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セリエA 第22節 ユベントス vs フィオレンティーナ 〜アッレグリラボへようこそ

フィオレンティーナとの一戦は、ラビオのゴールで1-0の勝利。厳密なVAR判定によって互いにゴールが取り消され、いまいちパッとしない感じもありますが、クリーンシート継続は評価すべきでしょう。何より、ブラホビッチ、ディマリア、キエーザを共存させた攻撃的な3-4-3を試してきました。試合の簡単な分析を通して、ユベントスの3-4-3について考えてみたいと思います。

ユベントス 3-4-3

ユベントスのスタメンは、シュチェスニー、ダニーロ、ブレーメル、サンドロ、デシーリオ、ラビオ、ロカテッリ、コスティッチ、ディマリア、ブラホビッチ、キエーザ。今回の試合を見る限り、ベースフォーメーションについては5-2-3ではなく、敢えて3-4-3とした。守備の際にもコスティッチ、デシーリオともに意図的に中盤のラインに留まろうとしていたからだ。意図してWBに高い位置を取らせようとしていたように思った。その理由は、ブラホビッチ、ディマリア、キエーザをできるだけ相手ゴールから近い位置に置いておきたいから。加えて、コスティッチを高い位置に残して攻撃性能を発揮させたいという意図もあるだろう。攻撃においても、守備においてもチーム全体としてできるだけ前に出てゴールに近い位置でプレーしようとしていた。

攻撃のメカニズム

両サイドをデシーリオとコスティッチが駆け上がって幅を取り、ブラホビッチが中央で相手CBを引きつける。キエーザとディマリアはフリーで動き回って攻撃に流動性と意外性をもたらす。さらにラビオもペナルティエリアに飛び込んできて攻撃に厚みと迫力を付け加えていた。ロカテッリもペナルティエリアすぐ外までポジションを上げて、チーム全体を押し上げることにも成功していた。ファイナルサードに人数をかけ、人とボールが動くとても魅力的なアタックが仕掛けられていた。得点シーンや、コスティッチの惜しいシュートシーンはその最たるものだ。フィオレンティーナも中盤の選手も下げて守っていたが、ユベントスはペナルティエリア内でもフリーになる選手を作れていた。あと2、3点とっていてもおかしくはなかった。最低限の約束事を決めて、あとはクオリティの高い選手のテクニックとフレアに委ねる。アッレグリらしい攻撃の構築の仕方だと思う。

出色の出来だったのが両サイドのコスティッチとデシーリオだ。

コスティッチは守備の時から高い位置をできるだけ維持して、攻撃参加を狙っていた。左サイドを駆け上がってクロスを上げるのはもちろんのこと、逆サイドからのクロスにダイアゴナルに飛び込んでシュートや折り返しを狙うプレーも多く、より決定機に絡むプレーが増えていた。

デシーリオは主にチャンスメイクで目立っていた。右アウトサイドを駆け上がって幅を取り、鋭いクロスからチャンスを演出。デシーリオはディフェンスラインまで下がって守備をするケースも多く、ペナルティエリア横まで駆け上がるのはなかなか大変だと思うが、攻撃の際は当たり前のように右サイド高い位置まで顔を出していた。(それに引き換えサンドロは…)加えて、守備でも複雑なタスクをこなしてチームのメカニズムを機能させていた。

守備のメカニズム

攻撃的な選手を多く起用すれば、難しくなるのは守備の方だ。しかし、それこそアッレグリの得意とするところだ。この試合では、キエーザを中盤の守備ラインに下がらせることでバランスを取ろうと試みていた。想起させるのは、第一次アンチェロッティ時代のディマリアだった。ウイングとしてプレーしながら、守備では中盤まで戻ってバランスを取る。任せられているタスクは似ている。その先駆者であるディマリアと現在そのタスクに挑戦しているキエーザが同じチームでプレーしている。面白いドラマが繰り広げられている。

守備時の具体的なプランは、ハイプレスだった。コスティッチを前に出して、フィオレンティーナに対してマンツーマンでプレスをかけに出た。勢いに任せてプレスに出る、フィオレンティーナに対する一種の意趣返しのように見えた。その分、ハードな当たりや無理なチャージが多くなってユベントスの方がカードを多くもらってしまった。それもこれも、ブラホビッチ、ディマリア、キエーザを下げたくないから。この3人をできるだけ高い位置に留めておくためにもハイプレスをかけて高い位置から守備をする。結果としてファウルが多くなり、ボールをセットしている間にユベントスは守備ブロックを形成する。その形は、ブラホビッチとディマリア2トップ気味に残し、キエーザを中盤に下げてコスティッチを中盤に残した4-4-2だった。4バックの並びは、右からデシーリオ、ダニーロ、ブレーメル、サンドロになる。ただし、攻撃時にはディマリアとキエーザはフリーで動き回っているため、右サイドから攻め込まれているのにキエーザが右にいないことはよくある。その時はデシーリオが前に出て右サイドの高い位置から守備をしていた。キエーザが右サイドに戻ってくればデシーリオはマークの受け渡しをして守備ラインに下がる。キエーザが左サイドに戻ってくれば、デシーリオはそのまま中盤の守備ラインで守備をして、ディフェンスラインが右にスライドしてコスティッチが下がる。

アッレグリラボ

とにかく、キエーザが中盤の守備ラインに下がって4-4-2の守備ブロックを形成することは約束事として共有する。しかし、どこに下がってくるかは攻撃時のポジショニングによって異なり、その状況に応じてコスティッチ、デシーリオ、3バックが臨機応変に対応する。といった具合だろう。ユベントスの守備は、ゾーンディフェンスを基本としている。ゾーンディフェンスにおいて大切なことは「そこにいる」ことになる。相手が使えるスペースを消してしまうことが最も大切になるからだ。そこにいてさえくれれば、キエーザでも、ラビオでも構わない。その選手の守備力やフィジカルの高さはあまり関係はない。相手に使わせなくないスペースを消してくれればそれでいい。自由気ままなプレーをするキエーザをハイプレスをかけさせながらゾーンディフェンスに組み込む。ユベントスが誇るブラホビッチ、ディマリア、キエーザのトリデンテを起用する上で、現時点でのアッレグリの解答はこれなのだろう。3-4-3は、トリデンテの同時起用からスタートして辿り着いた一つの答えなのだと思う。

ただ、3-4-3を試すのはこの試合が初めてだ。そのため、キエーザやディマリアのフリーロールにフィオレンティーナの守備も手を焼いていたが、守備時には味方も振り回される形になってしまった。キエーザが返ってくる位置やタイミングによってマークにズレが生じてフィオレンティーナの選手をフリーにしてしまうこともあった。

また、3-4-3の明確な課題として、セカンドボールの処理が持ち上がってきそうだ。前述の通りポジショニングが混乱してクロス対応のためにロカテッリがディフェンスラインまで下がることが多かった。その状況でクロスを跳ね返しても、セカンドボールにチャレンジできるユベントスの選手がいなかった。前半ロカテッリがダンカンの上に乗った状態でシュートブロックしたシーンや、後半のVARで取り消されたフィオレンティーナのゴールが典型だ。ロカテッリがクロス対応に駆り出されると、守備のポジショニングが上手い選手が中盤からいなくなってしまう。キエーザは言うまでもないが、ラビオもその辺りは怪しい。5-3-2であれば、そもそも5バックで守っているためロカテッリはディフェンスラインに吸収されず、その前でクロスに対応できていた。仮にロカテッリがディフェンスラインまで下がっても、インサイドハーフの選手が近くにポジションをとっている。セカンドボールを競り合うことはできていた。フィオレンティーナ戦の3-4-3であれば、中盤の真ん中にはロカテッリとラビオしかいない。しかもディフェンスラインはどちらかのウイングバックを下げた4バック気味に守っている時間帯が多くなっていた。5バックに比べて守備ラインの人数が1人減っているため、ロカテッリが守備ラインの位置まで下がってクロスに対応することが多くなっていた。そうなると、セカンドボールに対応できる選手がラビオしかいなくなってしまう。

キエーザのポジショニングに合わせて守備のポジショニングを修正する練度を高めること、セカンドボールへの対応策を打っておくこと。課題もあるが、やはりブラホビッチ、ディマリア、キエーザの共演は魅力的だし、破壊力もある。トリデンテの同時起用は今季のユベントスの起爆剤になりうる。そして、トリデンテを使うなら、4-3-3や4-3-1-2も選択肢に入ってくる。現在は中盤の選手が不足していて3センターハーフがなかなか難しいのかもしれない。ポグバやミレッティが復帰してきたら4バックも試してみるのだろうか。いずれにしても、アッレグリの試行錯誤はまだまだ続いていくのだろう。

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