ブッダガヤの物乞い 1
とあるレストランのテラス席で昼食をとっていたところ一人の物乞いに絡まれた。いつも足を引きずって歩いている男だった。「なんか食い物くれ」と手を動かして訴えてくるので「なにもあげらんないよ」とこちらも手を動かして牽制していると、向かいに座っていた女性が口に合わなかったらしく「これ飲みなさい」と自分のスープを差し出した。
しかし男は手を振ってそれを拒否、僕のベジターリー(スペシャル)についてきたヨーグルトを指差して「こっちをよこせ」と。物乞いが選り好みするのか!とその女性と2人で爆笑した。
その後、女性のすすめを再三再四断り続けたあと、とうとう根負けした男は「なんだよスープかよ…」といわんばかりのしけた面で飲み干し、しばらく僕のヨーグルトを恨めしそうに見つめてから悲しそうな後ろ姿で立ち去っていった。
やがて女性も立ち去り、入れ替わりでブータン人らしき2人の高齢男性がやってきて席に着くと、今度は赤子を抱いた少女と老婆の物乞いが登場。やはりヨーグルトが欲しいらしく指を指してくる。「こっちならいいよ」と食べ残していた輪切りの玉ねぎとスパイスの漬物を差し出したが、やはり手を振ってこれを拒否、「ヨーグルトをよこせ」と。
「また選り好みされた!」と愕然としていると二人の高齢男性もチャイを吹き出して笑っていた。その後「野菜食え」「ヨーグルトよこせ」の押し問答を何度か続けたのだか、結局野菜は受け取らずに立ち去っていった。
物乞いにすら拒絶された野菜達に「もののあわれ」を感じながら僕もレストランをあとに。繁華街を歩き出すとしばらくして先程の男の物乞いに遭遇した。さっきは足を引きずっていたのに今は元気に歩いている。
「おい!脚!脚!」
と、突っ込みを入れるとひきつった笑みを浮かべまた白々しく脚を引きずって歩き始めた。すっかり呆れ返ってしまった私はその場に立ち尽くし呆然としながらも、
「お前のその根気がどこまで続くのか、見届けてやろうじゃねぇか…」
と思い、その悲しい後ろ姿を見つめていると、5メートルほどでまた普通に歩き始めたので、私はもう考えるのを止めてマハボディーテンプルへと向かったのだった。
そう、かの人の、悟りの地へと…。
完