インテル vs ユベントス

予想外にミランが首位を走るセリエA。追いかけるインテルとユベントスの直接対決です。インテルは勝てば暫定ながら首位ミランに勝ち点で並ぶことができ、ユベントスにとってもミランに肉薄するチャンスで、互いに負けるわけにはいかない試合です。

インテルのゲームプラン

インテルは5-3-2で堅く守ってカウンターを仕掛けるプランだったと思います。試合後、コンテ監督がユベントスをリスペクトするコメントしていることからも、ホームとはいえユベントスを警戒して試合に臨んだものと推察できます。0-0で試合を進め、ルカク、ラウタロのカウンターを狙う。フィニッシュに持ち込めなくてもボールを運ぶことができれば、機動力と運動量に富んだビダル、バレッラらが絡む二次攻撃に持ち込むプランを立てていたのではないでしょうか。ボール保持の場面では、ルカク、ラウタロ、ビダル、バレッラは状況に応じて自由に動いていましたが、その他の選手はポジションアタック。ポジションチェンジはせず、守備時のポジションから直線的に上がることがメインでネガティブトランジションで混乱が起きないように設計されています。ビダル、バレッラも守備となったらポジションの回復は速かったです。守備陣形の構築の速さはコンテによって徹底的に指導されていると感じました。

ユベントスのゲームプラン

一方、ユベントスは守備時4-4-2、攻撃時3-3-4となる可変システムを用意してジュゼッペ・メアッツァに乗り込みました。ピルロ監督らしいボール保持に意欲を見せたプランだと思いました。右からダニーロ、ボヌッチ、キエッリーニが3バックを組み、アンカーポジションにベンタンクールが入って後方でのポゼッションの確立を狙います。右サイドではキエーザ、左サイドではフラボッタが幅を取る役割を担い、モラタが中央に構える。ロナウドは自由に動き回って攻撃に参加していました。ラムジーとラビオについては後述します。このように、ユベントスはボールを保持するメカニズムを用意してきました。こちらもピルロがこだわりを持って指導してきていると感じました。

ゲームを支配したのは…

試合が始まると、ユベントスがボールを保持する姿勢を見せました。上記のメカニズムでインテルの2トップに対して4対2の数的優位を作って後方でのポゼッションの確立に成功。インテルを自陣に押し込むボール保持を見せました。これに対してインテルはプラン通り5-3-2のブロック守備で対抗。2トップのファーストプレスはハマらないものの5-3のブロックは堅く、ユベントスにチャンスを作らせませんでした。左右のWBが1列上がり、最終ラインの残り4枚がスライドして4バックを形成する可変式4-4ブロック守備も駆使してゾーン2〜3でユベントスの攻撃を受け切っていました。ラビオのシュートからロナウドが押し込んだシーンはあったものの(オフサイドでゴールは取り消し)、ほとんどチャンスを与えなかったと言っていいでしょう。前半の早い時間帯からインテルが守備でゲームを支配し始めていると感じました。

そんな中、クリアボールを拾った二次攻撃の流れからビダルがヘディングを叩き込んでインテルが先制しました。このシーン、ユベントスのクリアボールをインテルが左サイドで拾ってから中央に展開するのですが、ロナウドのプレスバックはなくビダルから右サイドに展開されます。ハキミにボールが渡った段階でフラボッタの背後にバレッラが走り出しており難しい対応を強いられています。ハキミのカットインに対してフラボッタとバレッラのマークについていたラムジーが対応したことで外のバレッラがフリーに。ビダルからバレッラにパスが渡り、慌ててフラボッタが対応に行きますが、バレッラは冷静に切り返してクロス。フィジカルに優れるビダルがサイドバックのダニーロに競り勝ってヘディングを叩き込みました。サイドバックを釣り出し、2トップで2CBを引きつけてビダルでサイドバックを狙い撃ち。この得点の直後にも右サイドを突破したハキミからラウタロのシュートミスのこぼれ球をビダルがシュートという場面もあったように、右サイドのクロスに2トップとビダルが飛び込むというインテルの狙い通りの得点だったと思います。

ユベントスの誤算

この試合、インテルが良かったことは間違いない(とくにバレッラは出色の出来)ですが、2-0という結果につながった要因の多くはユベントスあると考えています。

第一に、ハイプレスがかからなかったこと。ユベントスは4-4-2で守備を用意してきましたが、インテルは3バック+ブロゾビッチでビルドアップを開始します。ユベントスがインテル対策のボール保持のために用意してきたことの裏返しで、3バックに対して2トップでハイプレスをかけにいっても数的不利に陥りなかなかうまくいきません。その上、2トップの一角はロナウドです。ハイプレスの空転は当然の帰結と言うほかありません。このハイプレスの空転が直接的な原因となって2点目を許しています。

第二に、左サイドの守備の崩壊です。前半からインテルは右サイド(ユベントスの左サイド)からの攻撃で多くのチャンスを作り出していました。バレッラ、ハキミのコンビの力もさることながら、ユベントス側の守備のマズさも重なってかなり大変なことになっていました。具体的には、この試合で中盤左サイドの守備を任されていたラムジーのポジショニングです。ラムジーは中盤の中寄りにポジションをとることが多く、サイドに流れてくるバレッラとWBのハキミによって、ユベントスの左サイドは常に数的不利を作られている状況になっていました。フラボッタでなくともこの状況での守備は相当苦労したはずです。
では、ラムジーはなぜそんなポジショニングをしたのでしょうか?それは、ユベントスは中盤真ん中でも数的不利に陥っていたからです。中盤真ん中には、インテルはブロゾビッチ、ビダル、バレッラに加えてシュクリニアルらCBのうち一枚が顔を出していました。一方のユベントスは、ベンタンクールとラビオ、たまにモラタのプレスバックという状況です。多くの時間で4対2の数的不利の状況がありました。ラムジーからしたら、この状況を放っておくわけにはいかず、中央の守備のヘルプに行っていたのだと思います。そして、ラムジーが中央にポジションを取ったタイミングでバレッラがサイドに流れてサイドで2対1を作られる。まるでドミノ倒しのように数的不利の状況が続いてしまっています。元々は、3バックに対して2トップでハイプレスをかけていることに原因があります。インテルからすると、3バック+ブロゾビッチ対2トップで余った選手がボールを運んで中盤のサポートに入ることでファーストラインは突破できる。そのことで中盤真ん中で3センター+CB対2CHで中盤を支配。ラムジーが左サイドからヘルプに来るが、バレッラが右サイドに流れてバレッラ、ハキミ対フラボッタの2対1を作ってサイドから攻撃。クロスが上がればダニーロ、ボヌッチ、キエッリーニ対ルカク、ラウタロ、ビダル。ファーを狙ったクロスにルカクかビダルが飛び込んでダニーロを狙い撃てばいずれ得点は入ると計算できます。(ハイクロスにマンジュキッチが右サイドバックと競り合うユベントスの黄金プラン!?)だったらハイプレスは諦めてミドルプレスに移行すればいいのですが、やはりモラタ、ロナウドではミドルプレスでもプレスバックは期待できないため守備の計算が立たず、中盤真ん中の数的不利は解消されません。結局、同じ手順で左サイドが数的不利に陥ってしまいます。ロナウドは守備で戻るより前残りでカウンターの刃を相手に突きつける方がいいのは間違いないのですが、これだけやられてしまうと収支があっているのかは怪しいと思います。

第三に、ボールは保持できても効果的に攻撃できなかったことです。確かにユベントスはインテルのファーストプレスを外すことに成功していました。ユベントスの3バック+アンカーによるビルドアップに対してルカク、ラウタロはなすすべなく下がっています。しかし、その先のユベントスはインテルの5-3の守備ブロックの中に楔を打ち込むことができず、サイドに展開するばかり。サイドからクロスをあげても190cm近いCBを3枚並べたインテル守備陣に対しては、いくらロナウドでも分が悪すぎます(しかもロナウドは結構サイドに流れてクロス上げる側になっているし…)。

そもそもの問題は、5-3の守備ブロックの中にポジションをとる選手がいないことです。守備ブロックの中にポジションをとることで相手は警戒して守備ブロックを収縮させようとします。そうなると、さらにサイドにスペースができ、サイドの選手がフリーになります。相手が守備ブロックを収縮させなければ、ブロックの中にいる選手がフリーなので、楔のパスを打ち込んでターンすればディフェンスラインに対して前を向いて攻撃を仕掛けるチャンスを作り出すことができます。このように、守備ブロックの中にポジションをとることはブロック守備を敷いてくる相手を崩すために必要な手順なのですが、ユベントスはこれができていません。

なぜか?

単純な話で、守備ブロックの中にポジションをとり、パスを受けてもボールを失わない技術を持った選手がピッチ上にいなかったからです。守備ブロックの中でボールを受けられるとブロック守備は一気に瓦解してしまいます。守備側からしたら真っ先に警戒すべきプレーです。つまり、守備ブロックの中にポジションをとるということは、守備側から狙われ、厳しいプレスにあうということです。それでもターンして前を向いたり、ボールを失わずにキープしたり、ワンタッチでボールを逃して味方に時間とスペースを作ることができれば攻撃側のチャンスは広がります。しかし、これらのプレーは一歩間違えばボールロストにつながり、相手にカウンターのチャンスを与えることにもなってしまいます。それでもボールを失わない技術と自信を持っていなければ、守備ブロックの中にポジションをとることはなかなかできません。しかも相手は百戦錬磨のインテル守備陣です。現在のユベントスでは、ディバラ、アルトゥールが候補になるでしょうが、残念ながらピッチにはいませんでした。

ユベントスの課題

「それを言っちゃあお終いよ」的な感じになってしまいますが、やはり守備免除が必須のロナウドと守備の文化が根強いユベントスの相性の悪さはどうしても拭いきれません。
ロナウドがレアルで眩いばかりの輝きを放っていたのは、守備もサボらないモドリッチ、クロース、カルバハル、ベンゼマらの献身とカゼミロ、セルヒオ・ラモス、ヴァラン、ケイロル・ナバスの神がかり的な守備に支えられていた面も忘れてはいけないと思います。それに比べてユベントスは、レアルのメンバー構成と見比べるとどうしても見劣りしています。
しかし、それでもロナウドを活かしつつ、守備面でも折り合いをつけていかなくてはなりません。例えば、アッレグリはロナウドを左サイドに置いて自由を与えながら、相手右サイドバックのマークだけ守備のタスクを任せていました。そして守備で人の倍は働くマテュイディを左CHに起用してロナウドの守備をサポートさせていました。さらに相手右サイドバックが高い位置を取ってくるなら、マンジュキッチがロナウドとタスクを交換して左サイドの守備に入るというプランBまで用意しておく周到っぷりを見せています。
攻撃面でも、当時のユベントスで守備ブロックの中でボールを受けられる選手はディバラしかいないことを受けて攻撃のルートがサイドに偏ることも許容していました。それどころかマンジュキッチとロナウドの併用にこだわり、サイドからのクロスにマンジュキッチとロナウドが待ち構え、さらにマテュイディが飛び込んでくるという相手からしたらとんでもない無理ゲープランを用意していました。最後はキーマンのマンジュキッチが負傷した結果、CLでアヤックスに敗れてアッレグリは解任されましたが、ロナウドをユベントスで活かすことができることをある程度証明してくれました。
現在のユベントスであれば、守備面の問題を解決するのは難しそうですが、アルトゥールやキエーザ、クルゼフスキらの獲得とベンタンクールの成長によってアッレグリの時代よりも強力な攻撃を構築することができそうです。後方でのポゼッションの確立はできているので、後はどうやって相手の守備を崩すかです。現役時代、何度もこの課題に解答を出してきたピルロが監督としてどんな答えを出してくるのかとても楽しみです。




「アンカー、俺」


まさかね……

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