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ビオトープにコイは入れない

生物の授業では外来種問題は扱わない!?

 高校の生物分野には、「生物基礎」と「生物」の2つの授業があります。「生物」は「生物基礎」を選択しておく必要があります。
 「生物基礎」の教科書、実教出版「高校生物基礎」を例にとると、最後に置かれた第4章が「生物の多様性と生態系」になっています。第4章の最後の節が「生態系のバランスと保全」になっており、その中で「外来生物による影響」を学びます。つまり、この内容は教科書の最後に置かれています。
 「生物基礎」の授業を第1章から順に内容を進めると、外来生物を扱うのは年度末になってしまいます。この時期、学校は忙しく、高校は入試関係の仕事もあり、6時間授業ができないことも多いのです。そのため、学校によっては外来生物について扱わないこともあるようです。
 「生物基礎」の授業で私は、校庭の雑草の花が咲き、樹木が芽吹く1学期に第4章の「生物の多様性と生態系」を扱っています。そうすると、6月に「生態系のバランスと保全」について学びます。この単元では、人間活動が生態系に及ぼす問題について、教えるより、生徒一人ひとりが興味をもって考えるのが大事です。生徒一人ひとりがテーマを設定して調べる学習をしています。外来種や絶滅危惧種の問題は、調べやすいのか生徒に人気があります。
 この間、「コイの大部分が外来種であること」「コイが生態系に悪影響を与えていること」を生徒が全く知らないことがわかりました。教科書にも外来の魚類は、ブルーギルやオオクチバス、コクチバスが例に上がっているだけですし、特に興味がなければ知らないのは当然かもしれません。

ビオトープにはコイは入れない!

 もう30年近くも前に高校の中庭にビオトープをつくりました。その時は、最初から池にコイを入れるつもりはありませんでした。
 コイは、トンボのヤゴなどの水生昆虫、カワニナなどの貝類、そして水生植物など、雑食性で何でも大量に食べてしまう、また、他の魚に比べ、口が下の方についていて、たまった泥などを巻き上げて水を濁す、などの問題があることを事前に調べていたためです。このことを後年、あるテレビ番組を見て再認識しました。

     

池の水をぜんぶ抜く大作戦!

 テレビ東京で「緊急SOS!池の水をぜんぶ抜く大作戦」という番組をやっています。2024年6月現在、第55弾が放映され好評なことがわかります。この番組の第1弾が2017年1月でした。たまたま新聞のテレビ欄で見つけました。民放ですので、どんな感じの番組になるか。
 田村淳(ロンドンブーツ1号2号)、田中直樹(ココリコ)といったタレントたちが、池や川に実際に出かけて、水を抜いて外来生物を排除する作業に参加する。一体どんな生物がみつかるか、ドキドキ感もあり、楽しめました。環境保全の専門家や池の水をぬく専門の業者も登場し、結構真面目な番組でした。地域地域で池や川の状況も違い、問題になっている外来種も違うことがよくわかります。

 環境保全の専門家として登場していた久保田潤一氏が、『絶滅危惧種はそこにいる 身近な生物保全の最前線』(角川新書、2022年2月初版)という本を出しました。久保田氏はbirthというNPO法人で自然環境マネジメント部長されている方です。その本で、狭山丘陵にある宅部池(通称「たっちゃん池」)での池の水をぬく話が出てきます。
 目標の一つに外来魚の根絶を挙げています。外来魚にはブラックバスなどに加え、コイも含まれています。

久保田潤一著 絶滅危惧種はそこにいる 角川新書

コイは外来種!?

 コイのDNA解析から、世界にコイは1種類と思われていましたが、少なくとも日本には、外来と在来のコイがいることがわかりました。2000年台のことです。詳しい内容は、国立環境研究所のリンク先をご覧ください。在来のコイは、琵琶湖の少し深いところにて、地元の人は経験的に野鯉とよんで区別していました。現在はほとんど見られません。対して外来のコイは、飼育や放流もされ全国に分布するようになりました。在来のコイの方がスマートな体型です。


 外来のコイは生態系に悪影響を及ぼしています。久保田氏は『絶滅危惧種はそこにいる 身近な生物保全の最前線』の中で、2点に分けて説明しています。
1 在来種の捕食。 
 コイは雑食性のため何でも食べる。そのうえ体も大きいので多量に食べる。カワニナ、タニシ、シジミなどの貝類、水生昆虫、藻や水草。歯が大きいので貝類ででバリバリと食べる。コイがいると在来種が減少しています。
2 水を濁らせる問題。
 エサを探すときに底泥を巻き上げる。泥の中にたまっていた窒素やリンも巻き上げ、それを栄養とする植物プランクトンが増える。泥を巻き上げるので水が汚れ、光が下まで届かなくなり、水草が枯れる。水草はトンボ、メダカ、ゲンゴロウの産卵場所、魚の隠れ家、ヌマエビのエサなどになっており、生態系の中で欠かせないものである。このような状態が続くと夏にプランクトンが大発生することがあり、溶存酸素が無くなり、生物が死滅する。
コイを入れると、生物全般にダメージを与え、生物がいなくなる。

やっぱり ビオトープにコイは入れない!

 30年前にビオトープを作った際には、身近にいるコイが外来種であることはわかっていませんでした。DNAが調べられるようになり、2つの種類が生息していることがわかりました。
 30年前に学んだことは、間違っていなかったようです。周りをコンクリートでかこい、きれいな緋鯉が泳いでいるのが、多くの学校の池でした。当時、ビオトープは新しい試みでした。コイを入れないのは正解でしたが、アメリカザリガニが増えてしまったりして、かいぼりをしても解決が難しい問題が多々ありました。
 「緊急SOS!池の水をぜんぶ抜く大作戦」の一部を生徒に見せることがあります。その中でコイの問題を話しています。


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