収まりきらなかった診断SS②

「パレット。すまないが其処に居られては動けない」

誰かに背中でも撫でてもらいたい昼下がり。家の中をゆったり飛び回っていると、ソファにちょうどよく亜門が座っていたものだから、これ見よがしにその膝に降り立ってやった。少し硬いが別に構いやしない。
しかし、なんとまぁ。やけに困った声を上げるではないか。それが気になってチラリと見れば、どうやら針と糸で服のボタンを留め直している最中だったようで。パレットが前後の左足で踏んでいたのがまさにそれだった。

「おぉ〜わりィ。でもよぉどーせ座ってやんならいいじゃねェか。終わったら背中撫でてくれ」
「それはいけない」

足だけ退かしてもう一度寛ごうとすれば、頭上からは先程とは打って変わった真面目な声が飛んでくる。
見上げると、亜門の黒い瞳と目が合った。

「もしも手元が狂えば君を傷付けてしまう」
「ンだよ、針ぐらいなんだってことねーや」

自分が小型の魔族だからって馬鹿にしているのだろうか。別に亜門が心配するほどパレットはヤワではない。そう思った矢先、端整な顔が少しだけ憂いを滲ませて歪む。

「…。私が嫌なんだ。大切な友にそんな真似は出来ない。すぐに終わらせるので少しの間降りてくれないか」

蜂蜜色の目を思わず丸くする。彼の表情は真剣そのもので、笑い飛ばすには些か、違うような気がしたのだ。…が、それよりも——

「…オメー、よくもそんな恥ずかしいセリフ吐けるよなァ」

思ったことをそのまま呟けば、今度は亜門が「なに」と目を丸くする番だった。ひとこと邪魔だと言えば良いものを、きっと嘘偽りない彼の本心なのだろう。全くお人好しな魔王である。

仕方なく膝から降りると、そのままソファの上でピッタリと彼に身を寄せる。「それではあまり変わらない気がするのだが」という声は無視して、窓からの差し込む日を浴びながらあくびをひとつ。
心地よいような、くすぐったいような。そんな不思議な感覚の中でパレットはひとときの眠りにつくことにした。

———

貴方はあもパレで『よくもそんな恥ずかしい台詞を』をお題にして140文字SSを書いてください。
https://shindanmaker.com/375517