「現代調の将棋の研究」の研究② テーマ1 後手、早繰り銀の速攻(矢倉)

前回の続きです。

今回はテーマ図以降の検討に移る…と言いたいところですが、実はもう1つだけテーマ図までの変化で気になることがあったのでそちらを先に片づけたいと思います。

こちらがテーマ図ですが、この▲7九角に代えて単に▲7六歩と打ったらどうなるか、というのが私の疑問。

というのも、前回の記事では銀交換しても先手まずまずという結論だったので、だったらあっさり収めても問題ないのではないかと思うのも自然です。これが成立するならぎりぎりの変化考える必要ないですね。で、成立するかというと…条件付きですが、これが一応成立するみたいなんですよね。

まずは少し局面を進めてみましょう。

変化図1より

△8六歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲同 銀
△同 飛 ▲8七歩 △8四飛 ▲2四歩
△同 歩 ▲同 飛 △2三歩 ▲2八飛
△4二銀 ▲4八銀 △6四歩 ▲5七銀
△3一玉
で変化図2。

長手数になりましたが難しいことはしておらず、銀交換後に淡々と陣形整備を進めただけです。(前回の記事とは違い先手は▲7六歩に一手費やしてるので、▲4六角の牽制が間に合いません。)

ここからの方針ですが、▲6九玉~▲7九玉の囲い合いをしてしまうと△7三桂~△6五歩と一方的に攻められてしまいます。

難しいことには難しいですが実戦的には大分後手勝ちやすいと思いますし、何より後手の主張が全部通ってるのでこの上なく不満ですね。というわけで先手は玉を固める指し方ができません。玉の定位置は59或いは58でバランスを取り、▲2五銀と持ち駒の銀を打って攻めを見せて互角、というのがソフトの見立てです。

先ほど条件付きで銀交換が成立するといったのはこのことで、従来の矢倉の囲い合いを放棄するなら互角の戦いができますが、よくある矢倉戦のねじり合いとは少し違う感覚が必要となります。人間的には少し先手がまとめづらいので、あまりお勧めできないというのが私の結論です。

では満を持してテーマ図へ。(再掲)

といってもテーマ図以降の手順を細かく研究したいわけではないんですよ。ここで羽生先生は△7六歩と△8六歩の2通りあると仰ってますが、何が違いか分かりますか?△8六歩の突き捨てなんていつでも入るし、それを入れるか入れないかでどうして後々の手順に差が出てくるの?と私は疑問に思いました。

恐らく紙面の都合で本には書かれていませんが、ここで違いが出てくるのではないか、と水面下の変化を調べて思い当たる部分があったのでそれを書こうと思います。必ずしも正しいという保証はありませんので、違う考えを持っている方がいたら是非意見交換したいです。

テーマ図より
△7六歩 ▲同 銀 △6六銀 ▲4六角
△6四歩
で第1図。

第1図一手前の▲4六角に対し、△6四歩は本では紹介されてないですが有力な一手。ここで予め△8六歩の突き捨てがあるかどうかが響いてきます。

△6四歩に対して▲同角と取ってしまうと△8四飛で逆に先手が忙しくなります。▲9一角成でも▲5三角成でも△6七銀成~△9九角成と攻めあわれ、これは後手玉が一路遠いのが活きる展開になりそうです。

というわけで△6四歩に対しては▲6八金引と躱すのが正着。次に▲6七歩から銀を殺す狙いがあります。ここで後手は△8六歩から飛車先交換を狙いに行くのが並の手に見えますが、△8六歩には▲6四角が幸便です。飛車取りを受けた手に対し▲8六角と手順に歩を取ることができます。

そのためこの局面では△8六歩は既に入りません。△7五歩と打つくらいですが、▲6五銀でも▲6四角でも先手が指しやすい形勢でしょう。

しかし、ここで先に△8六歩の突き捨てが入ってると結論が変わるんですね。突き捨てが入っていると▲6八金引に対しては△8六飛と走ることができます。以下▲8七金△8四飛▲8六歩で、▲8七金型を手厚いと見るかまとめづらい形と見るかは評価が分かれますが、難しい形勢でしょう。

という訳で本の中では△8六歩の突き捨てがある形では▲6八金引に代えて別の手段を選んでいますが、ここではその検討を割愛します。

以上、△7六歩と△8六歩でどんな差が出てくるかについての検討でした。

最後に、このテーマ図の私の所感を少しだけ。

後手としては△7六歩▲同銀△6六銀の擦り込みがメインの狙いなんですけど、△6六銀は実はかなり重たいんですね。先手としてはいかに▲6七金を引いて後手の銀を重たくするか、ということを軸に組み立てていく将棋なのかなと思いました。逆に後手はそれが間に合わないくらいの速い攻めの手を選んでいく必要があるということですね。

この形を調べていくと先手がまとめづらい変化が多く、研究なしでは先手やりづらいなという印象です。という訳で私の知る限りテーマ図周辺のプロの実戦例はなく、佐藤秀先生や石井先生の矢倉本に書いてある別の対策の方が有力だと思われているのかなと。ただ、形勢自体は互角なので脈は大いにあると思ってます。…とこんな感じで今回は終わりです。



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