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セリエA 第27節 エンポリ vs ユベントス 〜ディバラの生きる道

エンポリとのアウェーゲームは3-2で勝利。ケーンとブラホビッチのゴールで逃げ切りました。この試合を見ていて考えたことを書いておきます。

テクニカルなゲームを望むユベントス

ユベントスのスタメンは、シュチェスニー、ダニーロ、ボヌッチ、デリフト、ペッレグリーニ、クアドラード、ザカリア、アルトゥール、ラビオ、ブラホビッチ、ケーン。控えには若手がズラリと名を連ね、ベンチでセリエAやヨーロッパの舞台で実績がある選手はデシーリオ、モラタ、ロカテッリしかいないという状態。ケガ人が続出して本当に厳しい状況に追い込まれている。実際、交代カードは2枚しか使わず試合を終えている。

トリノ、アタランタ、そしてエンポリとフィジカルに特徴のあるチームとの連戦。一月から続く週2試合のスケジュール。明らかにユベントスのフィジカルコンディションは悪化している。この試合でもザカリアが負傷交代してしまった。さらに交代で出てきたロカテッリは特に守備において足が動いておらず、何度か中盤のスペースを閉めきれないシーンもあった。ディフェンスラインと中盤は明らかに人が足りていない。思いがけない若手の抜擢など、あっと驚く選手起用があるかもしれない。現在はブラホビッチ、デリフト、ラビオといった怪我が少なく無理のきく選手に頼り切りになってしまっている。

できるだけテクニカルな試合に持ち込み、フィジカルの消耗を避けたいユベントス。一方のエンポリはやはり勢いよくハイプレスに出てフィジカルなゲーム展開に持ち込もうとしていた。しかし、この試合ではペッレグリーニが左SBとして起用されていた。ペッレグリーニは攻撃時は高い位置にまで顔を出してポジショニングによってボールを前進させられる。ボールを持ってもドリブルでボールを運ぶこともできるため、左サイドの攻撃はうまく回っていた。右サイドはクアドラードがかなりフリーに動き回っており、ザカリアやダニーロが右サイドの幅を取ることもあった。ロカテッリが投入されてからはロカテッリもタイミングよく前線に上がってペナルティエリアに侵入したり、ハーフスペース深くまで入り込んでクロスを送るなど、ボール保持からの攻撃でもペナルティエリア内に3人以上送り込むことができていた。ボールよりも前にラビオやザカリアといった中盤の選手が飛び出すシーンも増えていた。ブラホビッチの決定力の高さもあり、今後も複数得点を期待できるだけの質の高い攻撃ができていたように思う。

この試合で出色の出来だったのがアルトゥールだ。エンポリがハイプレスに出てきても、CBからボールを引き取り、得意のアウトサイドを使ったターンでマーカーを翻弄してボールをキープ。他にもワンタッチで味方に叩いてポジションを取り直してボールを受けるなど、巧みにプレスを外してエンポリの守備陣を引かせてしまった。カウンターの場面でも的確にボールを前に送ってチャンスメイクに貢献。決定機の起点となっていた。

エンポリのハイプレスに晒されながらも、アルトゥールのおかげでフィジカル勝負に巻き込まれることを避けられたユベントス。連戦の疲れからか、中盤のプレスがうまくかからずに何度かエンポリにもチャンスをつくられた。セットプレー崩れから2失点したが、ボール保持からハイプレスを外してエンポリの裏をついて2得点。さらに自陣からのカウンターから1得点。その他にもチャンスは作っており、攻撃についてはブラホビッチを中心に悪くはなかった。

中に絞ったカウンター

面白かったのが、カウンターの場面でクアドラードが極端に中に絞って来ていたこと。3点目のシーンでは、自陣でボールを繋いでペナルティエリア前でアルトゥールが前を向いた時にクアドラードがセンターサークル付近まで絞っていた。そのクアドラードからモラタ、ブラホビッチと繋いでゴール。ゴールに近い中央を使ったカウンターだった。

クアドラード、ケーン、ブラホビッチはポジティブトランジションでの動き出しが早く、エンポリの先手を取れていた。ポジティブトランジションで先手を取って中央にスペースがある状況をカウンターで突くことが出来ていた。この点はとてもポジティブに捉えていいのではないか。

ファーサイドを押さえろ

セットプレー崩れから2失点。いずれもファーサイドに流れたボールを押し込まれた。今季のユベントスはクロスがファーサイドに流れたところから失点するケースが多い。特にエンポリ戦のように4バックで守る時にファーサイドでよくやられてしまっている。常時5バックで守る必要はないが、セットプレーや押し込まれてクロスを上げられるというシーンに関しては、逆サイドのSHを下げるなど、ファーサイドをケアできるように守備の原則を作っておく方がいいだろう。

現代フットボールの潮流とディバラ

とにかく、ユベントスのフィジカルコンディションは危機的状況にある。ケガ人を多数抱え、稼働可能な選手も連戦の疲労を蓄積してしまっている。

どのリーグもリーグ戦だけでなく、国内カップ、リーグカップ、上位チームはヨーロッパのカップ戦も戦っている。選手個人に目を向ければ、各国代表に選出されれば、インターナショナルマッチウィークもゲームがあり、世界を飛び回っている。疲労が蓄積しない方がおかしい。しかも、その上でハイプレス全盛の現代フットボールにおいては、毎試合強度の高いプレスを求められ、もしくは強度の高いプレスに晒される。とにかく速いプレスがトレンドとなっている。中でも海外資本が流れ込んで選手も監督も世界トップクラスが集まっているプレミアリーグが時代を牽引している。ジャッジもプレミア仕様のハードなフィジカルコンタクトを容認する方向になってきている。背後からのチャージも流されることが多くなっている。猛スピードでボールホルダーにプレスに行くため、アフター気味にぶつかったり、足を蹴ったりすることも多い。しかし、ボールは展開されているのでアドバンテージをとって、結果として何のお咎めもないケースが多い。挙句、ハイプレスを外されそうになったら相手を抱え込んで止めてしまう選手も大勢いる。そうなったらもうラグビーではないか。過密日程で披露が蓄積した上、激しいフィジカルコンタクトに晒される。怪我をするなという方が酷な状況ではないか。

ズバリ、現代フットボールにおいては、選手は消耗品なのだ。怪我をして離脱するのは当たり前。監督には重要な選手を怪我させないためのマネジメントが求められる。大幅なターンオーバーを行うなどの対策が必要となっているが、そのためには高いレベルで選手をそろえる財力がどうしても必要となってしまう。その意味で最近のCLをプレミア勢やPSG、バイエルンが席巻しているのは当然だろう。

ケガが少なく無理が効く若い選手が重宝されるのも必然だ。ブラホビッチ、ムバッペ、ハーランドらを筆頭に、高額の移籍金を支払ってでも有望な若手の獲得に乗り出すのは、将来性だけでなくフィジカル面でも価値を見出しているのだろう。世代交代を迎えたユベントスが19-20シーズンから苦しんでいるのも当然と言えば当然なのかもしれない。今後は、これまでよりも世代交代や若手の登用を積極的に行うチームが生き残っていくようになるだろう。

また、替えのきかない絶対的な選手に頼ったチーム作りも危うくなってきている。数シーズン前のシティがいい例だ。デブライネのケガで不調に陥り、リーグ戦でリバプールの独走を許してしまった。怪我による離脱やターンオーバーを敷くために毎試合特定の選手をピッチに送り出すことは、もはやできない。絶対的な選手がピッチにいるかいないかでチームがガラリと変わってしまうようでは安定して勝ち点を積み重ねられない。ロナウドやメッシのように、守備を免除されてフィジカルの負担が少なく、かつ熱心にトレーニングに打ち込んでコンディション調整に余念がない稀有な選手以外は中心に据えることはできないだろう。

ディバラの未来

さて、そんなことを考えていると、ディバラの行く末が気になった。今季、アッレグリはディバラを中心に据えたチーム作りに取り組んできた。ディバラに自由を与え、ボールを保持してチーム全体で押し込むスタイルを目指してきた。しかし、度重なる怪我によってチームの方向性は変更に変更を重ねていまだに定まっていない。良く言えば全方向型のバランスの取れたチームとも言えるが、悪く言えば特に尖った特徴のないチームとも言える。ディバラがいない間に自陣で守備ブロックを敷いて守る堅い守備が構築されつつある点はユベントスのアイデンティティの復活と見てもいいだろう。ただ、そのチームにディバラは必要だろうか?中3日でゲームが組まれてしまうユベントスのスケジュールに、おそらくディバラは耐えられない。筋肉系の故障を頻発して離脱を繰り返してしまっている。つまり、ディバラを中心に据えたチーム作りは継続的な成長が見込めないことになる。これでは、チームもディバラも互いに不幸ではないか。

ディバラの能力に疑いの余地はない。柔らかいボールコントロール。狙い澄ましたシュート。鋭いサイドチェンジ。チームに大きなプラスをもたらしてくれる。ただし、万全のコンディションであればという条件付きでだ。残念ながら、ディバラに週に2回ピッチに立つことを求めるのは酷だ。怪我につながる可能性が高い。だとすれば、方向性は2つ。週に2回試合がないクラブに行くか、ターンオーバーを受け入れるかだ。ターンオーバーを受け入れるなら、必然的にユベントスはディバラ中心のチームではなくなる。ピッチにいないかもしれない選手を中心としたチーム作りはできないからだ。デブライネも、ヴォルフスブルクの時は王様として君臨して一人でバイエルンを退けたこともあった。しかし、現在のシティでは重要なピースではあるもののチームのメカニズムの一部としてプレーしている。

ここからは私見になるが、ディバラはチームのメカニズムの一部としてプレーするよりも、ディバラ自身が好き放題プレーする方が輝けるように思う。ディバラが最も得意とするプレーが、ライン間でボールを受けて正確なシュートを流し込むプレーだからだ。さらに、ディバラ自身がボールに触ることで調子を上げていく選手であり、かつスピードでディフェンスを振り切ることができるわけではないことも大きい。ディバラはボールに多く触りたがる選手であり、ライン間で持ち味を発揮する。そして、カウンターで裏を取る選手ではない。つまり、ディバラはポゼッション型のチームで自由を与えられた上で周りのサポートを得られた時に輝けるのだろうと考えられる。ポゼッション型のチームの王様になるしかないのだと思う。今季のアッレグリは、ディバラのためにそんなチームを用意しようとした。しかし、度重なるケガで難しくなってしまった。ブラホビッチがチームの軸として君臨している今、ディバラが戻ってきた時にディバラを中心にしたチームがそこにあるだろうか?それとも、ディバラが多少は大人になってチームの中での役割に徹することができるだろうか?ユベントスの中で生きていくならば後者しかあるまい。守備の負担を受け入れ、不必要にボールに触りたがって下りてこないこと。最低でもこの2点をディバラが徹底できるなら、ユベントスがディバラを活かし、ディバラがユベントスを勝たせることができるだろう。しかし、これではディバラはボールに触りながら調子を上げることができない。その点をクリアできなければ、結局ディバラは輝けないかもしれない。

とすれば、ディバラを王様として迎え入れてくれる移籍先を探す方がディバラにとって幸せということになる。しかし、ハイプレス戦術全盛の現在、そんなチームはあるのだろうか?プロビンチャであっても、いや、プロビンチャだからこそ全員でハイプレスに出て守備で動き回ることを求められるだろう。

候補があるとしたら、インテルだ。インテルは攻守にわたってメカニズムが明確に定まっており、2トップはハイプレスをかける時には明確にタスクを割り振られる。しかし、引いて守るフェーズでは、センターサークル付近まで戻ってくることは求められるが、中盤の守備ラインに参加することまでは求められてはいない。なおかつ、インテルの弱点は、特に攻撃のメカニズムがあまりにはっきりしすぎていることだ。前線の選手たちは守備のポジションから真っ直ぐ上がることで攻撃に出ており、前線で流動性はほぼ皆無だ。相手にとっては読みやすい攻撃になってしまっており、対応されるとなかなか点が取れない。その点、自由気ままに下りたり開いたりするディバラはインテルの攻撃に流動性と意外性をもたらす貴重な存在となる可能性が高い。しかも、インテルの選手たちはコンテ、シモーネ・インザーギが植え付けた細かな戦術を理解して実行しており、戦術理解度は高いはずだ。ビルドアップについては3バックとブロゾビッチがポジションを入れ替えながらボールを保持・前進させるという高い流動性を誇りながら同時に秩序立ったメカニズムを披露している。おそらく、ディバラの自由な動きに合わせてインテルの選手たちは的確にポジションを取ってくれるだろう。全員が素早いネガティブトランジションでボールを追い回してくれるだろう。そして、インテルのカッチリとしたメカニズムはディバラが不在なら不在で機能するだろう。ディバラもラウタロあたりとのターンオーバーで休みながらも、出場する試合では王様としてプレーできる理想的なチームなように思う。

インテルは来夏、フリーでディバラを迎え入れる準備があるようだ。ユベントスでチームのメカニズムの一部として活きる道か、移籍によって王様として輝く道か。過密スケジュールとフィジカルなゲームが全盛の現代サッカーで、圧倒的な才能はあれどケガがちな「ガラスのエース」が生きる道は残されているのだろうか?

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