見出し画像

セリエA 第11節 ヴェローナ vs ユベントス


ヴェローナにも2-1で敗戦。連敗を喫し、スクデット争いからは完全に脱落。今季は4位以内が現実的な目標となりそうです。アッレグリの解任の話も出てきてもおかしくない状況になりました。チームの立て直しが必須となるこれからの動きに注目していくためにも、ユベントスの現状を確認しておきます。

ピッチから見えたもの

前半15分までに2失点。その他にもヴェローナにチャンスを作られ、さらに失点を重ねていてもおかしくない内容だった。1失点目は、ボールを奪ってから、アルトゥールが持ち出してからのバックパスが流れてヴェローナに渡ったものだ。その瞬間、アルトゥール以外のユベントスの選手は全員街中のおじさんランナーよりも遅いジョギング。そりゃいくらでも失点するわというトランジションへの意識の低さを露呈した。もっといえば、試合に対する意識の低さ。チームへ貢献する意識の低さ。

失点以降、ギアを上げて攻撃に出るが、前がかりになってスカスカになった中盤を使われてしまう。前節からは多少修正されてカウンターでそのままシュートまで持っていかれるシーンはなかったが、ボールホルダーを止めて攻撃を遅らせても、中盤から前の選手が戻って来ない。カウンターでボールを運ばれて、その流れで攻撃を維持されて守備の人数が揃う前にチャンスを作られてしまう。攻撃ではリスクをかけなければいけないが、焦って不必要なボールロストは減らさなければならない。この辺りの匙加減がユベントスはまだ見えていないように思う。

攻撃についても、ほとんどヴェローナのペナルティエリアに入っていけなかった。何度かハイプレスからボールを引っ掛けてショートカウンターからシュートに持ち込んでいるが、GKと1vs1になるようなシーンはなかった。ボールを深い位置まで運ぶことはできているが、そこからどうやって点を取りに行くのか、選手の配置や動きのデザインがこの2試合では見えて来ない。選手のクオリティとコンビネーションを軸にした中央突破を構築したいのかもしれないが、現在はうまくいっていない。ただ、得点シーンでは、マッケニーが相手の守備組織の真ん中でボールを引き出し、素晴らしいシュートを決めた。ライン間を使った見事なゴールシーンで、戦術的には今季ベストゴールだ。ライン間に選手を配置し、ボールを動かしながらパスコースが開いたらライン間へ縦パスを通し、パスコースが開いたことをトリガーとしてコンビネーションを発動する。これは一例だが、攻撃についてチーム全体で共通認識を持つ必要があるだろう。

いずれにせよ、今回の敗戦は、現在のチーム状況の当然の帰結と言わなければいけない。

過渡期のユベントス

では、なぜこんなことになったのか?

一つは疲労の蓄積が考えられる。代表戦、ミッドウィークの試合など、ここ1ヶ月の間のユベントスの選手のスケジュールは殺人的だ。北米、南米の選手は長い移動も加味しなければならない。だからといって、試合開始10分でポジティブトランジションの場面でジョギングしていては話にならないだろう。

二つ目に考えられるのが、選手と戦術の不一致だ。ヴェローナ戦を見ていても、何とか勝ちたい、ゴールを取りたい、という強い意欲をプレーで見せていたのは、中継を見ている分には先発メンバーの中ではディバラとダニーロくらいのものだった。疲労からくる部分もあるだろうが、それだけではないだろう。アッレグリはある意味では劇薬だ。「カンピオナートは守備でとるもの」と公言し、守備を重視し、全選手に守備での貢献を求める。一方、ユベントスはこの2年間、そんなアッレグリの哲学から脱却して「攻撃的な」フットボールをするクラブになるためにサッリ、ピルロにチームを任せてきた。しかし、いずれの監督も一年で解任。アッレグリへと戻ってきた。サッカーの質、求められるプレーが全く違う。この2年で選手も入れ替わり、第一次アッレグリ政権時代に重用されていたマンジュキッチ、バルザーリ、ピアニッチ、マテュイディ、エムレ・ジャンらはチームを去った。ラムジー、ラビオ、アルトゥール、マッケニー、クルゼフスキ、キエーザらがやってきた。新しくユベントスに来た選手たちはいずれも攻撃に特徴がある選手たちで、サッリやピルロのプロジェクトに対応した選手だったのではないだろうか。つまり、ボールを保持し、ポジショナルな攻撃で得点を狙う「攻撃的な」サッカーを志向するために集められた選手だったのではないか。現在の選手たちなら、サッリの指導の方が合っていたのではないかとすら思える。一方、アッレグリは守備での貢献を求める。試合についても、まずは守備で相手を封じ込めるところから始める。中には、アッレグリの戦術や求めるタスク、守備への貢献に納得できない選手がいるのかもしれない。まして、サッスオロやヴェローナという、ユベントスから見ると格下の相手であれば「攻撃的な」ボールを保持して押し込み続けるプランを選手が望んでいたとしても不思議ではない。そうだとしたら、アッレグリの「守備的な」戦術に対して不満を持つ選手がいたのかもしれない。チームはまとまらず、チグハグな攻撃、守備で敗戦を重ねていることも納得できてしまう。

三つ目がモチベーションの低下だ。ディバラ、モラタが負傷していた間、残りのメンバーでチェルシーに競り勝つなど、UCL、セリエAともに結果を残してきていた。しかし、ディバラ、モラタは復帰後すぐに先発に戻された。割りを食ったのがキエーザ、クルゼフスキら若い選手たちだ。ベンチスタートになるか、好調だった時のポジションとは違ったポジションでの起用になった。結果を出してもチャンスがもらえないとなると、モチベーションが低下してしまうこともあるのかもしれない。このあたりは何ともいえないところだが、ないとも言い切れないところではないだろうか。

四つ目が、中盤のバランスの崩壊だ。前項でも述べたが、現在ユベントスに所属する選手は、攻撃に特徴がある選手が多く、中盤で攻守のバランスを取れる選手がロカテッリ以外にいない。そのロカテッリも連続出場を続けてきた結果、サッスオロ戦では明らかにコンディションを落としており、ヴェローナ戦は先発から外れた。中盤が崩壊するのも無理はない。今のユベントスにロカテッリの他に攻守のバランスを繋ぎ止める選手はいないのだから。この2試合の敗戦でロカテッリがどれだけ重要な選手かが証明されてしまった。
「攻撃的」と評されるグアルディオラのシティには、守備にも必死に走り回るデブライネ、ベルナルド・シルバ、ギュンドアンがいる。アンカーには未だにフェルナンジーニョが君臨している。リバプールはマネ、サラー、フィルミーノという破壊的な3トップを擁して得点を量産しているが、マネは守備での貢献度も高いし、中盤3枚は高い運動量を誇り、守備でもアグレッシブに広範囲を動き回る。レアル・マドリードでも、カゼミーロが重用され、モドリッチ、クロースの守備貢献度も見逃してはならない。チェルシーにもカンテというピッチの半分を1人でカバーしてしまう中盤の守備で世界最高峰のスーパースターがいる。
中盤の守備を疎かにしてはいけない。実は、「攻撃的」と評価されているチームほど、守備にも力を入れている。レアルのカゼミーロ、チェルシーのカンテ、シティのフェルナンジーニョ、リバプールのファビーニョなど、ヨーロッパで高い評価を受け、結果を出しているチームには中盤の守備で貢献できる選手が必ずいる。アトレティコやバイエルンは中盤全ての選手が守備に参加して守備的なタスクをこなしている。シティやリバプール、チェルシーあたりになってくると、守備的な中盤の選手がいる上に、デブライネやヘンダーソン、ジョルジーニョがスプリントして自陣まで戻ってきて守備に参加する。
さらに言えば、プレミアでは、攻守に分断されたチームはまず見られない。ディフェンスの選手でもハーフウェイラインを超えて高い位置をとってパス回しに参加し、ミドルシュートまで決めてしまう。一方で、フォワード登録の選手でも、被カウンター時は自陣のペナルティエリアまでスプリントで戻って守備をする。攻守の分業はもうすでに時代遅れとなっており、比重の差はあれ、すべての選手に攻守に渡る貢献が求められるのが現代のフットボールなのだ。そう考えると、ロナウド、メッシが所属したレアル、ユベントス、マンU、バルセロナが苦しんでいるのは何かを示唆しているような気がしてならないが…。
幸い、ユベントスには攻撃に才能のある選手は揃っている。マッケニー、クルゼフスキはライン間で臆することなくボールを扱えるし、アルトゥールのテクニックや戦術眼はバルセロナで証明されている。攻撃的な技術や閃きは、中々指導できるものではない。しかし、守備なら指導できる。ボールがないところでの意識と行動がほとんどだからだ。しかも、監督はアッレグリだ。世界のどの監督よりも緻密に、基礎から叩き込んでくれるだろう。一朝一夕にはいかないだろうが、マッケニーやクルゼフスキ、ベルナルデスキらが攻守にわたってチームに貢献できる選手としてさらに評価を高める日が来ると、ユベントスの復権も見えてくるかもしれない。もちろん、モラタ、ディバラ、キエーザにもさらなる守備への貢献を求めたい。

観る側も我慢が必要

というわけで、やはりユベントスは過渡期に入っている。攻撃に特徴がある選手は多いが、ドリブラーのウイングタイプが多く、かと言ってターゲットマンとしてペナルティエリア内で得点を量産するCFはいない。ライン間でボールを受けてボールを動かせる選手も少ない。コンバートや新たな戦術の開発によって攻撃の最適解を見つけるにはまだ時間がかかりそうだ。守備意識を植え付け、攻守にバランスの取れたチーム、選手に育てていく過程を見ているのだと思う。

サッスオロ、ヴェローナ相手の連敗は、スクデットを絶望的にしてしまった。しかし、選手にとって、オールマイティな選手にならなければならない、そうしなければ中堅クラブにも勝てないという学びになればいいのかもしれない。

サッリを切り、ピルロを切り、アッレグリに戻した。路線の違いは重々承知していたはず。さらには所属選手とアッレグリの哲学の違いもわかっていたはず。その上で、攻撃に特徴のある選手に守備を植え付けることで現代サッカーに適応した選手として成長を促す。そして、攻守にバランスの取れた好チームを作る。そのためには、一定の我慢は必要だ。この2年間と違った路線を歩むことになる上、選手はこれまでとは違ったことを指導され、求められることになるのだから。アニェッリはここまで描いていたはずだと信じたい。ユベントスのフロントには、今季は再建のための一年だと腹を括って見守ってほしい。くれぐれもアッレグリの途中解任などという中長期的な視点を欠いた決断はやめてもらいたい。シーズンが終わった時、見せていた試合の質で判断すればいい。観る側もチームや選手の成長と、これから先の成功のための一年だと思って、我慢強く観戦する覚悟が必要だろう。

そして、アッレグリを解任するくらいなら、ピルロを攻撃専門のコーチとして呼べばいい。レアルがアンチェロッティからジダンに橋渡ししたように、長期の成長戦略も描けそうだが、さすがに絵空事ですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?