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インタビュー:灯台女子、牧田悠依さんに聞く「暮らす灯台」「過ごす灯台」

世の中に「好き」は数あるけれども、そこに灯台というジャンルがあることを知っているでしょうか。岬にそびえたつ、あの灯台です。
単なる建物の一つとしか見ていなかった人も多いかもしれません。ですが、灯台女子の口から語ってもらうと、実にロマンとたくさんの要素に満ちた灯台のポテンシャルに気づかされます。

「灯台好き」というジャンル

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まずは、そもそもですが、灯台好きというジャンルがあるのですね?

「はい。日本では、あんまりメジャーじゃないですけど、アメリカなどでは、灯台マニアも多いんですよ。アメリカ人は、ご先祖が海を渡ってきた開拓の歴史などからも、灯台にはノスタルジーを感じるようです」

そう語るのは、灯台女子を自称する牧田悠依さん。公務員として働いています。
アメリカ留学の経験があり、ホストファミリーが灯台グッズを集めている様子も見たりしながら、灯台好きの世界に触れてきました。

「アメリカだと、灯台でキャンプみたいなものもあるんですよね」

と、憧れのように話します。

灯台女子が灯台に興味を持つまで

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牧田さんが撮影した写真など(2018年イベントBIRTH VERSE BERTH)

牧田さんが灯台にのめり込むきっかけとなったのは、大学の卒業設計でした。
建築学科だった牧田さんは、課題を自由に選び、設計に取り組みます。そのテーマに選んだのが灯台でした。
しかし、なぜ?

「母が『いつか灯台に住んでみたい』と言っていたんです。ちょっとメルヘンな親なんですよ(笑)。灯台のような、海が一望できるロケーションで静かに余生を過ごしたいと言っていて。それで、私は建築の目線から、では灯台に住むというのはどういうことか、灯台守はどういう暮らしをしているのかを調べ始めたのが、灯台を好きになるきっかけでした」

調べてみると、海外の灯台と、日本の灯台との違いがあることを知ったそうです。

海外の灯台と日本の灯台とは違う?

皆さんも灯台を見たことはあるでしょうし、中に入ってみた方もいると思います。灯台の中は、わりとがらんどうの、ただ階段があって登れるようになっているというものではなかったでしょうか。
それが、海外の灯台はどうも違うようです。

「海外の灯台は筒の中にちゃんと住める空間があります。ミニマムの機能を持ったキッチンなどがあるんですね」

日本の灯台の裏に、お雇い外国人の力

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日本に灯台が建ち始めたのは明治初期の頃だといいます。
それまでも日本には、石灯篭の常夜灯がありましたが、あまり強い明かりではありませんでした。すると、遠目からは目立たず、航海の目印にはなりづらいものがあります。

「文明開化で、外国からの船が来るようになると、目印として、強い光を放つ灯台が必要になります。海外には、フレネル式レンズと言って、光を拡幅するレンズを作る技術がありました。その技術がなかった日本では、お雇い外国人を招き、彼らが日本に急ピッチで灯台を建てていきました」

たしかに目印もない状態で東洋の島国へ向かうのは心細い。早急に建てたかったのも、よくわかります。

「すごく急いでいたから、悠長に灯台の中に部屋とかを作りこんでいる暇はなかったんだと思います。灯台は灯台として建て、それとは別に灯台守が住む家をその横に建てました」

この灯台守が住む家のことを、吏員退息所(りいんたいそくじょ)と言うそうです。

「灯台守も初めはお雇い外国人でした。ですから、西洋風に出来ています。板の間があって暖炉があるような。それが、明治の後半になると解雇されて、彼らは母国へ帰り、代わりに日本人の灯台守がそこに住むようになります。そのタイミングで、板の間が畳に変わったりもしました。外側は洋風なのに、中は和風という改変がされていくんですね」

灯台守がいなくなって

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しかし、そんな灯台守もだんだんといなくなります。

「ランプが自動的に点灯できるようになったり、太陽光パネルなどがあれば自家発電もできますからね」

航海の技術自体も上がりました。GPS技術も進化しています。

「GPSが使えなくなったときのためにも灯台は必要とはされていますが、灯台守は必要なくなりました。吏員退息所も必要なくなりました。灯台は、海上保安庁がちゃんと点検とかしています。けれど、吏員退息所は市町村に払い下げられて、物置になったり壊されたり……。それを活用しようというのが、私の卒業設計のテーマだったんです」

こうやって聞いてみると、灯台に人が暮らす生活感を感じられます。ちなみに、牧田さんは灯台守の生活を知れる資料として、木下惠介監督の『喜びも悲しみも幾歳月』という映画を挙げてくれました。この映画の舞台にもなった長崎県の女島灯台から、灯台守が去り、2006年、すべての灯台守がいなくなりました。

灯台という観光ポテンシャル

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さて、吏員退息所。課題としては、「だいたいが辺鄙な場所にある」と牧田さんは話します。だから、人が訪れづらいのも当然の話。牧田さん自身、なかなか足を運ぶことも難しく、まだまだ見られていない灯台はたくさんあるそうです。

「ただロケーションは抜群に良いです!」

どこも、まさに、オーシャンビューの施設ばかり。そして歴史的価値もあります。
牧田さんが撮って回った灯台や吏員退息所の写真を見させてもらうとたしかにおもしろい屋根は瓦なのに窓は洋館の作り。外国人の灯台守が、異国の日本の地で暮らし……と考えていくと、ちょっとしたドラマを感じます。
灯台も、のっぺりした白い塔だけを想像すると、どっこい縞々の模様がついているものもあります。

「縞々だと、霧が多くても見つけられるからです。赤白や白黒や、かわいらしいですよね」

崖のような場所に立つものもあります。映画『悪人』のクライマックスに出てくるのも灯台。あの寂寥感というか、ものがなしさというか。灯台がドラマチックなロケーションになることに、うなずけます。


海岸線、船、塔、光……。
たくさんの要素が詰まった建物、灯台。灯台女子がその魅力をおしえてくれました。

(インタビュー:2018年)

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