クリエイター投稿51回目 お金は大事、お金が大事、お金も大事。

コロナ禍になる少し前のある午後のこと、小学生の通学路を自転車で通りかかったときに耳に飛び込んできた一人の女の子の言葉。

「教頭先生はああ言ってたけど、やっぱりお金が一番大事だよね。」

5年生くらいのその女の子は、そう言いながら一緒に歩いていたもう一人の女の子と笑い合っていた。そのあまりにも率直すぎる言い方に、こちらも笑ってしまったが。おそらく教頭先生は、思いやりだの親切だの愛情だのが大切なのだと、偉人の逸話を持ち出したりして小学生に教え諭そうとしたのだろう。その教頭先生の話を聞いてから、何が大事なものなのかをその女の子はずっと考えていた。そして、友達と連れだって家への道を歩いているときにやっと結論が出て発した言葉、というふうに私には聞こえた。なんとも可愛らしく受けとめられたのだ。

教頭先生がどんなに心打つ話をしようと、小学生が周りの大人たちの言動から、あるいはテレビなどを通して学び取ったことというのはそう簡単に変わるものではないのだろう。あからさまな拝金主義とは言えないまでも、お金は力、という風潮は10年も人間やっていれば学習してしまうということか。

またもや昔見たテレビの話を持ち出すが、お金の話に結びつく印象的な番組が二つある。

一つは午後のワイドショーの中で取り上げられたユニクロの柳井氏の記者会見だ。例のごとく私の記憶だけが頼りで、それが放送された詳しい日時、柳井氏の当時の肩書きなどは不明のままということで話を続けるが、ユニクロが世間から隆盛を認知され、私などもなぜか柳井氏の名前を知っていた、というときに、その記者会見がおこなわれた。「ユニクロを展開する柳井氏が、今の世の中にたいしてどうしても話したいことがあるということで設けられた会見です」というようなことをレポーターの人が言った。(これ、間違っていたら、つまり私の記憶違いだったら謝るしかない。) 現代社会に苦言を呈して画期的な提言でもされるのかと、私は大いに期待したのをはっきり覚えているから、おそらくそのような意図で持たれた記者会見だったと思う。私はこの種の、何というか、けりをつけるような言い方に弱くて、「世界一に決着をつける」に誘われてアントニオ猪木対カシアス・クレイ(モハメッド・アリに改名する前の名) の異種格闘技の試合までテレビで見た。

ところが、そこでの柳井氏の発言には何ら目新しいところも注目すべきところもなく、はっきり言って内容はまるで覚えていない。居酒屋でおじさんたちが今の若い者はどうだのこうだのと言うのと同じではないの、と思ったことをはっきり覚えているだけだ。居酒屋のおじさんたちの話は取り上げられはしないのに、この方は同じ事を言っていても、勢いもお金もあるということでわざわざ記者会見をセットされ、テレビで中継までされたのだという思いだけが残った。

もう一つ覚えているのは家人が見ていた演歌の番組を、見るともなしに見ていたときのこと。地方のホールでの公開録画らしく、女性演歌歌手ばかり何人も出演して次々と観客に歌を披露していた。その途中で突如現れた明らかにプロではなさそうな年配の男性が一人、女性歌手の一人とデュエット曲を歌い出した。うまくもなんともない。歌がうまい演歌の歌手たちに交じって平気で歌っているこの人は何者かと思っていたら、その番組か催し自体のスポンサーであったニトリの社長だということがわかった。歌のまずさはご愛嬌で、ニトリさん、お金にものを言わせたのね、と思うほかなかった。

この二つの話をお金と結びつけて解釈しているのは、私がお金にこだわりを持っていて、私自身が拝金主義であることを示しているということだろうか。いや、ばりばりの拝金主義ではないと思いたい。これまで、お金がものを言ったシーンを身近に何度も見てきたので、こういう見方をしたということにしたい。古希に至っても拝金主義というのでは、自分が情けなくなる。

ここで思い出すのは高校の英語の教科書に載っていた一つのエピソード。アメリカ合衆国に留学中のアフリカ出身の生徒が自国、また部族の習慣を紹介する、という文章で述べられていたことだ。そこでは、男たちは出来るだけたくさんの牛を所有することを目指すという。なぜなら「牛を多く持っていると、周りの人がその人の話を聞く」からだ。柳井氏もニトリさんも牛をたくさん持っている人だったのだ。

冒頭に挙げた小学生の女の子、大事なのはお金だけではないということも実はわかっていると思いたい。一緒にいる人と笑い合えることが、そういう大事なことの一つなのだとわかっているのだと考えたい。

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