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【書評】Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生

SpotifyのCEO、ダニエル・エクのこれまでを明かした、世界初にして唯一の書。

※追記:レビュー投稿後、編集担当の方から直々にコメントをいただきました🙇。ありがとうございます!

さて、まず結論から。「Spotifyの発展ストーリーを軸に、ストリーミングサービスの発展と全体像が分かる本」です。

ミュージシャンなりサービスなり、音楽ストリーミングに関係する立場の方は「状況理解」のために外せない1冊かと。もちろんSpotifyの有料会員になっているような、ヘヴィユーザーの方が読んでも楽しめます。

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表紙しかり帯しかり、CEOのダニエル・エクに焦点を当てているように見えましたが、内容の視野はかなり広め。AppleはもちろんのことTIDALやサウンドクラウド、そしてテンセントなど競合サービスも一通り登場します。

Spotifyという「会社」の発展をまとめた書籍なので、Spotifyの「サービスそのもの」への深掘りを期待するとやや肩透かしかもしれません。かなりビジネス視点での描写が多いです。アメリカへ進出するための交渉顛末、企業買収、レコード会社との駆け引きなど。

時期的には「Spotify創業直前の2005年~2019年夏前あたりまで」の流れが網羅されています。

サイズはこんな感じで、読み応えはあり▼

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ぶっちゃけてしまうと、全体的に「音楽」にフォーカスした部分は少なかったです。Discover Weeklyについては開発背景をやや深掘りしたパートがありますが、Spotifyのアルゴリズムに踏み込んだ内容はほぼ見当たらず。

「再生を押したらすぐ曲が流れること」へのこだわりや、権利問題についてのやりとりは見受けられますが、たとえば明確な「ロイヤリティの図式」は出てきません。

ようするにユーザー(バンド側)目線で「再生数が伸びやすくなるコツ」みたいなものは一切なく。ユーザー(リスナー側)目線で「こうやってカスタマイズすると良いよ」みたいな話もありません。そういった点には期待しないよう注意が必要です。


とはいえ、もちろん名の知れたアーティスト達との逸話はたびたび登場。ボブ・ディランやテイラー・スウィフトが一時行っていたSpotifyからの撤退が、実際にはとくに影響なかった話は興味深いです。

ボブ・ディランの撤退は、会員数の増加に悪影響はなかった。
アナリストチームは、テイラー・スウィフト脱退の影響を綿密に分析した。その結果、そのポップスターの人気は高いものの、数百人が去る程度のものだった。


また、『スポティファイ TV』という幻の極秘プロジェクトにまつわる話が載っています(詳細が明かされたのは本書が初とのこと)。

「SpotifyをTVで流す」という意味ではなくて、ハードウェアの方です。プロトタイプのスケッチが掲載されていて、当時の試行錯誤具合が伝わってきます。

そのほか個人的には、以下のような章が目を引きました。

・第9章 スティーブ・ジョブズ、いよいよ立ちはだかる
・第10章 ザッカーバーグとの駆け引きと、密かに生まれた最大のライバル
・第16章 ビッグデータでアップルミュージックに対抗せよ


時系列で事実ベースに進行していく本書ですが、不思議なことに読み終えて印象に残ったのはダニエル・エクの以下の発言。

「ストックホルムの労働者階級で育った僕のような人間は、聴きたい音楽をすべて買う余裕はなかった。」

何が彼を突き動かしてSpotifyを作らせたのか、この本を読むまでよく分からなかったのですが、この一文で妙に納得。

「すべてを買う余裕がない」部分に、かなり共感。ぼくは学生の頃CDショップに通っていましたが、「買うCDを選ぶこと」は「買わないCDを選ぶこと」でもあったので。Spotifyの登場により、その苦渋の選択がなくなったのは最高です。


そんなダニエル・エクいわく、Spotifyの旅路は「セカンドイニング(野球用語)」らしい。まだまだ始まったばかりですね。ストリーミングを語る上で、外せない1冊なのは間違いないでしょう。


あわせて読みたい▼

本書は、mp3と違法ダウンロードの隆盛を描いた『誰が音楽をタダにした?』の続き感覚で読むのがオススメです。2冊合わせることで、ちょうどダウンロードからストリーミングへとうまく話がつながるので。もはや連ドラを見るようなストーリー感覚で、サクサク読めます。

文章の世界観も近い印象。どちらもノンフィクションで、場面を切り替えつつ時系列的に進んでいきます。音楽が無料になった背景を一気に知るには、2冊の合わせ読みが一番手っ取り早いかと。

個人的にはこの本を先に読んでいたおかげで、『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』がスっと理解できました。ナップスターのショーン・パーカーのように、両方に登場する人物もいますし。

歴史的背景もふくめて掘り下げたい、音楽好き(リスナー&アーティスト)の方はぜひ。



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