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セリエA 第31節 イタリアダービー 〜 進化と課題

注目のイタリアダービーは0-1でインテルに軍配が上がりました。残念ながらアッレグリのコメントにもあったように、ユベントスはスクデット争いからは完全に脱落。CL出場権を確実にするために、残りの試合で勝ち点を落とすわけにはいかなくなりました。しかし、試合内容自体はビジャレアル戦を上回る今季最高のものだったと言えるでしょう。チームとしての成長を見ることができた試合でした。

ユベントスの成長

ユベントスの先発は、シュチェスニー、ダニーロ、デリフト、キエッリーニ、サンドロ、ロカテッリ、ラビオ、クアドラード、ディバラ、モラタ、ブラホビッチ。4-2-3-1で攻撃的な選手を並べてきた。
前4人の共存にも驚いたが、ディフェンスにキエッリーニとサンドロを使ってきた。ルガーニとデシーリオかと思っていたが、キエッリーニのキャプテンシーと経験が必要と考えたのだろう。ルガーニは対人守備や読みの鋭さに磨きがかかっており、キエッリーニの後継者候補として名乗りを挙げるレベルにまでは来ていると思っている。球出しについては体の向きの作り方や縦パスを通す頻度、ポジションの取り方を見てもキエッリーニよりも上だろう。もともと高さ、強さを持っている選手だ。速さを兼ね備えたデリフトとの相性は悪くない。守備への理解を深め、ディフェンスラインを統率する確固たるパーソナリティを持つことが今後の課題になるだろう。サンドロについてはスーパーカップの後味の悪さを払拭させるチームマネジメント的な意味もあるのかもしれない。

スタメンを見て

ポイントになるのは、①サンドロが攻撃時にどのようなプレーをするのか、②攻撃時にラビオとロカテッリの関係性とタスクの割り振りだと思った。今季、サンドロが先発した試合でサンドロが上がらないために左サイドの攻撃が停滞してしまう現象が何度も見られた。もう一つ、今季のユベントスはボールを保持して押し込むことができても、得点につながらないことが多い。その原因の一つとして、いてほしい時、いてほしいところに人がいないことがあると思っている。例えば、ダニーロがボールを保持してドリブル前進した時、クアドラードは右サイドに張り出しているが、ライン間に人がいない。クアドラードが右サイドからクロスを上げる時に、ターゲットがモラタしかいない…など。攻撃に出た際にライン間やペナルティエリアに人が足りない現象は今に始まった事ではない。しかし、後半戦、なんだかんだ言ってユベントスは勝ち点を稼ぐことができていた。押し込んだ時の攻撃がそれなりに機能し始めていたからだ。そのキーマンはロカテッリだった。アルトゥールの起用と同時にCHにポジションを移したロカテッリは、右ハーフスペースを中心にペナルティエリアへの飛び出しやライン間でのプレー、右サイドへ移動して基点を作るなど、いてほしい時にいてほしいところにいてくれた。仮にボールに触らなくても、ディフェンスを引きつけて味方にスペースと時間をプレゼントできる。ロカテッリがより前に出る意識を高めたのがCHとして起用され始めてからだったが、4-2-3-1の2に配置された時どんな意識でプレーするのか。パートナーがラビオだったこともあり、注目していた。

見事な守備

試合はユベントスがインテルを押し込んで進んでいった。インテルは慎重だったのか、コンディション不良だったのかはわからないが、動きが重い印象を受けた。

まずはユベントスの守備。モラタ、ブラホビッチ、クアドラードがインテルの3バックにマークにつき、ブロゾビッチはディバラがつく。ブロゾビッチがディフェンスラインまで下りてもディバラがそのままついていって牽制していた。結局デフライが出なかったこともあって、3バックとブロゾビッチで大きな変化をつける事はなかったインテル。ユベントスの前4枚がマークについて蓋をしてきたことでドリブルでボールを運ぶことができず、ボールの前進がストップしてしまった。インテルのビルドアップ隊が取りうる選択肢はパスに限定され、インテルの中盤から前の選手にはユベントスがマンマーク気味にパスカットを狙っていくことができた。もちろん、パスが出る可能性が低い逆サイドの選手は意図的に捨てて後方の数的優位を確保することも忘れてはいなかった。

ビルドアップに関わる選手をマンマーク気味に捕まえつつ、無理にボールを取りに行かずに前に立ってドリブルでの前進を阻む。後方の選手も連動してパスの出しどころとなりそうな選手にはついていってパスカットを狙う。それでもボールの前進を許したらボールホルダーには必ずマークについて攻撃を遅らせながらブロック守備へ移行する。相手から選択肢を削り取ってボール奪取を狙いながら引いた守備も用意しておく。ユベントスの守備の練度が上がってきており、インテルの攻撃をほぼ狙い通りに抑え込むことに成功していた。

なお、PKについては、その前にブロゾビッチだけでなくバレッラも下がってボールを受けたところから始まっている。ディバラは「ブロゾビッチについているから俺は行かないよ」みたいな感じでバレッラをスルーしていた。バレッラのドリブルによる前進を止められなかったことによって中央からボールを運ばれて深い位置まで侵入を許したことがPKへとつながっている。ロカテッリがいたならコーチングしてラビオをマークにつかせてバレッラの前進をハーフウェーラインくらいで止められたのではないかと思う。ザカリアは怪我もあってチームへ合流して日があまり経っていない。チームメイトへの指示はほとんどなかったが、ロカテッリは指差しなどで周りの選手を動かしていた。PKまでの流れを見ると、この失点にはロカテッリの怪我による離脱が影響しているように思った。

進化したビルドアップと攻撃の課題

さて、今度はユベントスの攻撃について。この試合では、ユベントスは4バックとシュチェスニー、たまにロカテッリといった感じでビルドアップしていた。要は人数調整による数的優位の確保とポジションの噛み合わせを利用したビルドアップだ。インテルは5-3-2で守備をする。モラタが左ハーフスペースあたりを、クアドラードが右サイドをウロウロしつつ、ブラホビッチが真ん中に構えることでインテルの5バックを牽制して後方に留めておく。ラビオとロカテッリ、ディバラが3センターハーフを引きつけて、ユベントスのディフェンスラインは4vs2の数的優位を恒常的に確保できるという仕組みだった。インテルの2トップはキエッリーニとデリフトを主にマークしていたので、サンドロとダニーロがフリーになる機会が多く、ユベントスはSBを起点にボールを動かすことが多かった。インテルはたまにWBを上げてSBにプレスをかけにくることもあったが、シュチェスニーを経由したりしてサイドチェンジで逆サイドのSBを起点にできていた。

後方での人数調整によってビルドアップの段階でインテルに対して数的優位と位置的優位を確保することに成功したユベントス。SBを起点にボールを前進させてインテルを押し込むことに成功したが、課題はその後にある。ブラホビッチへの警戒は予想以上に高く、ブラホビッチがフリーでボールを受けられることはなかった。ただ、ブラホビッチがインテルのディフェンスライン、主にシュクリニアルと肉弾戦や裏狙いの駆け引きで勝負を仕掛けることでディフェンスラインを押し下げることには成功している。広がったライン間に人とボールを送り込むことができれば、ディフェンスラインに対して前を向いてボールを持った選手が駆け引きを仕掛けることができる。しかし、残念ながらそんなシーンはあまり見られなかった。ひとつはインテルの中盤がさらに引いてライン間を消そうとしてきたこと。もうひとつは、ユベントスが構造的にライン間に人を送り込むことができなかったこと。ビルドアップで起点となったサンドロ。その代わりにモラタがダンフリースとバストーニを引きつけてサンドロをフリーにしていたが、モラタには常にマークがついている状態になった。ロカテッリはビルドアップのサポートのために後方に位置することが多く、ディバラは相変わらずボールを受けに下がっていた。つまり、ライン間に位置する選手がいなかったのだ。ロカテッリをダブルボランチの一角として使ったことのマイナス面が出てしまったように思う。結果としてボールの動きは外が中心となり、クロスが攻撃の終着点となった。クアドラードから高速のクロスが送り込まれるが、中で待っているのがモラタとブラホビッチしかいなければインテルの屈強な3バックから点を取るのは至難の業だ。前半には何度かロカテッリがペナルティエリアに飛び込むシーンもあったが、ロカテッリが下がってからはペナルティエリアにモラタとブラホビッチ以外の選手が飛び込んでくることはほとんどなかった。ラビオやザカリアは高さもあってフィジカルもあるのだから、クロスに合わせてペナルティエリアに飛び込んでくれば相手にとって脅威になるはずだ。マッケニー、ロカテッリはクロスに飛び込んでヘディングでゴールを決めている。ラビオやザカリアは彼らよりも高さがある。安定したボール保持とビルドアップを構築できているのだから、タイミングよくライン間やペナルティエリアに侵入するプレーを中盤の選手が増やしていきたい。マッケニーやロカテッリはそのプレーができていた。彼らの負傷は本当に痛恨だった。個人的には、ロカテッリとマッケニーにユベントスの未来を見ていた。ロカテッリはどうも4月は出場できそうにないらしい。4月はザカリアやラビオ、アルトゥールの成長に期待したい。

なお、ラビオやザカリアも決して悪い選手ではない。フィジカル能力は高いし、高さもあるし、長いストライドを活かしてスピードもある。2人とも運ぶドリブルでボールを前進させる力を持っている。足が長いため、他の選手とドリブルのリズムやボールを触るタイミングが違うのかもしれない。後半のザカリアのミドルシュートは中央をドリブルでスルスルと持ち上がって撃ったものだ。クロスへの飛び込みをタスクとして任せつつ、彼らのドリブルに合わせてブラホビッチやモラタがディフェンスラインの裏を狙って動いたり、ワンツーの壁になるなどコンビネーションを使って崩すことはできるはずだ。カリアリ戦では、そんなプレーを見てみたい。

総括

攻守両面でインテルを圧倒。PK以外インテルに決定機を一つも許さず、試合を完全に支配した。足りなかったのは得点。どうすればいいのかの道筋も見えている。ユベントスは来季に向けての土台を着実に作ってきている。あとはトップ4の地位を確実なものにするだけだ。

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