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UCL R16 2nd leg ユベントス vs ビジャレアル 〜 ユベントスの苦悩と未来

チャンピオンズリーグベスト8をかけた一戦は、0-3でビジャレアルに敗戦。悔しい結果となりましたが、内容は決して悪いものではなかったと考えています。0-3のスコアは、トーナメント戦でリードされればありうる話。ユベントスのフロントにはくれぐれも監督解任などという失敗を繰り返してほしくはありません。むしろ、ここ数年のCLの中でも将来性を感じさせてくれる敗退なのではないでしょうか。

攻撃的なユベントス

ユベントスのスタメンはシュチェスニー、ダニーロ、デリフト、ルガーニ、デシーリオ、クアドラード、ロカテッリ、アルトゥール、ラビオ、ブラホビッチ、モラタ。守備時には4-4-2と5-3-2を可変させ、攻撃時には3-2-5でボールを保持して押し込むプランだった。特筆すべきは、ボール保持からの攻撃に意欲を見せていたことだ。ビジャレアルが5-4-1でハッキリと引いてきたこともあったが、ボールを持たされているというよりは、ユベントスからボールを保持しようという姿勢が見られた。その中で何度も決定機を作り出してビジャレアルを押し込んで試合を進められたことは何よりの収穫だろう。

ダニーロ、デリフト、ルガーニとアルトゥールで後方の数的優位を確保してボール保持を安定させる。クアドラードとデシーリオはサイドの高い位置まで上がって幅を取る。ブラホビッチが最前線に構えてビジャレアルのディフェンスラインを引きつける。そしてモラタが下がって、ロカテッリは中盤から上がってライン間を使う。中を閉めれば外を使い、外を警戒すれば中を使う。この試合では特にクアドラードが好調で、右アウトサイドでの1vs1で何度も競り勝ちハイスピードのクロスを連発していた。ビジャレアルは徹底して中を閉めてきていたので、クアドラードとデシーリオが両サイドの高い位置で前を向いてボールを受けるシーンが多かった。前半、モラタとブラホビッチがクロスから決定機を迎えていた。ロカテッリやモラタで中を警戒させて外からクロスと効果的な攻撃を仕掛けることができていた。リーグ戦でもブラホビッチやモラタの得点の増加を予感させる。

ラビオは遊撃隊として主に左ハーフスペースを上下して後方のビルドアップ隊のサポートに下がったり、ドリブルでハーフスペースを駆け上がってボールを運ぶ。今後の伸び代としてはラビオをペナルティエリアに飛び込ませることでリスクは追うが、さらに危険な攻撃を展開できるだろう。特に、クアドラード、デシーリオはクロスの質は違えど、その精度は高い。ブラホビッチ、モラタに加えて身長があるラビオまでもペナルティエリアに飛び込んで来ればどんなチームでも両サイドからのクロスは脅威となるだろう。

また、ブラホビッチ、モラタ、ロカテッリは連携不足を露呈していた。互いがライン間や相手を背負ってボールを受けても互いの意思疎通が出来ておらず、単独でのボールキープになってしまっていた。落としを別の選手がもらって前を向いたり、ワンタッチでのパス交換はなかった。これから連携が深まっていけば、さらに魅力的な攻撃が展開できるだろうと期待してしまう。外からのクロスに加えて中を使ったコンビネーションが構築できてくれば、ブラホビッチやモラタの得点もさらに増えてくるだろう。

安定した守備

この試合では、守備も安定していた。GKもビルドアップに参加するビジャレアルに対して、ユベントスは選択肢を奪うタイプのハイプレスを仕掛けた。陣形を4-4-2へと変化してマンマークで捕まえる。ボールホルダーには前進を阻む程度で強くプレスをかけない代わりに、パスの出しどころをマンマークで捕まえてパスを出させない。GKまでボールを下げたらパスを出した選手にプレスをかけていた選手がパスを出した選手へのパスコースを切りながらGKまでプレス。近くへのパスコースをマンマークで潰しておくことでロングボールを蹴らせるように仕向ける。ロングボールを蹴らせたら、予定通りの行動に追い込んでいるわけだからユベントスの方が予測して早く動くことができる。ルガーニとデリフトを中心に落下点に先回りして競り勝ってボールを回収する。選択肢を奪ってロングボールを蹴らせるハイプレスはうまく機能してビジャレアルから何度もボールを回収していた。

仮にマークの遅れやマーカーとの距離を利用してハイプレスを外されてもボールを受けた選手へアプローチを素早くかけて前進を遅らせつつ4-4-2もしくは5-3-2の守備ブロックを形成して引いて守る。中盤のスライドは素早く、サイドではダブルチームでマークに当たってサイドを封鎖。ビジャレアルのFWがサイドに流れることもあって、サイドでのダブルチームは徹底されていた。その上でライン間に位置する選手へのパスコースを絞って守備ブロックの中への侵入を許さない。ライン間でボールを受けられそうになったらデリフト、ルガーニが前に出てマークについて前を向かせなかった。ビジャレアルが攻めあぐねてバックパスでボールを戻すと、それに呼応して素早くラインを上げてハイプレスへ移行していた。ボール保持からの攻撃と合わせて、守備でも試合をコントロールできていた。攻撃、守備ともにロジカルに構築されており、再現性は高いと推測できる。ビジャレアル戦と同じように攻守ともに試合をコントロールすることは今後の試合でも可能だろう。

PKの裏側に…

しかし、1つのPKで全てが狂った。ビジャレアルが先制し、CKから追加点。ルガーニを下げたことで守備のバランスが崩れてしまった。2点を取る必要が出てきてユベントスからバランスを崩してゲームを進めることになったため、3失点は当然の帰結だろう。トーナメントの一発勝負であれば、起きうるスコアであり、騒ぎ立てるほどのことではないだろう。しかし、負けは負け。結果としては積極的に交替策を打ってきたエメリが流れを変えたと言えるし、どのメディアでも言われていることだが、完全に試合を支配していた前半のうちにゴールを決めておきたかった。その点、ルジの好守がビジャレアルの勝利を手繰り寄せたと言っていいと思う。

なお、PKの場面については、ユベントスが見せた隙をビジャレアルが見逃さずに的確についてきた。左サイド深い位置でボールを奪い、ラビオがロングパスをブラホビッチにつけた。おそらく、ブラホビッチ以外の選手は一度納めて時間を作ってくれるものだと思っていたようだ。それまでの時間帯では、ブラホビッチはフィジカルで負けてはいなかった。相手を背負いながらボールをキープしてサイドに展開するなど素晴らしいポストプレーを見せていた。しかし、ブラホビッチは左足アウトサイドでフリックしてDFを躱そうとした。そのボールをカバーに入っていたビジャレアルの選手に奪われてしまった。その時、ラビオはまだペナルティエリア内にいたし、アルトゥールも左サイドから戻っていなかった。ビジャレアルにボールが渡った時点でユベントスの守備ブロックは明らかにバランスを崩していた。

その後のビジャレアルは、アルトゥールがいない左ハーフスペースに展開し、そこを起点にライン間に入ってきたコクランにパスが通った。コクランはファーストタッチでルガーニの逆を取り、ペナルティエリアに侵入。ルガーニがボールを取りに足を出したところを先に触ってPKとなった。ルガーニは足を出さずにそのまま着いていっていれば失点しなかったかも知れない。しかし、コクランにシュートを打たれていれば、位置、角度を考えても、やはり失点していた可能性も十分あるため、ルガーニのプレーは責められないだろう。

継続的な成長を

ブラホビッチの相手をかわしに行ったプレーはボールを受けた位置が自陣だったことを考えれば軽率だったように思う。さらにラビオがロングパスを蹴った時点でアルトゥールやラビオは少なくともポジションを回復するために走るべきだっただろう。この時、ブラホビッチのボールロストのために動けていたのがロカテッリ、ルガーニ、デリフトと言った若い選手だったことも少し興味深い。彼らはブラホビッチのプレーも予測もしくは理解できるのだろう。若気の至りというか、自らの手でチームを助けようとした積極的なチャレンジと捉えて、ミスをカバーしようとしていたように見えた。一方、モラタ、ラビオ、アルトゥールらベテランの域に差し掛かろうという選手たちは、とりあえずブラホビッチにキープしてもらって、2、3本パスを繋いでボール保持のフェーズに持っていこうという頭が先にきて、少し休もうとしていたようにも見えた。ジェネレーションギャップのようなものが見えたようにも思えたが、実際のところはどうなのだろうか。

ユベントスは世代交代を図り、ブラホビッチ、ロカテッリ、ペッレグリーニ、デリフト、キエーザ、マッケニー、ザカリアといった20代前半の選手を積極的に獲得・起用している。さらにはデヴィンター、アケと言った下部組織出身の若手にカップ戦やセリエAで経験を積ませている。さらにユベントスに長く在籍している選手も減ってきている。ビジャレアル戦で先発した選手の中で、第一次アッレグリ政権期からユベントスに在籍している選手は、クアドラードとシュチェスニーだけだった。デシーリオは昨年チームを離れている。サッリ、ピルロ、アッレグリとタイプの違う監督が一年おきにやってきて、フロントを含めてユベントスという組織自体が迷走している時期にチームに加入した選手がピッチに立っていた。つまり、最後の最後まで戦う、全員で守備をするなどのユベントスの文化がまだ選手に浸透していない、もしくは選手全員の共通理解になり得ていないのは必然といえる。そこにあるのかどうかは定かではないが、ジェネレーションギャップまで絡んでくれば、かつてのユベントスならあり得ないPKを取られても不思議はない。この敗戦は、過去3年間のユベントスの迷走の膿を出しきる為に必要だったのかも知れない。

このPKの取られ方に、過渡期にあるユベントスの苦悩と、今後の伸び代を感じたのは私だけではないだろう。

アニェッリとネドベドへ…

ビジャレアル戦の結果だけでアッレグリを解任するのはやめてください。

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