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繰り返し使えるリターナブルびんをヒルトンが導入するワケ

レジ袋の有料化、プラスチック製スプーンやストローの無償提供の廃止、マイボトルの普及など、私たちの周りでは急速に環境負荷低減に向けた取り組みが広がっています。この動きはサービス業において顕著に見られますが、特にさまざまなステークホルダーが利用するホテル業界では不断の努力が求められています。

世界的なホテルチェーンであるヒルトンでは、2022年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法※に先立って、2018年からプラスチック製ストローを全面廃止。また、同時に生分解性のペットボトル利用や、アメニティ関連のプラスチックを可能な限り減らすなど、さまざまな取り組みを実施。さらに2023年 からは主要都市ホテルで客室の部屋置き飲料としてリターナブルびんの導入を始めました。

リターナブルびんは、ホテルにおける脱プラスチックへの取り組みにどのように貢献できるのか。また、導入に障壁はなかったのか。ヒルトンで調達を担当している上席統括本部長の大井智博さんにお話を伺いました。

※プラスチック資源循環促進法
国内外におけるプラスチック使用製品の廃棄物をめぐる環境の変化に対応して、プラスチックに係る資源循環の促進等を図るため、プラスチック使用製品の使用の合理化、プラスチック使用製品の廃棄物の市町村による再商品化並びに事業者による自主回収及び再資源化を促進するための制度。2022年4月より施行。

ヒルトンで調達を担当している上席統括本部長の大井智博さん

社会的に責任のある企業が、
責任のある調達をすることは当然の使命

-ホテル業界は他のサービス業よりもサステナブルな活動に力を入れているイメージがあります

(大井)
最近のお客様は、環境に優しい取り組み含めサステナブルな活動を行っているホテルを選ぶ傾向にあると思います。特に若年層のお客様はご自身の生活にエシカルな活動を取り込んでいる方も多く、ホテルとしてどのようなサステナブルな取り組みをしているかどうかにとても敏感です。

―訪日外国人と日本人とで、環境への意識の差はあるのでしょうか?

(大井)
日本人と外国人のお客様で意識の差はないと思います。私たちヒルトンのホテルでは、日本人のお客様だけでなく、様々な国から来られるお客様にご利用いただいていますが、どちらもサステナブルな活動への意識は非常に高くなっていると感じています。

私たちヒルトンは、2018年に責任ある旅行を推進するESG戦略「トラベル・ウィズ・パーパス」の2030年までに環境負荷を半減させ、社会的投資を倍増にするという目標のもと、水使用量や廃棄物削減などの数値目標を設定し、各種取り組みを実施しています。この目標は一度設定して終わりではなく、時代の変化に合わせて再定義し、途切れることなく、努力を続けることが重要だと考えています。

私のいる調達部門では、「社会的に責任のある企業が、責任のある調達をすべき」と考えて、脱プラスチックや食品ロスの削減に取り組んでいます。

イメージ写真:富士ボトリング提供

-脱プラスチックを進める上で、課題意識を持っていたアイテムは何でしょうか?

(大井)
ペットボトルやアルミ缶、ワンウェイのガラスびんなど、ホテルから出る大量のごみがあることは大きな課題でした。
リサイクルするものもありますが、きちんと回収しなければ正しくリサイクルされない可能性があります。リターナブルびんの導入でごみの量を大幅に削減することができました

ホテル・レストラン業界の展示会会場の一角で、
輝いて見えたガラスびん

-今回、リターナブルびんを導入するに至った経緯を教えてください

(大井)
私たちヒルトンでは、以前、部屋置き飲料として主に生分解性プラスチックボトル使用していましたが、一部ホテルではリターナブルびんを導入していました。しかし、飲料メーカーが水のリターナブルびんの製造を辞めてしまったのです。リターナブルびんの存在は認識していたのですが、提供いただける飲料メーカーが見つからなかったため、私たちは別の方法を模索していました。

そんなとき、2022年のホテルショーの会場で富士ボトリングさんと出会ったのです。本当に不思議なことですが、この日、なぜか普段は行かないブースエリアに足が向いたんです。そして、きれいなガラスびんが目に留まり、声を掛けさせていただきました。それがリターナブルびん入りミネラルウォーターの『足柄聖河』でした。ガラスの美しさはもちろんですが、私がリターナブルびんを求めていたということもあるのでしょうか。ものすごく輝いて見えたのを今でも覚えています。

アルミ缶、紙パック、ワンウェイびんなど、さまざまな方法を検討・導入してきましたが、ごみを減らすという点でリターナブルびんに匹敵するものはなかなか見当たりませんでした。現在ではリターナブルびんやお客様ご自身でウォーターサーバーからピッチャーに水を汲んでただくなどのサステナブルな方法を採用しています。

イメージ写真:富士ボトリング提供

-足柄聖河の導入はスムーズに進みましたか?

(大井)
導入にあたり気になったのは、重量です。
ペットボトルは搬入だけで済みますが、リターナブルびんの場合は回収もあるので、重量がハウスキーピングのチームメンバー(従業員)の負荷になるのではないかと不安でした。
しかし、実際に導入してみると私の心配は杞憂であることがすぐに分かりました。リターナブルびんの搬入と回収は、富士ボトリングさんのサポートもあり、チームメンバーの負担は思っていたより軽減されました。大量のごみを扱うより、繰り返し利用できるリターナブルびんを扱うことで意識改革になりました。自分たちの仕事にどんな価値があるかを認識することは、モチベーションに大きく寄与するのだとホテルの運営・経営陣も改めて感じています。

-導入する上での懸念は、すべてクリアになったのでしょうか?

もちろん苦労した面もあります。それは搬入搬出に関してです。
リターナブルびんはホテルへの搬入だけでなく空きびんの搬出も行いますので、エレベーターの使用頻度が上がります。タイミングが宴会や朝食と重なってしまうと非常に混雑してしまうので、富士ボトリングさんには、搬入・搬出時間が重ならないように調整をお願いしています。
搬入に関わる点としてはもう一つ、保管場所です。
リターナブルびんはケースで納品されるので、ペットボトルと比べ収納スペースはより広く必要になります。そのため、当初は収納スペースの確保に苦労しました。

イメージ写真:富士ボトリング提供

リターナブルびん導入のコストは
それほど大きくない

-ランニングコストなどはいかがですか?

ランニングコストを見てみると、実はペットボトルとリターナブルびんとでそれほど変わっていないのです。

実際に導入して分かったのですが、リターナブルびんだとお客様は外に持ち出しません。ペットボトルでは、お客様がペットボトルをかばんに入れて外に持ち出すことがありました。そのため、部屋置き飲料の補充作業は楽になりましたし、結果的に消費量が最適化され、飲料に係るコストも少なくなりました。そして消費量が最適化されたことで、先ほど申し上げました保管場所の問題も解決できました。

リターナブルびんを導入しているヒルトンのホテルでは、回収率98%を実現しています。

-リターナブルびんを導入したことでお客様からの反応はありましたか?

「まだペットボトルを使っているのか」といったネガティブな声をいただくこともありましたが、リターナブルびんを導入してからは、そういう声をいただくことがなくなりましたので、お客様にはご理解いただいていると受け止めています。

サステナブルな活動を進めるには
意識改革をするのが一番効果的

-食品ロスの削減にも取り組んでいると聞きました

日本は世界でも食品ロスの多い国なので、いまメーカー、ホテル、飲食店、それぞれの場でどれだけ食品廃棄を減らせるかが大きな課題になっています。
ヒルトンでは、AIを使って「いつ、何を、何㎏廃棄したのか」を測定するシステムを導入しました。各ホテル導入した次の月は食品ロスを大体30%ほど減らすことができていて、コスト削減にもつながっています。

こうした取り組みで一番大事なのは課題の見える化です。ペットボトルをリターナブルびんに変えることで、チームメンバーの意識もお客様の意識も変えることができました。食品ロスに関しても、廃棄量と廃棄内容を数字として見えるようにしたことで、チームメンバーの意識が一変したのです。余った食パンをパン粉にしたり、ビュッフェでの作り過ぎを調整したり、現場で自然と創意工夫が始まりました。

サステナブルな活動はとても重要なことですが、以前よりも業務負荷が増えてしまうことがあります。しかし、当事者の意識を上手く課題にフォーカスさせることができれば、自然と仕組みが構築され無理なく取り組めるようになります。サステナブルな活動で一番重要なのは、意識改革をどのように引き起こせるかだと思っています。
私たちは、これからもこうした活動を続けていきたいと思っています。

イメージ写真:富士ボトリング提供

-取材を終えて

(編集部)
先日、20代の若い人が「缶やペットボトルには“リサイクルマーク”があるのに、ガラスびんには付いていない」という話をしていました。この “リサイクルマーク”とは、「資源有効利用促進法」によって表示が義務付けられている「識別マーク」と呼ばれるもの。容器包装に使われている素材の種類を示すものであり、実はリサイクルのマークではないのですが、誤解されていることが多いです。そしてガラスびんは、それがガラスびんであると容易に区別できるためこの「識別マーク」がないだけなのですが、ガラスびんに触れる機会が少ない世代には通じにくくなっていることに気付かされました。

ガラスびんに“びんtoびん”の水平リサイクル適正があること、古くからリユースを続けている実績があることは、若い世代にはまだまだ認識してもらえてないのが実情です。今回取材させていただいた、ヒルトンでの部屋置き飲料としてのリターナブルびん導入は、ヒルトン東京など関東を皮切りにヒルトン大阪やコンラッド大阪、ヒルトン広島へも広がり、今後、ヒルトン名古屋などでも導入予定とのことです。このように、わかりやすく目に見える・体感できるアクションを増やしていくことによって、若い世代の方にガラスびんの良さを知ってもらえる機会を作れるのではないかと感じました。


大井 智博
ヒルトン
日本・韓国・ミクロネシア地区担当
リージョナル サプライ マネージメント統括本部 上席統括本部長

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