見出し画像

「まっ暗闇で踊るスタイル」ミックス企画 vol.6 横山さん(その一)

今年も開催いたしました!ビシャモンが作った歌もの曲のパラデータをアップ、お好きにミックスしてねーという企画です☆今回は、YOUTUBEのリリースまでに9名のフレンズがミックスしてくれたよ☆(一名クローズドなのでアップ音源は8名さまです)

06 横山さん (@yokoyan1)(レコーディング/ミックス)

ミックスして頂いた音源

3秒でわかりました!プロのお仕事です...。全部の楽器の美味しいところがきちんと聴こえてて、全体も美しいって感じました!ボーカルの質感もめちゃくちゃ美しいです...。感激です。良過ぎて、インタビューの切り口が無限です...>< どうしよ...>< 

そしてインタビューをスタートして程なく、プロ中のプロであることが判明。

横山さん:僕が所属していた会社はチーフエンジニアがヤマハ出身で、社長がユイ音楽工房&フォーライフ・レコードを興した人物だったんです。レコーディングの仕事はヤマハ、ポニーキャニオン系のアーティスト物が8割ぐらいでした。アシスタント時代も含め、関わったのは誰でも知ってるアーティストだと、中島みゆき、長渕、岡村孝子、チャゲ&ASKA、T-squareその他です。チャゲアスは、たまたま巡り合わせで90年から93年ぐらいのアルバムは、ほぼ全曲歌・コーラス、楽器は僕が録ってます。彼らが1番売れた時期です。ロンドンにも拉致されて、2週間歌入れの約束のはずが3ヶ月拘束されたんですよ(笑)。

というわけで、もう、根掘り葉掘り聞き出しました!JPOPの黄金期を支えられたエンジニアのお一人である横山芳之氏のインタビューです。行ってみよう!

☆☆☆

ビシャモン:プロのミックスの手順、教えてください!

横山さん:今回のテーマは「疾走感」にセット。そして多分皆が苦労したドラム。1回目ざっと聴いた時は(スネアがー)と僕も思いました。2回目に聞いたときに変化に規則性が感じられたんでちょっと変化率が大きすぎだけど、意図的にしているのは理解しそのまま使うことにしました。スネアの変化と歌のパートがリンクしていたので、それを基準に全体像を脳内でぼんやりと浮かべ、あとはそれに極力近づくよう、ああでもないこうでもないをしつこくしつこく、リバーブの減衰カーブや切れ側まで精細に意識しつつmix。

プロエンジニア以外がトラッキングしたwavデータを受け取って最初にするのが、2回か3回ほど、バランスも取らずにまずざっと聴いて、漠然とではありますが、サウンド作りの方針をとりあえず決めることです。全トラックを1個ずつチェックしてチャンネルストリップが必要なトラックにはかけてトラッキングし直します。同時に録音レベルを整える。ステレオトラックだけどモノで良いやん、だったらモノトラックにしていきます。この作業を僕はトリートメントと称していますが、速い話が出音をテレコにトラッキングしているのと同じなんですね。1個ずつ順番にやっているうちに、それぞれのトラックがどんな役割なのか、どこで鳴っているのかほぼ把握できます。

トリートメント段階では楽曲全体のサウンド観点より個々のトラックのそれぞれ美味しいところのスープアップといった感じです。トラック毎の美味しそうなとこを少し際立たせておけば、mixのサウンドイメージがまだその段階で朧げであっても、途中でサウンドの方向が多少変わっても問題ないのです。

トリートメントの具体的作業ですが、1トラックずつ

「あ、艶っぽくした方がイイ」

「あ、中域のパンチがもっと欲しくなるだろうな」

「あ、奥に引っ込めた方がいいな」

とか思いつつ、トラック事にやる処理の予定を計画、その作業が楽に実現できるように下地作りをするわけです。mixが進むにつれて、歌の艶が足りなくなりそうだとか、タムの中、低域のパンチがもっと必要になりそうとか。それを最初の段階で、トラック毎に多少演出しときます。これまでの経験から、後の作業で足りなくなりそう、余計になりそうな要素はなんとなく予想つくので下準備ですね。最初に多少でもやっておけば、自分の脳内リソースにも機材のリソースにも多少余裕を作れます。

また、楽器や音色によってmix時にフェーダーが使いやすい位置に来るようトラッキングレベルも調整しておくんですが、昔体に刻んだ技術は忘れないようで、無意識に録音レベルが整っていて、その作業が終わってみれば(ああ、それぞれがこういう録りレベルになったんだね)という感じです。

「最初に決めたサウンドイメージ」というのは、明快に具体的に最初からあるわけではなく、非常に抽象的でもやもやしてるケースが7割ぐらいです。進むにつれて、最初ピントがボケてたイメージが、徐々にピントが合ってくるわけです。ところが、最後の最後までなんとなくいつまでたってもピントがピシッと合わない時も結構あります。そんな時は結局、全フェーダーを下げてしまって1からバランスを取り直した方が早い。

ビシャモン:リバーブが素晴らしいです。スネアのリバーブの減衰でグルーヴが作れますか?次の音が鳴るまでに減衰させるというのをどこかで読んだことがあります。

横山さん:スネアの次の音が鳴るまでに減衰してるのは、結果的にそうなってるだけです。リバーブの減衰で何を表現したいのか、空間の大きさや広がりなのか、リズムのノリを出すためなのか、きらびやかさなのか、奥行きなのか、そういった目的、どうしたいのかを先に決めます。望んだように聞こえるよう調節した結果今回のミックスになっているだけであくまでも結果です。数値がどうとか先に考えちゃうと絶対できません(笑)。だから、mixの解説やら教則物を真に受けてはいけないんです。それでは絶対に理解できるようにならない。なにを表現したいのかを先に決める。

今回のスネアのリバーブはメインテーマ「疾走感」のノリを出すためのテクニックの一つです。なににかけるどんな意図のリバーブであっても、使うリバーブ全ての減衰カーブやリバーブの切れ側まで、100%意図的コントロールするのは当たり前の事なんです。今回はリバーブは5種類使ってます。一つのトラックに2種類以上のリバーブかけてたりも当然です。それぞれに持っている機能でイメージした音に近付けるための手段として。ちなみに、僕はスペクトラムアナライザとか一切使用しません。耳で聞こえて脳で感じる事が全てです。

ビシャモン:全部美しいのですが、歌ものということで、ボーカル処理を教えてください。

横山さん:メインボーカルの高い方にはディエッサー、SSLコンプ、EQ 、LA-2A、パルテックEQ の順に挿し、フェーダーの後からバスで別チャンに立ち上げた1176シルバーパネルに送り、それをパラレルコンプとして元チャンに足してます。歌に大抵のケースで僕はパラレルコンプをこの構図で使う事が多いのですが、コレについては説明困難なほど調節が難しいので今回は割愛。歌とリバーブ音との距離感や、オケと歌の前後感の調整が主な目的です。

メインボーカルの低い方には以上のセットにディエッサーの後ろにさらに1176黒を追加し、トリートメントの段階で1073マイクプリを通し、wav track上で大雑把にレベルをシーンごとに切って調節しました。コンプ前にそれをやっておけば、それぞれのコンプをかけすぎないで済みます。コンプ臭くなるのを軽減しているのです。パラレルコンプでの狙いがあるので、多段掛けのインサートでコンプによって細かいとこをあまり均し過ぎないように。

ビシャモン:リバーブの扱いのコツなどご教示頂ければ!

横山さん:「空間系」で大事な要素は二つあって、まずパッと誰にでも聴いてわかりやすいのは横の広がり感なんです。しかし各トラックの奥行きや位置の前後感はそれ以上に大事。が、前後感、奥行き感は横の広がりを出すよりかなり難しいんです。故に、どんな曲をmixするにしても、リバーブや空間系だけではなく、バランスもそれこそ音圧やサチリも、持てる全ての方法をつぎ込んでmixしています。機材によるサチリ具合の違いによっても、輪郭・奥行きの位置関係に違いが出ます。

そして自然音に時々耳を傾けることです。

例えば今居る部屋で手をポンと叩く。その響きの音、長さ、減衰のカーブやなんかをよく聞く。で、なるべくドライな音で手を叩いて録音て、それにリバーブをかけて生で自分の耳で聞いた、部屋で鳴らした音に近づけてみる。またはその部屋での音を記憶して、あんな音が、響きが、を、必要な時にどう最終的に作品で再現するかをうんと考える、それがいずれ自分の中のリファレンスになります。

昔、物心ついた時には、うちには白黒テレビがありましてね、もう50年以上も前の話ですよ。うちの親父は時代劇をテレビでよく見てました。で、僕も見てるわけです。ある時、黒沢映画の、多分用心棒だったと思いますが、宿場町みたいな屋外を駆けていくシーンで、ボンゴとコンガのBGMが付いてまして、それが小さ目のホールのような残響を伴っていまして、その音が強烈に焼き付いたんですね。あの、ルームサウンドは今でも僕のリファレンスの一つで、しかもかなり重要な位置を占めているんです。アレを再現するには、って。今でも改良中真っ只なか。僕のそれは6、7歳ぐらいの事ですから。

ビシャモン:今回のミックスのリバーブについて具体的に教えてください!

横山さん:一応、自分で試行錯誤した調整のものをデフォルトにしていますが、用途によっては変更を加えます。人の声系に艶が足りないときにちょっぴり足す、人の声系や生ドラム風な打ち込みドラムで、空気感が足りないときにちょっぴり足す、ギターアンプやナマピなどに空気感出したり少し遠くしたい時などにそこそこ足す、各トラックがうまく馴染むように接着剤的に使う、等。

以下の5つがデフォルトセットです。今回のmixでは全部使ってます(全てUADプラグイン)。稀にプロツールスのリバーブが必要な時もあります。

send1 オーシャン・ウェイ スタジオ・シミュレーション

アメリカ・オーシャンウェイスタジオのアンビエンスをシミュレートしたもので、スタジオにマイクを3ペア立ててアンビエンスを拾う体裁になってます。それぞれのマイクはいくつかの長々からセレクトする事と、ペアの距離とペアの間隔を個別に設定し、3つの音量バランスもそれぞれ調整可能です。生楽器をマイクで録音した時の雰囲気を表現するのが一番で「リバーブがかかってんなー」となる程は出さないです。隠し味的要素ですね。だからかける量はほんとに髪の毛1本レベルで扱わないといけないシロモノで、非常に難しいです。

今回のmixでは、メインの歌、ピアノ、バッキングのギター、キック、スネア、ハット、タム、シンバル、ルームにそれぞれ違う分量で、使ってます。

send2 REAL VERB PRO

デフォルト設定はダーク・ルーム。これの用途はsend1で極わずかに下味的な使い方だけでは足りないと感じる場合。主に、もう少しルームのリバーブ感を足したり、更に奥に引っ込めたい時に主に使います。接着剤用途で足す場合もあり。下味プラス味付けの一部としても使うような感じ。パラメータいじるのがかなり複雑で面倒なので、あまり細かくはいじらず、違うプログラムに換えてしまう事もあり。

send3 LEXICON 224X

スモール・プレートを使うことが多い。224以外でもプレート系のパラメータは必ず触ります。特にプリディレイとリバーブタイムは必須で触ります。224は加えてリバーブの距離感も変えられるし、リバーブタイムに至ってはリバーブの低域と高域のリバーブタイム個別設定できる上に、低域と高域を分ける周波数も変えられる。全部触ります。今回はピアノ、リードあと、パッパパラパリヤーに。補足でパッパパラパリヤーの低いパートにはダークルームかけてませんでした。高い方は3トラックまとめてモノにした上で2つリバーブかけ、低い方は2本ずつ左右に振り切ったステレオトラックにした上で4だけかけてます。

send4 RMX

今回はノンリニアというゲートリバーブ的なものを。リバーブのパンは少し狭くしてスネアに、そこまでは理解できると思うけど、gt douleにも少々かけてます。ギターにゲートリバーブ系かける発想する人あんまりおらんと思う。RMXは、リバーブの粒立ちが粗いので、ザリザリ言わしたい音によくつかいます。

send5 EMT 140

3種類あるプレートの1番厚いのを使う事が多いです。プリディレイ・リバーブタイム・内部EQ設定は毎回必須。今回はメインボーカルと、ピアノに。ピアノは2種類のプレートが同時にかかっています。あと、ギターソロにはタップリ140かけて遠くに広がる感じに。リードにも深めにかけてます。padにもたっぷり。

字ハモにはオーシャンウェイと224です。

ソロは軽くEQとコンプで整えただけで、プレートリバーブ深くかけたのみです。要は、その他の楽器と、ソロと、それにかけたリバーブのバランスだけです。バッキングギターに関してはコンプ・EQで作りこんで、ショートディレイでステレオに広げてます。22msecだったかな。最初は18m secだったんだけど、ギターの成分に逆位相成分が混じってるぼくて耳についたんで1m secずつずらして試し、22m secになったんです。

____________

次回は

「音圧でグルーヴが作れますか?」

「どうしたら歌がかっこよく録れますか?」

「ミックスの最初のイメージ作り、元エンジニアは楽勝かもだけど、DTMerはどうしたらいいの?」

などの質問にお答え頂きました!明日アップするよ☆お楽しみに♪


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?