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セリエA 第8節 ユベントス vs ローマ


アッレグリとモウリーニョの「名将対決」と言われたユベントス vs ローマ。観戦した雑感を残しておきます。

ドリブラーが揃うローマ

モウリーニョを招聘し、新たなプロジェクトを始動させているローマ。積極的に若手を起用して縦に速くアグレッシブなチームを作ろうとしている。

特に目立ったのがドリブルだ。ザニオーロ、ムヒタリアン、エルシャーラウィなど、長い距離をドリブルで運んだり、相手のプレッシングをドリブルで剥がすプレーが多く見られた。引いて守るユベントスの守備陣をドリブルで切り裂くシーンもあった。ローマの攻撃はドリブルで仕掛けるところから始まる。

近年、グアルディオラのバルセロナなど、さまざまなチームによって相手の守備ブロックを論理的にこじ開ける方法が提示されてきた。その根幹は、ライン間と呼ばれる守備ブロックの中でボールを受け、プレスに来たところでボールを逃がすことにある。この一連のプレーで相手の守備ブロックを収縮させ、それによって生じたスペースにボールと人を送り込んで守備ブロックを組んでカバーしようとしていたスペースを利用する。そのスペースをカバーするために他の守備の選手が動き、整然と整えられていた守備隊形が破壊される…。ポイントは、ライン間でボールを受けることだ。そのままフリーにしておくわけにはいかないので、誰かがプレスに動く。守備者が動くことで守備ブロックに綻びが生まれる。

ローマは、ライン間に人を置いて、パスを差し込むのではなく、ドリブルによって守備ラインを突破してライン間に侵入しようとしているところに異質な特徴がある。ドリブルによって守備者を引きつける形で動かすことで、同じような効果を得られる。むしろ、自分のマーカーとカバーに来る選手の最低2人を確実に引きつけられるため、ドリブルでライン間に侵入するプレーの方が効果は高いと言える。ローマが最後までユベントスを崩しきれなかったのは、ドリブルからパスの選択がなかったからだ。いくら鋭いドリブル突破でも、守備に囲まれたら、ドリブルのコースやシュートコースは限定される。ユベントスは、その状態になってからシュートコースを確実に塞いでシュートブロックでローマに得点を許さなかった。ある意味ではユベントスの守備にうまく守られたとも言える。

ローマとしては、ドリブルで数人、少なくとも2人は引きつけることはできているわけだ。そのままドリブルを継続して選択肢がシュートに限られる前にボールを味方に渡すことができれば、その選手に時間とスペースを与えることができる。しかも、ユベントス戦を見る限り、ローマの選手たちはアタッキングサードでもユベントスの守備ブロックを内にドリブルで侵入できていた。もし、そこから周りの選手にパスを出して時間とスペースプレゼントできたなら、その位置はゴールに近い位置になるだろう。決定機につながる確率はより高くなるはずだ。

ただし、ドリブルには一つ欠点がある。周りを見る「認知」が難しいことだ。足下でボールを触りながらスピードを上げ、かつ守備者を躱しながら、となるとどうしても目線はボールに行き、視野は狭くなる。周りのスペースや味方の位置まで認知するのは難しい。認知が可能なのは、ドリブルの進行方向だ。ドリブルの進行方向ならば、少しだけ顔を上げる、視線を上げるだけで視ることはできる。あのメッシでさえ、速いスピードのドリブルで仕掛けた後のアクションは、進行方向への縦パスや斜めへのスルーパス、シュートにほぼ絞られる。そして、ローマは進行方向への味方の動き出しやサポートがなかった。ディフェンスラインの裏へ走り抜けるアクションや、ワンツーの壁になるためのポジショニングなどだ。例えば、裏へ走る選手がいたら、その選手へのスルーパスも出せるし、ディフェンスが走る選手に引っ張られれば新しいドリブルのコースが開く。チームとして、ドリブルでライン間へ侵入する選手へこれらのサポートをすることができれば、ローマの攻撃はさらに脅威になるはずだ。

付き合わないユベントス

一方のユベントス。ローマに対してボール保持と自陣で守備ブロックを敷いて構えて守ることで試合を落ち着かせる。ローマが狙う縦に速い展開に持ち込ませない。徹底して試合のリズムを落とすようにゲームを進める。

まずはボール保持。ローマが4-4-2をベースに守備をしてきたため、今季のユベントスが採用しているダニーロを残した擬似3バック+ロカテッリによるビルドアップが機能した。ローマの2トップに対して4人という数的優位を活かして後方のポゼッションを確立し、サイドを経由して比較的安全にボールを保持、前進させることができ、ユベントスのボール保持の時間を確保することに成功した。ただ、自陣でドリブルして2タッチ目が大きくなるキエッリーニ、ホームの芝で滑るクアドラードなど所々やらかしたため、ローマに決定機をプレゼントしてはいたが…。この辺りはご愛嬌といったところか…

一方の守備。ハイプレスと自陣で構える守備を使い分けてローマをコントロールしようと試みた。ローマの陣地ではマンマークでついてプレスをかけると同時に逆サイドを捨てて後方の数的優位を確保するチェルシー風味のハイプレスを敢行。何度か高い位置でボールを奪い、アバウトなボールを蹴らせて後方で回収するなど有効に機能していた。先制点を奪ってからはハイプレスは鳴りを潜め、自陣で構える守備がメインになっていった。

自陣で構える時は、ベースは4-4-2。ただし、相手左サイドの選手が高い位置まで進出してきたときには、クアドラードがディフェンスラインまで下がって5バックに可変する。その場合は、ダニーロが中盤まで上がってライン間にポジションを取る選手のマークに当たっていた。5バックに可変してディフェンシブサードで穴を作らない。まずは失点をしないことを最優先にした守備を徹底している。ローマに押し込まれてドリブルを中心に仕掛けられても、ディフェンスラインに5人揃えているのでカバーが間に合い、シュートブロックで防いでいた。

ローマ戦で注目していたのはベルナルデスキだった。この試合、ベルナルデスキは守備時は4-4-2の中盤左サイドで起用された。シーズン開始当初は中盤の守備でズルズル下がって相手の前進を止められない悪癖が出てしまっていたが、縦へのパスコースを切りながら前に出ていく守備ができるようになっていた。このベルナルデスキの守備によって左サイドでも簡単に相手に前進を許さずに守備陣形を維持することができるようになり、ユベントスの守備の安定感が増した。今後はベルナルデスキは中盤左サイドでの起用も増えてくるだろう。

しかしながら、守備ブロックを敷いて自陣で守る際、ケーンとキエーザのツートップの守備は弱点となってしまっていた。2人の守備ではローマのCBからアンカーの位置にいる選手へのパスコースを切れない。そのことでローマは中盤の低い位置を起点にして攻撃を仕掛けることができる。そのため、ユベントスは下がらざるを得なくなってしまう。前半、ユベントスが先制して以降ローマが押し込めたのはこのためだ。
ハイプレスをやめて自陣に守備ブロックをセットするように守備方法を変更した途端、アンカーの位置の選手にスパスパパスが通るため、アンカーの選手より後ろに4-4もしくは3-5の守備ブロックを敷かなければならなくなった。しかも、中央で起点を作られているため守備ブロックも中央を閉めなければならず、必然的にサイドは開いてくる。アンカーポジションの選手を経由されることでスライドが遅くなり、結果としてサイドの深い位置まで侵入を許すことになる。
一方、後半から出てきたモラタとクルゼフスキはアンカーへのパスコースを切りながらCBにプレスに行っていた。この守備ができれば、アンカーを経由させずにCBからボールが展開されるため、守備側もその後の展開が予測しやすく、守備ブロックのスライドも速くなる。そのため、ユベントスはサイドの高い位置からプレスに行くことができるようになり、相手の前進を早い段階で食い止めることができるようになる。守備ブロックを押し上げ、比較的高い位置でのプレスを行いやすくなるのだ。モラタ、クルゼフスキが出てきてからは、ローマにゴール前まで運ばれる機会が大きく減少している。

ローマの弱点とは

DAZNの中継では、アッレグリは「ローマの弱点は心得ている」とコメントしていたと紹介されていた。さて、ローマの弱点とは何だったのだろうか?おそらく、「4バックであること」だったのではないだろうか。ローマの両ウイングはザニオーロとムヒタリアンだった。ユベントスのクアドラードのようにディフェンスラインに加わって5バックになることはない。そして、ユベントスはクアドラード、ケーン、キエーザ、ベルナルデスキ、デシーリオが前線まで上がって攻撃に参加する。単純にゴール前で数的優位を作ることができるわけだ。ゴールシーンを見てみると、右サイドのクアドラードから上がってきたデシーリオに鋭いサイドチェンジのパスが出る。対応したのはザニオーロで、ローマは4バックでゴール前を固めていた。デシーリオがカットインからファーサイドへクロス。ローマの左SBに対してケーンと飛び出してきたベンタンクールが競り、その外にはクアドラードも上がってきていた。サイドを起点にクロスを上げた時、ローマはファーサイドにSBしかいなくなる。アッレグリはこの点に狙いを定めていたのではないだろうか。デシーリオ、クアドラードのクロス精度は高く、正確にファーサイドへボールを送り届けることができる。

総括

ローマは若い選手を積極的に使い、縦に速い展開で流れを掴んで試合を動かしたかったところだろう。ユベントスにうまくいなされてしまった感じはあったが、ドリブルを中心とした仕掛けは魅力的で、今後の成長が楽しみなチームだと思った。

ユベントスはPKの判定に救われる形になったが、狙い通りに試合を進めることはできていたように思う。次はインテル戦。インテルはユベントスの3バックへ可変するビルドアップにもマンツーマンでハメにくるだろう。そうなった時にユベントスはボールをインテルに渡すのか?ディバラの先発起用が難しいとしたら、キエーザとモラタの組み合わせでボールを渡してカウンター狙いというプランもあり得るだろう。インテルはブロゾビッチとデフライ、シュクリニアルが頻繁にポジションチェンジを行なってマークを剥がしながらビルドアップを行う。ハイプレスでビルドアップを破壊するのは難しそうだ。おそらく引いて構える守備をベースにしてくるだろう。そうなると、ボールを保持するインテルに対して自陣で守りながらカウンターを狙うユベントスという構図が予想できる。おそらく、現在のユベントスの守備ならインテルの攻撃は受け切れるだろう。インテルからどうやって点を取るのか。アッレグリはどんなところに目をつけたのか。月曜日の早朝が待ち遠しい。

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