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益子の住処 #18 石積みづくり

まだまだ寒い日が続きますが、自然界では着実に春の準備が始まっていますね。我が家のお向かいの林縁に育つタラノキからは小さな芽が出始めていました。

さて、ついに温めていたこの石積みづくりについてご報告することができます。何といっても、昨年5月より取り組んできたこの石積みづくり。ついに完成を迎えることが出来ました。今回は、そのプロセスについて記しておこうと思います。

なぜ石積みなのか

さて、そもそもなぜ石積みをするのか。築40年以上の我が家は、台地から谷戸の間にある雑木林の中に位置しています。土地は少し斜めになっていて、以前の住人さんが埋め立てて平地にした上で家を建てているのですが、長年の雨によって土が徐々に谷戸に向かって流されてしまっています。

場所によっては基礎の下部が見えはじめていて、家が傾くのは時間の問題でした。実際、少し傾いているようで、窓を取り付けた際に業者さんに家の歪みを指摘されてもいました。

これ以上の土の流出を防ぐため、何らかの対策をする必要がありました。一番普及している方法は、コンクリートの土留め壁かと思います。ただ、コンクリート壁には問題点もあると思っています。下記に、石積みの良さと共にコンクリートの問題点について私が思うところを書いておきます。

石積みの良さ①:隙間があり、生き物の住処になる
コンクリートの表面はツルツルです。ここには生き物が住む余白は残されていません。むしろ、排除しようという気さえ感じます。一方で、石積みにはどうしても隙間がうまれます。カナヘビなどはこういう場所が大好きです。カナヘビは畑の害虫を食べてくれて私たちに貢献してくれます。また、石の表面には凹凸もあり、雨水が溜まることもあるでしょう。そういう場所には苔が生えます。苔は小鳥達の巣づくりの材料になります。こうやって、自然界のものを使うことで他の生き物達が生きるための余白をうむことができると思っています。

石積みの良さ②:排水機能が高く、水はけの良い土を保てる
コンクリート壁の場合、石積みに比べて上側の土地に降った雨を排水する機能が弱いような気がします。雨水が排出されずに溜まってしまうと、土に酸素が供給されずにグライ化という状態になってしまいます。このような土では植物が根腐れを起こしてしまい、うまく育たないという問題が起こるそうです。

石積みの良さ③:自分で修復できる
コンクリート壁を作るのは、業者さんに依頼することになり、自分でつくることはできません。一方、石積みの場合は石さえあれば私のように自分でやってみることもできます。もちろん、全てを自分でやるべきだとは思っていませんが、地震などで少し崩れてしまった時に、元の石を使って自分でも修復ことができる、というのはとても大きな安心感です。

というわけで、我が家では石積みに挑戦しようということになったわけです。

石の調達

まずは石の調達からです。石はその地域で産出された石を使うのがベストだと思います。きっと昔はそうやって地域の石を使って石積みを行っていたのだと思います。そして、その積み重ねが、地域の風景を作っていったのだと。私が足繁く通う日光では、鬼怒川等の河原の玉石を使って石積みを行っていました。それが今でも残っていて、駅のホームの土台や、水田の土留めとして、その地域らしさを物語っています。

山林に残る玉石積み
東武鉄道鬼怒川線の線路沿いにある玉石積み

また、石の大きさは一人でも運べるサイズがいいと思います。石は見かけよりも重いですし、それを何度も持ち上げるのでとても身体に負担が掛かります。
我が家でも、地元の石で手で持てるサイズのものを使いたいとは思っていました。そして、まずは地域のおじさんに相談してみると、土木屋さんを紹介してもらい、あれよあれよという間に我が家の庭に石が運ばれてきました。ところが。。。

「全然、一人で運べるサイズじゃないじゃん!!」

そして、その石はどこで採取された石なのかもわからず、でもまぁ、天然石であることには変わりないのでそれを使うことにしました。

この後、石積み後半で石が足りなくなり、再度石の調達が必要になるのですが、その時は前回の反省を生かして地元の採石屋さんに石を購入しに行きました。そこでは、ちょうど良いサイズの石を入手することができたのですが、石積みの途中から石の種類が異なってしまい、今では少し残念な気持ちもあります。

重機を使う

というわけで、人力ではどうにもならないサイズの石を手にしてしまった我が家では、重機を借りることにしました。
重機は〇〇建機などの重機のリース会社で借りることができます。ただし、個人にも貸してくれるところとそうでないところがあるので、問い合わせが必要です。また、資格等を問われることもあります。このためというわけではないのですが、良い機会でもあったので、私はご近所の建機教習所にて3t未満掘削機の講習(正確には「小型車両系建設機械の特別教育」)を受けに行きました。2日間の講習で座学と実技の両方を教えてくれました。
こうして一通りの重機の扱い方を学び、結局は近所の方からバックホー(ユンボ)を有料で貸して頂きました。

上記でお伝えしたことは、私有地だからできることです(自己責任)。公共の場やお仕事として重機を使う場合は当てはまらないこともあると思いますので、注意が必要です。特に、私が受けた講習で教えてくれるのはバックホー(ユンボ)による掘削の方法です。バックホー(ユンボ)で石を運ぶためクレーンとして使うためには、別の講習が必要になりますし、実際には十分な安全管理が必要だと思いますので、あまり参考にはしないでください。

石を積む

石の積み方については、「図解 誰でもできる石積み入門(真田純子 著、農文協)」という本を参考にしました。これを読むと何となくですが、石の積み方がわかります。ただ、頭で理解するのと、実際にやってみるのとは大違い!なかなか理想とする石が見つからないし、NGの積み方を避けられない場所が出てきてしまうし、こればっかりはやってみないとわかりません。

そんな時に、とてもラッキーなことに、同じ町内にお住まいの環境デザイナーである廣瀬俊介さんがご自宅につくられた石積みについてお話してくださる機会を頂きました。廣瀬さんからは、石積みの見た目の美しさよりも、その機能を理解することが大事ということを学びました。また、余った石を使って模擬石積み演習までさせて頂きました。そんな廣瀬さんのご自宅の石積みは、山の表土の流出を防ぎ、水を排出させるという機能を充分に発揮しているだけでなく、そこに根をはる在来の植物たちと美しく共存しているものでした。

さて、人力で持ち上がらない石を実際にどのように積んでいったかというと、まずバールなどで石を浮かせスリングという紐状のもので石を括ります。この時に、石をどのような向きで置くかを予め決めておく必要があります。それをユンボで吊り上げて設置場所まで運び、長い棒などで微調整しながら石を下ろします。


これ、とっても危ない作業なので細心の注意が必要です。スリングをユンボのフックにかけたり外したりするときは必ずアームのロックをかけました。そして、アームが動いている時は絶対に近づかず、石の向きを変える必要があるときは長い棒を使って操作しました。

先述した通り、頭ではわかっていてもなかなか難しい作業で、石を積んでみるのもトライアンドエラーの繰り返しです。というのもあり、本来は一人で持ち運べる大きさの方が理想だと思います。
二段目を積み終わったところで石が足りなくなってしまい、その後は一人で運べる大きさの石を用意したのは上述の通りです。

もう一つ大事なポイントは、1段ずつ石を積んだ後に、裏の土と石の間に砕石を入れます。これによって、土が石に目詰まりするのを防ぎ、排水機能が持続します。


我が家では、庭のあちこちから出るコンクリートガラも一緒に入れました。コンガラの処分は一個人には本当に困るものです。これも一つのリサイクルですし、購入する砕石の量も節約できるので、人工物を埋めるのは少し抵抗もありましたが、処分も兼ねて砕石として再利用しました。

滝口をつくる

石積みの端には、雨水タンクから接続する配管の出口から流れ出る、小さな滝をつくります。
配管の出口が見えないように、かつ、水が滴る様子がみれるように、石の配置を考えています。
なかなかの自信作なので、動画を貼っておきますね!


石積みの仕上げ

石積みの仕上げ高さは、目分量ではなく水糸を使って測ります。石垣の両端に木杭を打ち、水準器を使って水糸が水平になるように弛みなく張ります。この水糸の高さを目安に、石を積みます。そうすると、多少の凸凹はできますが、何となく高さを揃えることができます。

そして最後の段ですが、私(大雑把なA型)はそこまでやる必要をあまり感じなかったのですが、パートナー(几帳面なO型)がかなりこだわって、石垣の正面から石を押しても引いても動かないように石を組み上げました。もちろん上に乗っても動かないですし、少々蹴り飛ばしても崩れません。
もはや、正解のないパズルをひたすらにやっているような感じで、パートナーは週末になると黙々と石と向き合っていました。この作業に3ヶ月くらいはかかったと思います。

こうして、晴れて石積みが完成しました。途中、手をつけていなかった時期もありますが、完成まで9ヶ月程かかりました。

やってみての感想

個人で石積みに挑戦するという、かなり無謀なことをやってみて、重機やトラックがないかった時代の人たちの凄さをヒシヒシと感じました。
昔の人たちは、田んぼに水を水平に張るために、開拓をしては石を積んで農耕を営んでいたわけです。石積みをするという行為の中には、土を掘り、石を調達し、運ぶという行為も含まれます。一から石積みを行うことはとても大変なことだったのだろうと思います。大変な作業ゆえに、地域の人たちで集まって、みんなで力を合わせてやっていたのだと思います。

というわけで、石積みをやってみようと思っている方に私がアドバイスできるとしたら、一人で運べるサイズの石を準備して、みんなで楽しくワイワイやった方がいい!ということですね。

今は2月の極寒の時。この後春を迎えて、この石積みの隙間に多くの植物や生き物が住みついて、この庭をもっと賑やかにしてくれるといいなと思っています。いつか、そんな報告もしていきますね!

長文、お読み頂きありがとうございました。

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