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ポッドキャストをめぐるコイズミさんと私の出会い(というか、すれ違い)

 今年の4月から、とあるポッドキャスト番組が始まりました。

 私の大好きな小泉今日子さんの番組で、第一回のゲストに私の大好きな松浦弥太郎さんをゲストに迎えて配信していました。タイトル画像に「SPOTIFYオリジナル」とあるので、Spotifyが日本でのポッドキャスト事業を強化するにあたり立ち上げた番組のようです。ともあれ、すぐに聴いて、すぐに番組をフォローしました。先週の配信(11/8)も楽しかったです。

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 小泉さんは私より一つ歳下で、私が高校、大学、社会人と進むにつれて、超売れっ子のアイドルになりました。いわば同世代の『希望の星』。文字通りスターとして輝く存在で、ほどなく私は彼女のファンとなりました。

 もちろん、ひねくれ者の私のことですから「売れていたから」「スターだから」という理由で、ファンになった訳ではありません。彼女もまた何というか他のアイドルと少し違っていたのです。自分のことを「何てったってアイドル」と言ってみたり、社会人としての小さな過ちや失敗を「見逃してくれよ」と歌ってみたり、人を食ったようなところがありました。

 もちろんそれは彼女に個性的なキャラクターを演じさせようとする大人たちのプロモーション上の戦略だったのは、我々も(もちろん、当の本人も)分かってはいたのです。それでもなお、彼女のファンになったのは、彼女が「(本当はそんな性格でもないのに)売れるためにあざとくキャラ付けされたアイドル」ではなくて、「いたずらが見つかって『見逃してくれよ』とテヘペロするアイドル」を演じているように見えて、実はそんなに演じている訳でもなくって、地をそのまま出しているっぽかったからです。大人の言うことを聞きながらも、心の底ではその思惑を笑い飛ばしているような痛快さが、当時の彼女のハジケっぷりから伺うことが出来たから、同世代の女性を含む多くの人たちが「キョンキョン」に魅了されていったのです。

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 一方、私も最近ポッドキャストを始めました。Anchor(アンカー)というサービスで音楽を流せるようになったことがきっかけだったのですが、その昔、5年ほど仕事でポッドキャスト番組を制作・配信していたことも少なからず影響しているのかもしれません。作ったことがないものを作るのと、昔のやり方を思い出しながら作るのでは、身構え方が全然違いますから。

 さて、その昔の話ですが、その番組はスポンサーから予算をいただいた上で制作していた割としっかりしたコンテンツでした。その配信が1年だか、100回だかでひと区切り着いた時にスペシャル・バージョンを作ろうということになり、番組に書き下ろし小説を書いて頂いていた作家の角田光代さんと親しかった小泉今日子さんに「角田さんの作品の朗読をしてもらってはどうだろう」という企画を出したことがありました。

 社会人生活20年。ゲーノーカイともつかず離れずの距離で仕事をしてきて、ようやく巡り来た憧れのキョンキョンと仕事をするチャンス。しかし、40代の純情(?)おじさんの胸の高鳴りは、数日の後に息切れし、ため息に変わります。諸事情により、出演は叶わないことが分かったのです。

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 あれから十余年、すっかりポッドキャストのことも忘れてしまっていたのですが、小泉さんの番組をきっかけに幾つかの配信を聞き始めました。そして、その半年後、自分でもポッドキャストの制作を再開しました。

 小泉さんは、冒頭のポッドキャスト番組の第一回配信で、社会に出るために十分な勉強をすることなく、高校を途中で辞めちゃって突然アイドルになったものだから、俳優として役作りに必要な知識を得るのに苦労した。そんな時には本を通じて勉強したんだ、みたいなことを、実にフランクに語っています(20分を過ぎるあたり)。

 ここでの話しっぷりは、おそらく以前の小泉さんには出来なかったであろう「人生を半ばまで進んだ女性」のキャラクターがにじみ出る、しっとりとした味わいです。アイドルという仮面はとうに破り捨てて、見逃してほしいなんて泣き言を言うこともなく、時には自身のコンプレックスや日常についてもあけすけに語る、すっぴん、等身大のキョンキョンがここにはいます。

 小泉さんは今もって有名タレントですが、彼女がこんな番組を毎週配信していることはおそらくあまり知られていないと思います。そして、その番組は、制作サイドからのプロモーションの後押しがあるものの、私の作るコンテンツと基本的には同じインフラの上で配信されています。「アイドルは雲の上の人」だった時代から、話しっぷりは等身大に、配信環境もイッパンピーポーと同じ。プロもアマチュアもおんなじ土俵でコンテンツを創りまくる時代になったんだなあと思います。じゃあ、プロのプロたる所以って何なんでしょうね。

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 だから、何なんだという結論じみたものは今回はありません(思いつきませんでした)。ただ、40年ほど前から敬愛してきた女性が今も元気で活躍されていることと、ポッドキャスト番組を作ることで仕組みの上ではお隣に居られること(二つの番組を続けて聞いてくれる奇特な人だって、居るかもしれない)が、ちょっと嬉しかっただけです。

 いつかどこかで二つの番組が交差することが #もしも叶うなら 望外の喜びです。

 


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