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セリエA 第34節 サッスオロ vs ユベントス 〜 時代遅れのユベントス

マペイスタジアムで行われた試合は、サッスオロが試合を通して60%以上のボール支配率を叩き出し、ボールを保持して試合を進めました。しかし、結果は1-2でユベントスが勝利。個人的にはとても面白い試合でした。感想を記しておきます。

躍動するサッスオロ

ユベントス

ユベントスのスタメンは、シュチェスニー、デシーリオ、ボヌッチ、ルガーニ、サンドロ、ベルナルデスキ、ダニーロ、ザカリア、ラビオ、ディバラ、モラタ。4-4-2で守って、手数をかけずに縦にダイレクトな攻撃を志向していたように見えた。

サッスオロ

サッスオロのスタメンは、コンシーリ、ムルドゥル、キリケシュ、アイハン、キリアコプーロス、マキシム・ロペス、フラッテシ、ベラルディ、ラスパドーリ、トラオレ、スカマッカ。4-2-3-1をベースにボール保持によってゲームを支配しようとしていた。両SBが高い位置まで上がって攻撃参加して幅を取る。スカマッカが最前線でユベントスのディフェンスラインを牽制し、トラオレ、ベラルディ、ラスパドーリがライン間を自由に動き回り、フラッテシが+1としてペナルティエリアに飛び込んでくる。攻撃に大幅に人数をかけた大胆不敵かつアグレッシブなサッカーを志向している。2列目のタレントは多種多様。テクニックとアジリティを兼ね備えたラスパドーリ、フィジカルとスピードに長けたトラオレ、左足のパワーと豊富な経験からくるインテリジェンスを持つベラルディとそれぞれに特徴のある選手が揃っている。中盤の底でタクトを振るうマキシム・ロペスも確実なパスとポジショニングでボール保持に貢献しつつ、タイミングよく攻め上がってくる。

サッスオロのポジショナルフットボール

コッパイタリアでユベントスと対戦した時には、前半は猛烈なハイプレスでユベントスを追い詰めたが、後半は配置を整理したユベントスに逆に押し込まれてしまった。特にベラルディとトラオレが下がった60分以降はユベントスの試合だった。その反省からか、この試合ではそこまで激しくハイプレスに出てくることはなかった。まあ、ユベントスがボールを保持するつもりがほとんどなかったことが大きいかもしれない。守備的に構えたユベントスをサッスオロが押し込む展開で試合は進んだ。

ユベントスは4-4-2で自陣に構えてハーフウェーライン付近からプレスをかけるミドルプレスでサッスオロに対抗しようとした。サッスオロは、2CBとマキシム・ロペスでユベントスの2トップに対して数的優位を作ってボールを保持。秀逸だったのはマキシム・ロペスのポジショニングだ。モラタとディバラの間で2人の裏を取るポジションを取り続け、2人を牽制。CBまでプレスに出ればロペスがフリーで前を向き、ロペスを気にして前に出られなければCBがフリーでボールを運ぶ。ユベントスからしたら、ロペスが中盤のラインの前でフリーで前を向くシチュエーションが最も避けたかったはず。マキシム・ロペスは自分を囮にする事で2CBをフリーにしてボールを前進させていた。前半のユベントスは守備時に選手間の距離が若干遠かったように思う。それこそ、2、3歩程度のレベルだが、サッスオロはCBからサイドへのパスも多かったが、中盤のラインを越えて楔のパスがライン間に入ることも少なくなかった。前述の通り、サッスオロはスカマッカも含めて4人、ライン間でボールを受けようとする選手を用意している。フィジカルやテクニックでボールをキープできる選手が揃っている上に互いの距離も近い。攻め上がってきたSBも含めたコンビネーションや単独突破など、多彩な攻撃を繰り出した。ただ、ユベントスもゴール前ではスペースを消して密集した守備をしていたことと、シュチェスニーと連携した守備でシュートコースを限定して事なきを得ていた。

サッスオロの得点

サッスオロがロジカルにボールを保持してユベントスを押し込む中で素晴らしいゴールが生まれた。左サイドのキリアコプーロスがカットインして中へドリブル。右サイドまで動いてきていたベラルディがキリアコプーロスからの縦パスをボヌッチの前でフリック。走り込んだラスパドーリが鋭いシュートをゴールに突き刺した。キリアコプーロスから縦パスが出た時にはもうラスパドーリは動き出していた。ベラルディもゴールに背を向けてボールを受けると見せて左足で裏にボールを流し込んでいる。ベラルディとラスパドーリはキリアコプーロスがカットインして中へドリブルしてきた段階で同じ絵を描いていたのだと思う。ユベントスの守備に大きな綻びはなかった。サッスオロのポジショナルな攻撃と選手個々のイメージやスキルが融合した素晴らしいゴールだった。

クラシック・ユベントス

中盤省略型

ロカテッリ、マッケニー、アルトゥールといったライン間を使ったり、パスワークでボール保持やボールの前進に貢献できる選手を欠くユベントス。さらにはクアドラードまでケガで離脱してしまった。もはや、中盤にはザカリアとラビオとベルナルデスキしかいない。残念ながら、彼らは現代フットボールというよりは、一昔前のフットボールに適合したクラシカルな選手かもしれない。ラビオとザカリアはフィジカルに特徴があり、ベルナルデスキはドリブルとパワーのあるシュートに特徴がある。ポジショニングで相手を動かしてスペースを作り出したり、局面を進めるパスを出したりすることは稀だ。しかし、彼らには高いフィジカルやミドルシュートなどの試合を決めてしまえる一発がある。

一方で、ディフェンダーは質、量ともにリーグ、いや、欧州トップレベルの陣容を揃えている。また、幸いなことにフォワードはキエーザ以外は離脱していない。となると、中盤を省略して前線にボールを預ける。相手を引き込んでディフェンスを堅めて、敵陣に生まれたスペースを突くカウンターを狙う。これがベストのゲームプランだとアッレグリは判断したのではないか。

右サイドの攻防

前半のユベントスの攻撃の狙いは右サイドだったのだろうと思う。サンドロを左SBで起用したこともあり、左サイドからの攻撃は諦めていたのかもしれない。もう、サンドロに攻撃参加を期待するのは
やめた方がいい可能性すらある。前述したように、ユベントスは守ってカウンタープランだったはず。サンドロを起用したのも、ダニーロのボランチ起用も守備を第一に考えたからだろう。ボールの前進もショートパスでポジショナルに、というよりは縦に早くボールを送り込んで後ろから走り込むプランだったように思う。少なくとも、後半途中までは後方でボールを保持してロジカルに前進しようという意思は見えなかった。つまり、左サイドからの攻撃は捨てていた可能性がある。その代わりに右サイドからベルナルデスキとデシーリオを組み合わせた攻撃は狙って行っていたように思う。

その上でサッスオロのSHを見た時に、トラオレは守備では低い位置まで戻って守備に当たることは少ない。アッレグリはベルナルデスキとデシーリオでキリアコプーロスに対して2vs1を作り出すことができると計算していただろう。事実、ベルナルデスキがボールを持ってドリブルしている時、デシーリオがオーバーラップして数的優位を作り出すシーンが何度も見られた。そこから右サイドを抉ってクロスを上げていた。得点には結びつかなかったが、フィオレンティーナ戦で得点に繋がった深い位置からのマイナスクロスもデシーリオから供給されていた。ディバラの得点直後のモラタの決定機も含めて、ベルナルデスキとデシーリオのコンビはクロスからチャンスを演出していた。

一方でキリアコプーロスもユベントスに対して果敢な攻め上がりからチャンスを作り出しており、得点につながるカットインを見せている。他にもカットインシュートでゴールを脅かしており、攻撃的サイドバックとして抜群のプレーを見せていた。ユベントスの右サイドをめぐる攻防はとても面白かった。

ユベントスの変化

アッレグリは後半、チームを少しずつ変化させた。後半開始から、前半よりも選手同士の距離を短くしていたように思う。中を閉め、サッスオロの攻撃を外へと誘導していた。サッスオロの攻撃は最近のポジショナルフットボールに準拠している。サイドの幅は取るが、サイドでの数的優位を取ることに注力していない。中と外、両方を使い分けることができるポジショニングで守備の意識を分散させ、瞬間的にフリーになる選手を作り出し、ドミノ倒し的にフリーな選手を作って相手の守備組織を崩壊させる。サッスオロの狙いは端的に表現するとこうなるのではないか。さて、翻ってユベントスは、選手間の距離を縮めて中を閉めてきた。サッスオロのボールの動きは外になる。通常であれば、中を閉めた分外の選手はフリーになるはず。実際に、サッスオロの左右SBはフリーでボールを受けることができていた。しかし、ユベントスSBの寄せは早く、なおかつボヌッチ、ルガーニ(後半途中からはキエッリーニ)相手にスカマッカがクロスの競り合いで勝てるとは思えない。特に後半途中からキエッリーニを投入したのは、外からのクロス対応の強化の意味合いがあるだろう。ユベントスのCB陣はボヌッチ、キエッリーニの衰えは隠せなくなってきているが、ルカク、フィオレンティーナ時代のブラホビッチら大型のフォワードを抑えてきている。スカマッカを狙ったクロスはあまり上がらなかった。それでも、ユベントスの守備陣に外を意識させる意味でもクロスは有効だったようには思うが…。結果として、外を捨てたことで中を徹底して閉めたユベントス。前半あれだけ活躍していたラスパドーリにボールが入ることは少なくなり、ライン間を使ったサッスオロの攻撃はうまく機能しなくなった。アッレグリの狙い通りの展開になった。

そして、ベラルディ、トラオレが交替し、サッスオロの交替カードがなくなってきたところで、ベルナルデスキをCHに、デシーリオを右SHに、ダニーロを右SBにポジションを変更した。狙いはポジショナルな攻撃を仕掛けるため。サッスオロの攻守の要となっている両翼が交替し、かつ交替カードが少なくなってユベントスの変更に対応できなくなる状況になることを待っていたのだろう。ダニーロを残した擬似的な3バックでスカマッカとラスパドーリに対して数的優位を作ってボールを保持する。後半20分過ぎのサッスオロのスタミナが落ちてくる時間帯も見計らって、確実にボールを保持する計算だったはずだ。普段なら守備のことも考えてからかなかなか上がっていかないサンドロも左サイド高い位置を取らせてボール保持からの攻撃で点を取るつもりだったのではないか。ただ、ピッチにいる選手の質を考えれば、ショートパスで中を崩し切るよりはロングボールやクロスによる攻撃にならざるを得ない。そのためにブラホビッチとケーンを入れ、フィジカルやスピードに優れた個人の力で点を取る。スタミナを削られたサッスオロの選手がブラホビッチやケーンを相手にするのは相当苦労したはずだ。決勝点はフリーになったボヌッチがラビオを狙ったロングボールからだった。結果としてはロングボールに反応したサンドロが競り勝ってケーンにボールが渡り、キリケシュとの1vs1で一瞬のスピードでシュートまで持ち込んだケーンが殊勲の一発を沈めた。

サッスオロの攻撃の狙いを見切り、クラシックな4-4-2で中を堅めて最小失点で試合を進める。そして相手がスタミナを切らし、戦術的に動けなくなったタイミングを見てボール保持のためのメカニズムを整えて勝負をかける。アッレグリはダニーロをSBに下げた時点からボール保持へと切り替えたはずだ。アディショナルタイムに看板に踵落としをお見舞いするアッレグリが映されていた。あれはボールを保持して試合を殺すことができるにも関わらず、簡単にボールを相手に渡してしまったチームに対して激昂していたように思う。いずれにせよ、相手に攻め込まれながらもしぶとく守って気づいたら勝ち切ってしまう。強かった頃のユベントスはこんな感じだった。ユベントスのメンタリティが戻ってきつつあるように思った。

残り5試合

さて、セリエAは残り4節。5位とは勝ち点8まで離れた。フィオレンティーナとラツィオとの対戦を残しているため油断は禁物だが、4位以内はおそらく大丈夫だろう。コッパイタリア決勝も残っている。しかし、中盤には人が足りない。マッケニーは間に合わないだろう。ロカテッリやアルトゥールはどうだろうか?仮に現状のままコッパイタリア決勝を迎えるとしたら、ゲームプランはこのまま行くことになるだろう。つまり、堅く守って相手を自陣に引き込み、後方のスペースをダイレクトな攻撃で突く。あとはアッレグリが時間帯やタイミングを見計らって戦術的な変更や選手交替で相手の弱点を突くことができるかどうか。年明け以降構築してきたロカテッリを中心としてボールを保持して押し込む攻撃の仕組みや、クアドラードを下げて一時的に5バックへと変化する守備の仕組みは使えないかもしれない。ただし、DFとFWにはそれなりに選手が揃っている。アッレグリが配置や選手選択で毎試合、相手に応じて最適解を打っていくしかない。中盤不在という偏った戦力をやり繰りしてチームを勝たせる。アッレグリの真価が問われる時がやってきた。

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