収まりきらなかった診断SS③

時が止まったかのようだった。
テーブルの箸を持とうと添えられた彼の指先は、そのままピタリと静止して一向に動く気配が見当たらない。

妻と子どもたちは泊まりがけで出掛けており、席についているのは男二人、元敵対関係。いつもより簡素な朝を迎えていた。そんな中で、食卓に並ぶ茶碗に盛られた米や味噌汁、漬物の合間を縫って、亜門の目線がある一点を捕らえている。
「食わないのか」とわざとらしく催促してみれば、目の前の男は目線だけ上げて、チラリとこちらを見遣る。なんとも困惑した顔。

「まさかとは思うが、紗夜に言って聞かせてる立場で好き嫌いなんかしてないよな」

「…それは」

我ながら捻くれているものだ。亜門を口籠らせた要因に関しては、自分が彼にそうさせているのだから。仕事ばかりであまり娘と接することができない自分よりも、統率者として教養もある彼の方が娘の教育にも適している。なのに、それを逆手とった大層意地の悪い言葉だった。亜門が苦々しく見つめているそれは、ご丁寧に、嫌味たらしく二人分用意されている。自分の手によって既に封も開けられており、もう後には戻れない。「それ」は彼に混ぜられるのを静かに待っている。
段々と表情を曇らせながらゆっくりと瞬きする亜門に、今一度。

「ほら、食えよ。納豆」

貴方は亜門さんで『唯一の、嫌い。』をお題にして140文字SSを書いてください。
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謎のパパ目線