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「文字セット」から考える本文用の書体選び

突然ですが、ここで質問です。
デザインやレイアウトを考える時、皆さんはフォント=書体をどんな風に選んでいるでしょうか?

明朝体、ゴシック体、丸ゴシック体など、書体にはいろいろな種類がありますよね。格調の高さや力強さ、かわいらしさや繊細さ……。こうした見た目のデザインや印象で決めることが多いと思います。

もちろん、私もそうしていますし「まずは見た目重視で全然オッケー!」と思っています。

……なのですが、小説、エッセイ、論文などの「本文書体」を選ぶ時、私はもうひとつ重要視していることがあります。それが「フォントの収録文字数=文字セット」です。

文字セットでこんなに違う収録字数

デジタルフォント、特に和文フォントを使っていると、書体名の後に「Std」「Pro」「Pr5N(Pr5)」「Pr6N(Pr6)」という表記がついていることがあります。
この表記は、それぞれフォントの文字セット、つまり使える漢字や記号の収録文字数を意味しています。2021年現在、もっとも収録文字数が多いのが「Pr6N(Pr6)」です。

漢字の収録数で見ると「Std」は約7000字。対して「Pr6N(Pr6)」は約1万4600字と、およそ2倍の収録数で、その差は一目瞭然です。
また、例えば「Std」の場合、丸囲み数字は使えても、四角囲みの数字は使えないということもあります(使用するフォントにもよります)。

モリサワのホームページに、収録字数に関する記事があります。下記よりご覧ください。

ジャンルにもよりますが、一般的なカタログやパンフレット、または現代をテーマにしたエッセイやビジネス書などは、そこまで気にしなくても問題ないかもしれません。
ですが、文芸書や評論・論文、歴史や古典を扱うケースでは、本文内に難読漢字や人名漢字などが頻出する可能性が高くなります。
そうなると、フォントの収録文字数が重要になってくるのはご想像の通りです。
「Std」「Pro」の収録漢字では対応できないケースも考えられます。「Pro」はまだしも、「Std」はちょっときびしいかも…(冷汗)

もしこうしたジャンルの文章をレイアウトするのであれば、本文書体には「Pr6N(Pr6)」「Pr5N(Pr5)」のフォントから選ぶことをオススメしたいところです。

書体の見た目と機能のバランスを考える

書体選びでは、見た目や雰囲気で選ぶことも大事ですが、内容にあわせて必要な機能を備えているかどうか、ということも大切です。
こうしたことも踏まえて選んでみると、表現の幅が広がるかもしれませんね。ご参考になれば幸いです。

ちなみに私の場合、普段の仕事ではなるべく「Pr6N(Pr6)」から選ぶようにしています。

……なのですが、著者や編集者から「もう少しやわらかい書体。『●●丸ゴシック』とかでお願いします!」などとご指定いただくことがあります。

ええ、「あの」丸ゴシック体ですね。私も好きだし人気もあるし、良い書体なんですが、文字セットが「Std」なんですよ……。

まあ、なかなかうまくいかない時もあるものです(汗)。

(「教室のお知らせ」2021年7月号より一部編集して掲載)


補足

  • Nフォント
    例えば、文字セット「Pr6」のフォントには、「Pr6」と「Pr6N」の2種類あるケースがあります。この2つ、収録文字数はどちらも同じです。ですが、文字入力した時に最初に表示される字形「標準字形」が異なります。
    詳細はモリサワのサイトなどの記事をご覧ください。
    【参考】Nフォント(モリサワホームページ「フォント用語集」より)
    https://www.morisawa.co.jp/culture/dictionary/1901

  • Proについて
    多くの場合、Std → Pro → Pr5 → Pr6 の順に収録字数が多くなりますが、「ヒラギノフォント」のPro版は、Pr5相当の文字セットになっています。すごく紛らわしいのですがそうなっているそうです(汗)。
    また、Pro版フォントにもNフォントが用意されているケースもあります。(Std版も同様です)
    ちょっと混乱しそうなので、配信時には「Std」「Pro」について明言を避けています(冷汗)。ご容赦ください。
    ご興味のある方は色々調べてみると面白いかもしれませんね。


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