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日本ガラスびん協会 会長に聞きました!ガラスびん復権への一手とは?

今、みなさんの身の回りにガラスびんはいくつありますか。
世界的に環境問題への関心が高まっており、3R(リデュース、リユース、リサイクル)に優れているガラスびんは需要が増えると期待しているのですが、あまり追い風を活かしきれていないのが現状です。ガラスびんの出荷量は1990年に約240万トン(約109.7億本)をピークに、2023年には約89.7万トン(約50.9億本)と6割近く減少しています。ウィスキーびん、薬びんなどは堅調ですが、調味料や飲料ドリンクびん、食料びんは減少傾向にあり、先行きが不透明な状態が続いています。
今後、ガラスびんの需要を高めていくために、ガラスびんがもっと利用される社会となるために、日本ガラスびん協会は、どのようなことを考えているのか。note編集部は、日本ガラスびん協会会長で、東洋ガラス株式会社代表取締役社長の野口信吾氏に話を聞いてきました。


栓抜きを知らない若者が急増している現状に
どう対処するか

―ガラスびんの需要が減少している要因は?

(野口会長)
原因として挙げられるのは2つ。1つが少子高齢化。そしてもう1つが、他素材容器への置き換えです。昔はガラスびんが使われていた調味料の容器なども、今は樹脂容器に置き換わっています。1990年にガラスびんは出荷量のピークを迎えていましたが、たった30年の間に半分以下になってしまいました。この傾向が続けば、国内だけでもう一度ピーク時の数量に戻すのは難しいでしょう。今の若者は栓抜きを知らない方がいる状態ですから。

―この状況下で、日本ガラスびん協会に求められる役割とは?

(野口会長)
日本ガラスびん協会発足当時からのミッションですが、ガラスびんの需要創造と普及活動です。
人々は使い勝手の良い方を選ぶ傾向にあります。ガラスびんは『重たい』『割れる』という点で、利便性を求める世の中の流れに乗り切れない状況でした。

―利便性を求めているのは誰か?

(野口会長)
もちろん消費者が求めている側面もありますが、私は、消費者はそれほどガラスびんに強い不満を持ってはいないと考えています。直接的な要因としては、流通企業がメーカーに樹脂容器を強く要望したことが大きいのではないでしょうか。スーパーなど販売の現場では、軽くて、取り扱いやすい樹脂容器の方が重宝される傾向にあります。また、購入したお客様が万が一、ガラスびんを割ってしまった際、ご意見は販売したお店にきます。こうした対策という意味でも、樹脂容器への置き換えが10年くらい続いていました。

日本ガラスびん協会会長、東洋ガラス株式会社代表取締役社長の野口信吾氏

ガラスびんへ再度注目が集まると期待した
世界的な環境問題

―現在の環境問題への関心の高まりは、追い風になっているのでは?

(野口会長)
世界的にマイクロプラスチックが問題になり、『そもそも高度の水平リサイクルが成立していて海洋に流出することが少なく、仮に流出しても砂に戻るガラスびんは、また注目されるようになる』と思ったのですが、今のところ、期待したほどの需要の伸びはありません。

環境への貢献という点で、ガラスびんは一度使ったものを回収し、洗い、再使用するリユースシステムが確立しています。しかし今は、ワンウェイびんが大半を占めています。
とても残念ですが、大手乳業メーカーが3月末でリターナブルびんを使った商品をすべて樹脂や紙の容器に置き換えました。空きびんの回収、洗浄にはコストがかかります。そして宅配業者も減っていることから、リユースの仕組みを維持するのが難しくなってきたとのことですが、同じようなことが日本の各所で起きているのが、今、ガラスびん業界が直面している大きな課題の一つです。

―リデュースの面では、超軽量びんの開発もされています

(野口会長)
私たちは、かなり早い時期から軽量化に取り組んできました。一般的に調味料に使われている500mlのガラスびんの質量が約320gであるのに対し、超軽量びんは195gにまで軽量になっています。実際に持っていただくと、その軽さにみなさん驚かれます。

超軽量びんを含め、ガラスびんの軽量化は、原材料の削減、製造時の消費エネルギー量の低減、軽量化による輸送時のCO₂排出量の削減など、環境負荷軽減に大きく貢献していると自負しています。コーティングを施して耐久性も向上させるなど、最新の技術を注ぎ込み、磨き込んで開発しました。
一方で、使用する原材料を減らした分、得意先からはコストダウン要請を受けることとなりました。買う側の心理を考えればその通りですが、例えば超軽量びんは通常のガラスびんよりもガラスの厚みを薄く、均一化するなど、製造の難易度が高いため、場合によってはコストアップとなることもあります。
中身への安全性ではガラスびんは負けることはないと思っていますが、軽さと割れないという点ではどうしても樹脂には勝てません。そのため軽量度を追求するだけではなく、これからはガラスびんならではの重厚感ある商品の開発が重要だと考えています。

最新技術を注ぎ込んだ超軽量びん

見えてきた
ガラスびん復権への青写真

―ガラスびんの需要はどうすれば回復するのか?

(野口会長)
昨年、環境配慮や脱プラスチックの観点からヒルトン※の部屋置き飲料が樹脂容器からリターナブルびんに変わりました。使用場所(範囲)が決まっているケースでは、リターナブルびんは樹脂容器より有効な点がたくさんあることをお示しした良い事例だと思います。
ホテル側も、お客様も気持ちよくご利用いただける上に環境にも良いという『三方良し』の関係が築けています。今後、こうした動きが広がっていくと、リターナブルびんの需要はまた回復していくと考えています。

※ヒルトンのリターナブルびん導入の話はこちら

また、昨年は東京家政大学でリターナブルびんの実証事業※も行いました。
この実証事業により、さまざまなことが見えてきました。ヒルトンと同じように、大学内という決まった場所なのでガラスびんを返却しやすい環境です。どういうときにガラスびんを選ぶのか、一人ひとりが自分の生活の中で、使い終わった後のことをよく考えた上で容器を選べるようになれば、おのずとガラスびんの需要は高まってくるのではないかと感じました。

※東京家政大学での実証事業の話はこちら

(野口会長)
また、ガラスびんメーカーの立場から申し上げますと、ガラスびんの良さを生かした重厚でデザイン性の高い商品の開発も必要だと考えています。
ガラスびんの特長として、デザインの自由度が非常に高いという点があります。お客様が思わず手に取ってしまうような魅力的なガラスびんが市場に増えることも、ガラスびんが見直されるきっかけになるのではと思っています。

ちなみに、ヨーロッパでは『ガラスびんは割れるものだが、扱い方に気を付ければ大丈夫』という教育がこどもにも行き届いており、社会の中に当たり前の存在としてガラスびんがあります。ヨーロッパのようなガラスびんに親しむ文化が日本でも醸成できれば、今後は状況が変わっていくのではないでしょうか。

高い評価を集めている
日本の品質とデザイン力を輸出する

―今後のガラスびんの展望を教えてください

(野口会長)
利便性を求める日本市場において、ガラスびんの大量生産の時代は終わったと言えます。しかし、ガラスびんには樹脂や他素材にはない魅力があります。

私がガラスびんメーカーに就職を決めたのは、コカ・コーラの独特のくびれがあるびん(コンツアー・ボトル)のデザインに惹かれたからです。『私も、こんな気の利いた美しいガラスびんを作りたい』というのが志望動機なのです。今はかなり流通数が減ってしまいましたが、あのびんは見て良し、持って良し、空になっても映えるという素晴らしいびんだと思います。
環境への貢献もありますが、やっぱりガラスびん自体が持つ存在感、ガラスびんならではの美しさというのは、他の素材では出せないものだと思っています。

今、日本のアルコール商品が「Made In Japan」として海外で高い人気を集めています。こうした商品を、よりデザイン性の高いびんに詰めて出荷していただければ、さらなるブランド価値の向上につながりますし、ガラスびん需要を引き上げることにもなると思っています。

―海外では日本のガラスびんは高く評価されている?

(野口会長)
欧米から日本のガラスびん工場に視察に来られると、ほとんどの方が「品質がクレイジーだ」と言われます。日本の品質管理の基準はとても高く、わずかな外観欠点も許されません。これは日本人の几帳面な国民性に由来しているところです。また、細かな意匠などのデザインも、日本はとても優れていると思います。

ただし、日本にはヨーロッパのような重厚なガラスびんを作る文化がありません。日本ではどちらかというと大量生産・生産効率を重視した製造法を追求し、一方、ヨーロッパの重厚なガラスびんは素地を型に入れた後、ゆっくり時間をかけて成形していきます。両者は製造方法の違いで、技術力の優劣というわけではありませんので、日本のガラスびんは今後、ヨーロッパでも十分に戦えると思っています。

―日本ガラスびん協会、そして日本のガラスびんメーカーが今後なすべきことは何でしょうか?

(野口会長)
SDGsが国連で提唱されて以降、若者たちの環境への意識高まり、既にガラスびんの良さを知っている方もたくさんいらっしゃいます。しかし、まだ購買に結びついていない。ここに協会が取り組まなければならない課題があるわけです。「どうやって購買意欲を喚起するか」「ガラスびんを生活の中に取り入れてもらうか」これらの課題を解決するべく啓発活動を続けていくことです。若者たちがガラスびんに触れる場面を増やしていかなければなりません。

もう一つが、製造技術の進化です。
今やCO₂排出量の削減は企業としての責務であり、事業として存続するためにはどうしても取り組んで行かなければなりません。
現在、燃焼技術はヨーロッパの方が優れています。これまでの化石燃料は廃止され、酸素燃焼法や水素燃焼法が採用されることで製造時のCO₂排出量削減に大きく貢献しています。バリューチェーン全体でのCO₂排出量を管理することが求められるヨーロッパでは、化石燃料に頼らない燃焼方法の採用は必須事項です。
私たち日本のガラスびんメーカーも、いち早く取り入れたい思いでいっぱいなのですが、燃焼方法の変更は、窯の作り替えを意味します。とても大きな投資になりますので、作り替えが完了するまでには、長い時間がかかってしまいます。

これら2つとも、簡単にできる内容ではありませんが、できることから始めなければ現状は変わりません。一つひとつの活動は、小さな波かもしれませんが、これを続け、大きなうねりとなるように、これからも会員各社が一致団結して取り組んでいければと思っています。



日本ガラスびん協会会長
東洋ガラス株式会社代表取締役社長
野口信吾

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