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イ・ナウォンさん(脚本家)×山本英監督トークイベントレポート🎤【ネタバレあり】

2月21日(水)の夜、新宿武蔵野館にて『熱のあとに』公開記念トーク&ティーチインが行われ、山本英監督と、脚本家のイ・ナウォンが登壇。上映後の劇場に2人が登場すると、会場は温かい拍手に包まれた。

2人は東京藝術大学院の同期同士。タッグを組んで制作するに至った経緯を聞かれると、監督は「ナウォンさんとは同期ですが、在学中はナウォンさんが脚本領域で僕が監督領域で、お互い違う方とペアを組んでいました。在学中は何かを一緒に制作することはなかったんですが、在学中からナウォンさんが書かれているセリフが素晴らしくて、僕はいつか一緒にやりたいとずっと思っていました。卒業したあとに役者さんのワークショップをやらせていただく機会があって、その時にナウォンさんに短編の脚本を2つほど書いてもらった後、「惑星サザーランドへようこそ」というWEBドラマの脚本を書いていただきました。そのタッグの中で、お互いどういう風に制作していくかということが少しずつ掴めてきて、じゃあそろそろ映画でお互い語れることは何か、何を描くべきなのかということを考えながら、企画を作っていこうという話をしたのが始まりです。そこからお互いが描きたいテーマや内容をすり合わせていきながら、『熱のあとに』にたどり着きました」と、満を持しての映画制作だったと振り返る。

本作の登場人物の人物を造形していくにあたり、橋本愛演じる沙苗・仲野太賀演じる健太・木竜麻生演じる足立の3人はそれぞれの履歴書のようなサブテキストが用意されていたそう。このサブテキストについて、ナウォンは「初稿を書く前にまず沙苗・健太・足立の日記や手紙や年表などのモノローグ的なものを書いて、それを監督と交換して…という作業だったのですが、改稿していくたびに、ほぼ毎回サブテキストを新しくしていました。個人的に人物のことを考えるのが好きなので楽しかったですし、脚本を書くためになったのではないかと思っています」、続けて監督も「僕も毎回サブテキストを書かせていただいて、面白いなと思ったのは、ナウォンさんは手紙や日記など、その人物として書かれるサブテキストが多くて、自分は小説だったりエピソードっぽいものだったり、人物として書くものではなく俯瞰的な角度から書いているサブテキストで、違ったアプローチの仕方でした。僕のサブテキストは、何月何日に何々が起きた、とか、より履歴書に近いものだったと思います」と、お互いが書いたサブテキストを読み合い、話し合いながら、人物への理解を深めていく、輪郭を掴んでいくという作業をしていったという。
ここで2人が作った実際のサブテキストが読み上げられる。ナウォンは足立が息子にあてた手紙というていで書かれたもの、監督は幼い頃の健太が、父と母と出かけた際のエピソードを綴った小説のようなもの。どちらも登場人物の輪郭が浮かんでくるような文章で、貴重なサブテキストの披露に観客は聞き入っていた。

劇中には健太が“世界が平和になる方法”として「60秒見つめ合う」というエピソードが登場するが、このエピソードについてナウォンは「すごく悩んでいたことを覚えています。昔小さい頃に、“喧嘩をしたら見つめあって「ごめんなさい」と言いなさい”と皆さん言われていたと思うのですが、それからの着想ということが一つ。もう一つは、私は韓国から来ていて、子供の頃から“北朝鮮と戦争が起こるのではないか”と心配して眠れないことがあったのですが、北朝鮮は韓国と同じ言語で、同じ民族で、同じ言葉を喋っているのに、戦争はするんですね。今も日本語を話せているからコミュニケーションが上手くいくってことでもなくて、そういったことから「果たして言葉は万能なのか」ということが自分の中にテーマとしてある気がしています。人間と人間の間で言葉を取ったら何ができるんだろう、何が必要なんだろう、と思った時に、黙って向き合うしかないのかな、という結論が出た気がして、この「60秒見つめ合う」というエピソードが出ました」と人と人がコミュニケーションをとる際の本質を考えてこのエピソードに至ったという。続けて監督は「このエピソードは初稿の段階からあって、僕はすごく良いエピソードだなと思っていました。言葉は相手に投げかけることによって相手を変えていく側面があると思っています。でも相手を変えていこうという行為は暴力になるかもしれない、という部分が言葉には含まれている。でも見つめ合うという行為は、相手に投げかけるというより相手から受け取るという行為だと思っていて、言葉でないところで受け取る行為として「見つめ合う」という方法を提示してくれるシーンは、僕は大切に守りたいなとずっと思っていました。途中改稿していく中でなくなりそうになったこともあったのですが、このシーンだけは残そう、と最終稿まで残していったらラストにも繋がったという不思議な流れで出来ています」と、劇中の中でも非常に重要なシーンだったと振り返る。

ここで観客からの質問タイム。まず「後半のプラネタリウムのシーンが非常に印象的で、暗闇の中、微かに見える中での演技は難しいと思うのですが、工夫した点があったら教えてください」という質問に、監督は「あのシーンは、本当は真っ暗にしたかったんです。ナウォンさんとも最初から話していて、何も見えない画面の中で2人の声だけが聞こえてくるように作ろう、と思っていました。言葉の聞こえ方を少しずつ変えていきたいということがあって、沙苗と足立が告解室で話していたように、向き合って話される言葉もあれば、暗闇で相手の顔が見えない中で聞こえてくる言葉を、観ている僕ら含めてどうキャッチできるのか、ということを試してみたいと思っていました。でも、さすがに真っ暗では厳しいものがあるんじゃないか、という意見をプロデューサーからいただきまして。本当に真っ暗にすると、ある意味映像への裏切り、カメラに対する裏切りなのではないかというお話がありまして、僕もそれはしたくないなと思い、あれぐらいの見えるか見えないかのギリギリの暗さになりました。あの中でシーンを作っていくときに大切にしていたことは、実際に橋本さんと、隼人役の水上さんは隣にいるんだけど、お互いのことは見ないでほしい、ということでした。水上さんは少し見てはいるのですが、実際にその視線に橋本さんは返してはいけない、お互いの視線を受け取らないでほしい、というお話をさせていただきました」と、試行錯誤され作り上げられたシーンだったと振り返る。

続いて、「ナウォンさんは韓国生まれで、僕から見るとナウォンさんは韓国の方が日本映画より世界的に先を進んでいる世代かと思うのですが、なぜ日本で学ぼうと思われたのでしょうか。また橋本愛さんという俳優はご自身の考えやZ世代の感性をSNSでも表現していますが、でもこの映画は必ずしも“正しさ”を追求しているわけではない。ただ橋本さんのそういう部分を知っていてキャスティングされたというお話も伺っています。その正しさと、橋本愛さんのキャスティングと、この映画のメッセージはどう関係しているのでしょうか」という質問に、ナウォンは「私は幼稚園から小3まで茨城県の筑波に住んでいて、幼少期をそこで過ごしたので、まず日本語が喋れるということがありました。脚本家にはずっとなりたくて、大学は韓国で卒業してドラマの脚本のアシスタントをしていたのですが、体調を崩すくらい大変で、「書くことはこういうことなのかな」と考えさせられた時期でした。その頃ちょうどもう1回日本に住みたいなと思っている時で、ビザの関係もあり日本に戻るためには学生になるか仕事をするかという中で、それなら勉強をしたいなと思って、藝大を受験しました。その頃坂元裕二さんのドラマ「最高の離婚」が大好きで、坂元さんが藝大で教授をされるということもあって。絶対落ちると思いながら、試しで受けたら合格して日本に戻ってきました。2番目の質問ですが、最初の段階から私の中でも監督の中でも沙苗は橋本愛さん、という気持ちがありました。橋本さんが話されている内容というより、彼女の話しているときの言葉の投げ方や会話しているときの感覚が「この人は沙苗」という感覚がなぜかずっとあったんです。個人的に沙苗は橋本愛さん以外にはできないんじゃないかと思って、強く監督にも押していました。監督も同意見でした」と、自身の経緯と、橋本さんへの熱烈オファーの様子を語る。

さらに沙苗が愛したホスト役・隼人を演じた水上恒司に関して「セリフが一つもないのに存在感があって大変意味がある役だと感じました。水上さんのキャスティングの理由を教えてください。また、大変だったシーンや苦労したシーンを教えてください」という質問に、監督は「水上さんのキャスティングについては、隼人という人物をどういった役者さんが演じられるかなというところで、水上さんに至るまで凄く考えていました。脚本の段階から、最後にワンカットだけ顔が見えるということは決まっていて、その他は背中のカットや、サングラスをかけていたりだとか、顔の全体像が見えてこない。最後の最後だけ顔が見えて、その表情だけで今までのものを全てさらっていってくれるような方にお願いしたいなと考えていました。その中で水上さんにお願いした一番の決め手は、水上さんの瞳です。僕の中で水上さんの瞳はすごく不思議な瞳だとずっと思っていました。すごく綺麗なのですが、綺麗すぎて底が見えない、どこまでも自分が潜っていってしまいそうな瞳。そういう瞳を持っている人は水上さんくらいしか思いつかなかった。最後に隼人の顔が映るとき、水上さんの瞳の奥ってどんなに覗いてもわからないんですよね。そういったところが、僕が水上さんにお願いした一番の要素です。大変だったシーンは、ペンションの中で3人がお互いの愛をぶつけ合うシーンです。すごく長いシーンで、その後のくだりも全部一夜で撮りました。シーンの長さもカット数もそれまでの比じゃないくらいありまして、あの日は朝5時くらい、日が出るギリギリまで撮影していたので、あの時が一番体力的にも精神的にも大変でした」と、水上の魅力と、苦労した撮影を振り返った。
 
最後に、ナウォンより「本日は本当にありがとうございました。感想があれば是非SNSに共有してください。また本作の脚本が気になった方は、月刊シナリオに載っているので是非チェックしてください」、監督より「平日の夜にこんなに多くの方に迎えていただいて本当に嬉しい気持ちでいっぱいです。『熱のあとに』を良かったと思っていただけたら、SNSや周りの方に宣伝していただけたら嬉しいです」と呼びかけ、イベントは温かいムードの中終了した。

『熱のあとに』
新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほかにて大ヒット公開中🔥

出演: 橋本 愛 仲野太賀 木竜麻生 坂井真紀 木野 花 鳴海 唯/水上恒司
監督: 山本 英
脚本: イ・ナウォン 
プロデューサー: 山本晃久
製作: ねこじゃらし、ビターズ・エンド、日月舎 
制作プロダクション: 日月舎
英題: After the Fever
配給: ビターズ・エンド
2024/日本/カラー/5.1ch/ヨーロピアンビスタ/DCP/127分【PG12】

公式サイト: https://after-the-fever.com/
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