ぜったいに、笑ってはいけない

妻の父方のおじいちゃんが亡くなった。

妻の父は、すでに亡くなっている。妻の母は、再婚している。

私にとっては微妙な距離感にある方、が亡くなったのだ。


子どもたちを含め、家族みんな葬儀に呼んでいただいた。

ご遺体は自宅にいらっしゃり、親戚一同が手を合わせている。


そんな折、

息子(小1)が下を向き、苦しそうにヒューヒュー言っている。

「大丈夫?」と私。

息子は下を向いたまま、うなずく。


なおも悶え苦しんでいる。

このまま倒れ込んでしまいそうだ。

心配になる。

よくみる。

そこで私は気づいてしまったのだ。

苦しそうにしているのではない。


笑いを堪らえていやがる。と。


同時に、私も吹き出しそうになる。

が、何とか堪らえた。

しかし、吹き出しそうになって何とか堪らえた私の姿、に気付いた息子は、


「ブフーッ」っと吹き出した。

私もつられて


「グフーッ」っと吹き出した。

私はとっさに身をかがめ、息子に寄り添う体勢をとり、息子と自分の顔を隠した。


さらにこの流れは、息子と私の姿、に気付いてしまった娘(小3)に波及した。

私は苦しんでいる息子を気遣う体を装い、二人でトイレに避難した。

一人残してしまった、顔面が崩壊する寸前だった娘を想う。

ゴメンと心の中で詫びた。


ご遺体は葬儀場に運ばれた。

わたしたち家族は自家用車で後をついていったため、しばしの休憩。

気持ちをリセットしなければならない。


が、一度ハマった笑いのツボは、そう簡単には抜け出せない。


三十六計逃げるに如かず。私は次女(4歳)の面倒をみるためと理由をつくり葬儀場から離れた。


残された娘と息子。どうなるのか?


次女を遊ばせながら、そっと中を覗いてみる。


二人は堪えきれずに、口を押さえながら

「ぷぷぷ、グフッグフッ」

シーンとした中で吹き出してしまっている。妻は気まずそうだ。


その様子を観ながら、私の腹筋はねじ切れそうになっていた。傍らで次女は無邪気に遊んでいる。


葬儀も終わり、私は説教した。

「駄目だよ葬式で笑っちゃ。不謹慎じゃないか」と私。

「パパが先に先に笑ったんじゃないか」と娘と息子。

当然の反論だ。まったくその通りなのだが、親族の中で血縁関係になく、かつ大人である私が吹き出してしまうことなどあってはならない。事の顛末のすべてを娘と息子だけのことにしようとしたのだ。最低な父親だ。

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