クリエイター46日目 昔のお日さまの匂い など

洗濯物をたたんでいるとき、必ず思うことがある。からっと乾いたタオルやシャツにあふれていたお日さまのかおりが懐かしいと。以前洗濯に使う石けんは粉石けんというもので、(洗濯機以前の手洗いの時代には固形の洗濯石けん) たぶん石けん自体の匂いはかすかにあるだけだった。香りを目的にした成分は入っていなかったと思う。そのかすかに残る石けんの匂いと、日向臭さが合わさったものが乾いた洗濯物の匂いだった。

柔軟仕上げ剤を使うのはやめている。柔な仕上がりよりも、からっ、パリッとした仕上がりが好きだし、洗濯物には余計な香りをまとわせたくないからだ。香りというものが嫌いなのではない。薔薇や水仙などの花の匂いは好きだし、以前はオーデコロンを集めていたこともあった。ただ、洗濯物には洗濯物らしい匂いをしてもらいたいと思っているからだ。そして、私が思う洗濯物らしい匂いというのにはどうしてもお日さまの匂い、日向臭さが欠かせないというだけのこと。

この日向臭さというものが、変わってきたというかなくなってきたというか、以前とは別のものになっているのを感じる。昔、そう50年ほど昔の洗濯物の匂いと今の洗濯物の匂いでは、お日さまの匂いがはっきりと違っている。

一つ考えられるのは、お日さまの匂い自体は変わらなくても何か余計なものが加わっているのかもしれないということだ。以前、東京の環状7号線、いわゆる環七のそばに住んでいたことがあり、そのときの洗濯物の匂いが田園地帯にある実家の洗濯物の匂いと違っていた、そして今では田舎に戻った私の洗濯物が環七と同じ匂いになっている、という事実からこう思う。要するに、排気ガスなどによる汚染化学物質が大気中にあって、それが洗濯物の匂いを変えているのではないかと。香り成分が多く入っている洗剤や柔軟仕上げ剤を使っていたら、その匂いに惑わされてお日さまのかおりが変わってきているのには気がつかなかったかもしれない。そしてこの変化が大気の変化によるものだとしたら、もう後戻りはできないだろうから、一層あの日向臭さを懐かしく思う。

洗濯物や昼間干した布団は日向臭くあって欲しいように、男は男臭く、女は女臭く、ピーマンはピーマン臭く、トマトはトマト臭くあって欲しい。キュウリなどでも、本当のキュウリの匂いが失われているように思える。店頭で見かけるキュウリよりももう少し大きくなるところまで育ててからもぎ取ったキュウリは、初夏のはつらつとした清涼感全開といった香りに満ちていたものだ。変にとがった青臭さでなく、おおらかで開放的な緑のかおりがした。今そんなものを望むのは無い物ねだりだ。スーパーのキュウリは矯められた青臭さをわずかに残しているだけだし、サラダのキュウリはオリーブオイルだのスパイスの匂いとセットになってしまった。

ホームセンターに行って、キュウリの苗を買って育ててみようか。以前の洗濯物の匂いを蘇らせるのは無理でも、あのキュウリの匂いは取り戻せるかもしれない。

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