そなたと、われはいったん、結んだ、縁

どのようなことがあろうとも、縁はきらぬと

打ったる、あぜの竹

どのようなことがあるとも、思いとどまり

我と一緒に暮らされよ

ありがとうございます

只今、申す通り

あなたの、おなさけ、あたたかい、思いは忘れは致しません

しかしながら、只今のとうり

母上様が稲光、小姑さまが、鳴神

ひかるやら、なるやら、どうして、一緒にくらせましょう

是非においとま

それほどまで、いわれては

夫として、さか糸とられては、いや、とも

では、いとまをやる

しばらく、まて、銚子、杯、とり出し

いっこく、くんでは、から、と、ほし

女房、さよてる、にくださるれば

ああ・・ありがとうございます

別れの、杯、ちょうだい致しますと

夫婦のものが、別れの杯酌み交わす

その、ところに、からのからかみ

ばっと、、あらわれたる、姑が

おお・・誰かと思えば

みるからもけがられしい

まだここに、そなさんは、ぐるぐるとおんあしゃるんか

えええ・・・にくたらしいわい、

衿かみつかんで、玄関外と、ずるずるずる・・・とひきだした

本間さして、この、おのれ、せがれ

世にもにっくき

親が離縁した、その女と

さても、未練かけるような、男なら

せがれでは、ない、この場、とっとと、出てうせろ

そなさん、もろとも、でて、うしょうぞ・・

姑があばれまわれば、さすがに、親子と、いいながら

あさわか丸、しからば、母上

どなりなさるな、こうなれば、我も、出てゆかねばなるまい

あさわか丸、一間をさしてはいり

千歳の髪、もとより、切っては

妻がそったる、居間にはいり

その、カミソリで我が髪、きれいに、そりおとす

ろくぶ、姿となりて、47目のあやのあぜ竹

手にとりて、杖につく、13代あさむら長者の家をあとにして

さよてるの、あとを、尋ねる

心もさだめず、まわりゆく

女房、さよてる、どこにゆく、

どちらに、まいるであろうとも

あとをしとうて、たずねたずねてまわる、めぐる

霜月いくど、かさねても

旅の空、まわる、めぐるゆく

遙かに聞こえる、御詠歌の声

ちりちり・・・・

父母の恵も、とどかじ

ここで、さても、詠歌の声きくより、あさわか丸

あああ・・この山のぼりて、声きけば、

詠歌の声は谷に響く

谷に下れば、峰に聞こえ

又、のぼれば、又、向こうの谷

向こうの谷ゆけば、又、向こうの谷、峰に響く、詠歌の鈴

峰と谷、まわり、めぐれど

いっかに、いっかに、まぐるあわず、足かけ3年

話は変わりて、ここに、また、河内の国は上中村

さても、きびしき、所願をなされたが

姑、何ひとつも、所願成就はさらになし

そればかりか、八幡様のお告げのとうり

天より天火、あまくだる

家はにわかに、燃え上がる、はっと驚く、親子二人

しだいに、あわてた、親子のもの、火中、あちらこちら

走り回るは、あらん声あげても、いかなること

天のいましめか、神のとがめか

だれ、一人として、近寄る人もさらになし

まもなくすれば、母は方角、とり失って、両目、つぶれ

一寸先は両目とられた、目なし鳥

娘、白菊、あちらこちらと、くるいまわる、そのうちに

本性とられて、家、もろとも、やけて、苦しむばかり

家は丸焼け、くろ、ふす、野原となりにける

これこそ、仏人のいましめなるか

天のいましめ、かは、しらねども、後は影も形もない

13代浅村の家の後

話は変わりて

ある日のこと、さても、女人堂にまいった

あああ・・これほど、尋ねても尋ねても、妻の声聞こえれども

深山かくれの、ホトトギス、姿は見えぬ

ここの、仏様か、何かは、しらねども

女人堂とかいてある

女の堂であるか、、

うがい、ちょうず、で身を清め

十のれんげをもみあわせ、ふすおがみ、いたしておる

すでに、いこうとすると、女人堂の後ろより、うん僧、一人あらわれる

いでたちは、墨の衣に、こうの、袈裟

そもん、の柴を手にもち

一軒錫杖、

いやはや、そなさん、尋ね人がいなさるな

どのように、尋ねても、この山の頂上にのぼっても

そなさんの、尋ね人はのぼってきませんぞ・・

拙僧が、申すこと、よくも、きかしゃれ

なぜ、これから先

登っても、合う人にあわないか

そなさんが、たずねるのは、女であろう

これ、女人堂、ここまでは、のぼってもよいが

これから、先はのぼること、女はならん

それほど、あいたいのであれば、

愚僧が合わしてやる

もそっと、こちらへ、ござれ

うらての方へひきつれて

ほれ、恋しい、なつかしい、尋ね人はこの人でありう

しっかと、手をにぎりなされ

あさわかの、手をとらせ

さよてるの手と手をにぎりあわせ

いやあ、そなさんがた、なかなか、あわれ、人じゃ

これも、仏人のいましめか

そなたの、母親が、なかなかの、わがまま、勝手な女じゃのう

そなさんに、話してないはず

母一人の思い、工面

氏神様に、我、命、捨てて、祈願をしておる

それゆえに、家はもう、影も形もない

これより、まだ、母は生きておる

そちの妹は天火、天下り、家もろともに

やけ死にをしたのじゃ

これより、我、古里に帰ってみれば、おどろくであろう

影も形もない

しかしながら、そなさんがたが、はやく、我が処に帰り

浅村家は悪いから、名を変えて、あらたに、家をたてて、くらすなら

かなりの、くらしは、できる

しかしながら、まだまだ、苦労がある

心、ひとつにして、はげめば、苦労ものが、かくれる

仲良く、手を取ってくらせよ

愚僧を如何なるものとおもいしか

我はこの山の主

この身は人をたすけるのが愚僧の道であるから

思いをきかす

家の大事なものは、氏神八幡様があずかっておられます

それ・・疑いなさらず、早く帰り、夫婦なかよく

暮らされよ

この山の主、疑いはいらん

われは、必ず、人間の姿は仮の姿

われが、仮の姿、けしたら、みゆるかのう

これ、見なされと、言うより、早くも、かくれゆく

姿、かっとごとく、光明こうこうと、照りわたる

後に残りし、夫婦のものは

後ろ姿、ふし拝み

さても、ありがたい、仏様の、おかげで、あうことができたと

河内の国さして、帰りゆく

さても、かえりし、そのときに

屋敷をみてやれば、

夢驚く、あさわか丸

氏神様に参拝し

さても、日をくらす、そのうちに

氏神様より、金銀み宝をもらいうけ

さても、中村の名をすてて

井上のぶよし、と名をあらためる

井上のぶよし、はあさわか丸のなりのはて

みだい長者、百万長者となりにける

ある日のこと、女房、さよてる

臨月となり、あしかけ5年目に

ようよう、みちくる、潮ともろともに

美男の誕生

ここに、俊徳丸と名つける

さても、俊徳丸

蝶よ花よと育てしが

俊徳3歳のその時まで、何ひとつとて

夫婦なかよく、むつまじく、日をおくる

ある日のこと、女房、さよてる、仮の病がもととなり

この世をさられる

いよいよ、俊徳丸

さよてる、亡き後、女中のおすわ
我が子、同様に俊徳丸、かわいがっているけれども

7年たって、男子の誕生

皆様方、いよいよ

俊徳丸のままこいじめ、という

哀れ、艱難苦労の物語

浅村長者、あらため、井上のぶよしの家のなりゆきは

これからなれども

ここら、あたりで、ひとくぎりなり。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?