16歳の時の話
ちょっと昔話をしようと思う。
高校1年生の時の話だ。
僕は美術科がある高校に通っていた。
美術科の1、2年生は一学期のテストが終わり、いよいよ夏休みだという頃に2泊3日のスケッチ合宿に行くのが恒例行事だった。富士五湖の一つである西湖へ行くのが定番だった。「西湖サイコー」という何ともよくわからないキャッチフレーズが謳い文句だった。
美術科は1学年40人、男子の人数は1〜5人。
民宿は二つ借りていた。それぞれの学年で丸々一棟民宿を借りる形式だったが、男子の人数は2学年合わせてもせいぜい6、7人なので、僕らはまとめて2年生の先輩達と同じ部屋で泊まることになっていた。
1日目の夜に、O先輩が「麻雀をしよう」と言い出した(勿論賭け麻雀ではない)。やさぐれている先輩ではなかったので、おそらくカイジか何か、漫画を読んでいてルールを覚えたんだと思う。
僕含めて相部屋の一年男子達は麻雀のルールを知らなかったので、先輩が教えてくれることになった。O先輩の周りを皆んながぐるりと取り囲み輪ができた。僕は輪の外側から説明を見ようとした。
その時、同期の男子がふざけて体で隙間を塞いで僕が説明を見れないようにした。"そういうのいらないな"と思いなんとか覗き込もうと僕も体をずらして対抗するが、彼も僕に合わせて体をずらす。そのうち、他の人も面白がってそれに同調して皆が僕が麻雀の説明を見れないように邪魔をするようになった。
は?何だこれ。つまらないな。
麻雀にそこまで興味もなかったし、単純に不快だったので、"あなた達のふるまいで機嫌を損ねてしまいましたよ…!"というオーラを出しながら、雀荘を後にした。
隣の一年女子達の民宿へ遊びに行こうかと思ったが、男子が1人女子達の所へ遊びに行くというのはいくら自分自身の性自認がゲイでも、それを全く知らない周りからは不審だし、おかしな噂が立つと思ったのでやめた。真夜中に人気のない森や湖に行って帰れなくなり大ごとになっても嫌だったので、結局自分の泊まる民宿の玄関の階段に座り込むことにした。単純に"怒りました"という意思表示をすることが目的だったので、行方不明になる必要も人探しイベントをクラスメイトや先生達にさせる必要もなかった。当時の僕はワンセグ機能付きのガラケーを持たされていたので、それで適当にテレビドラマを見て時間を潰して、失踪したと騒がれないように消灯時間の22時ちょっと前を見計らい部屋に戻った。ダサすぎる。
「あ、帰ってきた!」
民宿の二階の大きな流しで歯磨きしながら、麻雀バリケードを作っていた同期その1が声を上げた。
その頃、僕は同期の男子達から気分屋のメンヘラだと思われていたので、バリケードその2は「まぁ突然機嫌悪くなるのはいつものことだから…」と言っていた。
バリケードその3の二年女子の先輩は、少しバツが悪そうな顔をしていた。そんな顔をするなら、初めからしなければ良かったのに。
結局、僕がまたいつものごとく意味もなく突然不機嫌になったかのような扱いをされて終わった。
態度で示したところで所詮誰も他人の心は読めない。結局言葉にしたことだけが伝わる。
他人との間にミスコミュニケーションが生じた時、思考が巡る中でいつも思い出す出来事だ。
あれから十年が経ち、26歳になった僕は麻雀のルールは未だ知らないし、これからも知ることはないだろう。