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菊池くずれ

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肥後琵琶「菊池くずれ」 沖田畷の戦いを語る琵琶語りの詞章。総文字数は約27000文字。 菊池一族赤星兄妹の哀れな物語から、起きる戦の顛末まで。 肥後琵琶師山鹿良之口述の物語。これ… もっと読む
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菊池くずれ短縮版

あーーつらつらと 世をひそかにおもんみるに 人は善悪のともによるべしか 人は悪(くう)をたのめば、おのずから天の戒めを身に受けて 末に我身を滅ぼすとこれはこれ、故人の金言なり そのころ、人皇(にん)の御代、始まりてめでたくは百六代の 帝正親町(おうぎまち)の院の御宇(ぎょう)に、あたりて その頃天下を仰ぎ奉るは織田内大臣、織田信長公とて 日本の兵(ひょう)を切りしずめ従う武士を味方につけ おのがままに天下の位を受け 音にも聞こえし石山城にござ据えたもう その頃 九州 吟味のそ

菊池くずれ一段

あーーつらつらと、世をひそかに、おもんみるに      人は善悪のともによるべしか 人は悪(くう)をたのめば おのずから天の戒めを身に受けて末に我身を滅ぼすと これはこれ、故人の金言なり そのころ、人皇(にん)の御代は始まりて めでたくは 百六代の                         帝正親町(おうぎまち)の院の御宇(ぎょう)にあたりて 頃は天正四年 天下を仰ぎ奉るは 織田内大臣、織田信長公とて日本の兵(ひょう)を切りしずめ 従う武士を味方につけ

菊池くずれ2段

二段  さてもその後 隈府の城を後に見て 出てくるのは城北村 合わせ川通りて本分すぎ 長野山も横に見て 高橋すぎれば 来民村新町 早や過ぎて 広町超えて行く先は関口通れば 鍋田川 渡れば名高い鍋田のはる

菊池くずれ3段

三段     さても、話はかわりて いとまごいの熊寿丸 屋敷になれば 熊寿丸は 「父上様頼む」と申す言葉に 隈部は玄関 に立ち出でて 「誰かと思えば倅 そなたは御殿下がりをさっしゃたかまずこれにこれに」と 奥の一間に連れ戻り 「やあやあ女房 久方ぶりに倅が御殿下りをした」 両親のもてなしは数々の珍味銘酒ととのえてすすむれど 何事も変わった顔つき 不思議と見て隈部は 「何事にも変わったそなたの顔つき 君に不忠義と存じたか 又一家中に慮外したが 何に限ら

菊池くずれ4段

第四段 隆信公はしばらくの間思案}に}暮れ給う 三郎丸 汝はこの文をかいたるおぼえがあるか あるならば 隠さず申せ」 「もうしあげます 我が君様 かきたることも みたることも ございませぬ これは 何者か我になにやの思いあってかきた ることであるまいか われは 国をたつ時父がかえすがえす申すには 総体 肥前の佐賀の城にては朋輩方の教えうけ いたらぬ身を 精進せよ 又くれぐれ申しつけられしことは 奢り高ぶりは身の破滅 身の清さ を保てとの かえすがえすも父

菊池くずれ5段

第5段  隈府の城を立ち出でて急ぐ道中は早いもの 新町 山鹿 早過ぎて 急ぐ道中は長の原 平野茶屋も打ち過ぎて のぼれば名高い六本松 隈部が心はめんとじ原 肥猪の町も早過ぎて 岩くわんに舞木のはる をはや過ぎて 音にも聞こえし八貫水 小原の前の鐘が淵 駒はいらねど   沓掛原 音にも聞こえし南の関 お茶屋番所はや過ぎて 外目超えれば ゆやの瀬戸 はるばるこれまで北の関 肥後と筑後の国境 ひあてつ つきにける 五条隈部は駒で行く 耶蘇姫主従は徒歩なれば

菊池くずれ6段

第六段 (暗いところに打ち込まれ 耶蘇姫は腰元供に打ち向 かい 「方々ここはどこであろう 佐賀の城は暗いところか」 腰元方は聞くよりも なんと返事申しようもなく ただ 姫君よと嘆くばかり 奥の方では三郎丸は 「いかに方々 今日も咎人がきたらしい 今日の咎人は女人方 で

菊池くずれ7段

第七段 五条隈部は磔十字に組み立てて 「三郎殿 御身兄妹は肥前向きがお望みか又肥後向き がお望みかお望み次第に向けてつかわさん早語り給え」 と聞くより三郎丸は 「申し隈部殿 総体肥前国は3カ国の御大将 大事な殿 の国なれ肥前を望むが当然なれど 肥前の方から吹き 来る風も

菊池くずれ8段

さてはこれおき ここにまた 鍋島加賀輝綱公は隆信 公の代理として 石山城に登城を勤め肥前の国へと帰 る道すがら 佐賀近くにさしかかれば 。この話を聞 くよりも 「おそかりし 残念や 三郎兄妹をこのように むざ むざ殺すはなのごとぞ。一刻も早く馳せつけて 助か るものなら助けんと 駒に鞭当て竹江原と馳

菊池くずれ9段

さても 落ちゆく赤星は高瀬川を後に見て 次第に出 て来る横島の河内沖を通り行く。百貫すぎて行く船は だんだんと急ぎゆく 八代 日奈久を通りすぎさしき 超えて水俣沖も横に 見て その夜の明けぎわには薩摩国仙台川に着け   赤星は家来一同に打ち向かい 「いかにも方々 世が世であらば明けて春のこんにち

菊池くずれ10段

げにも 勇ましや川上は 「やあやあ肥前の敵軍ども 我こそは川上左京と申す 者なりこの上からは5名10名とは面倒なり 何百何十でも一度にかっかれ」 と呼ばわったり 「おのれ 憎き川上左京 小兵の分際で口に番所ない とはいいながら 言わしておけば言語道断 そこ動く な」とば

菊池くずれ11段

高瀬の川に打ち捨てし その首は流れ流れ流れ行く この様眺めて皆のものどもが 「やあ 竜蔵寺とは偉い大将であったが 水におうて  もまれては仕方ない もまれもまれて下へ下へと流れ ゆくなり」言うた途端にその時 竜蔵寺の生首が   すっと 川上に上がってきた 北かと思えば 柳の根株にがっっぶとかみついた