「現代調の将棋の研究」の研究③ テーマ2 右桂を使った急戦(矢倉)

今回はテーマ2 右桂を使った後手急戦矢倉について見ていきます。

急戦矢倉とありますが実際にはカウンター型なのかなと思います。
先手に仕掛けてもらって歩をもらって△8六歩や△7五歩から反撃するのがこの戦型の常套手段ですが、正直なところ急戦矢倉と呼んでいいのかちょっと分からないところがあります。雁木の類型…?
しかし羽生先生が急戦に分類しているのできっとこれは急戦矢倉なのでしょう。

まあそこはどうでもよくて、テーマ図を見ていきましょう。

羽生先生が選んだテーマ図は△4五歩突き越し型の後手急戦矢倉。
これはこれでもちろん難しいのでしょうけど、個人的には違和感のある形です。というのも、△4四歩~△4五歩がそこまで価値の高い手とは思えないのです。
角道通したいならそもそも△4四歩突かなければいいだけですし、わざわざ2手かけて▲4六歩の争点を作りに行っているので、急戦調の駒組みとの整合性がないような気がしてならないのです。

実際にテーマ図の局面のプロ実戦例は21年5月時点で4局あるのですが、先手4勝という一方的な結果です。
一時期佐々木大地先生が後手で連採していたので有力な作戦であることには間違いないのですが、星の数が偏っているので評価値以上に後手が勝ちづらい展開なのでしょう…。

羽生先生は△4四歩~△4五歩の真意について解説がなかったため自分なりに理由を考えてみたところ

△4四歩⇒早繰り銀を牽制

△4五歩⇒それでも角道を通して急戦がしたい

という結論になりました。しかしここで疑問が1点。
果たして△4四歩を突かないと早繰り銀を含む先手の速攻に対応できないのでしょうか?△4三歩型で先手の速攻に対応できればわざわざ4筋に2手かける必要はなく、もっと価値の高い手が指せるわけです。

そこで、テーマ図から3手戻った下図(第1図)を今回の研究課題にしたいと思います。

まずはちょっとした豆知識から。▲3七銀では▲5六歩の方が手が広いようですが、急戦志向なら先に▲3七銀の方が安全で、この手は△5四歩~△5五歩を警戒しています。

ここでは△8五歩型なので後手もやってきませんが、仮に△8四歩型なら△5五歩から一歩交換して△5二飛と中飛車に回る手があります。玉を右に囲いやすい+△8五桂の牽制があり、有力な作戦と思います。(豊島-三枚堂戦で似たような構想の将棋があります)

という訳で▲5六歩は後回しで駒組みするのが現代流。もっとも、先攻しなくてもよいなら▲5六歩の方が手が広いので個人的には▲5六歩が好みですが…。

さて、この第1図から後手の進め方を考察したいと思います。先に桂を跳ねている形なので角転換は厳しいですね。そのため居角+αの陣形選択となります。

これを踏まえて△4五歩以外で有力な指し方ですが、下記3つが有力に思います。

①右玉 
②先に一段飛車+△6二金型を作る 
(玉は真ん中か左)
③早めの△5四銀型 (玉は左)

①右玉ですが、プロの実戦例を見ても第1図から数局は右玉の進行でしたので有力な選択肢だと思います。手が広くどうやっても1局に思うので、解説は省略します。

②現代将棋の流行形である一段飛車+△6二金型をとりあえず作るのはどうでしょうか。

第1図からの指し手②

△4一玉 ▲5六歩 △6二金 ▲4六銀 

△8一飛 ▲3五歩
で失敗図。

後手は漫然とバランス型で駒組みを進めようという意図ですが、先手に先攻されてペースを掴まれている印象です。

玉は4一でも5二でもよいのですが、失敗図から△同歩▲同銀となったときに後手は一歩ではうまい反撃がありません。

以下

(1)△7五歩▲同歩△6五桂は平凡に▲6六銀と上がり、▲6八角型のため後手は△8六歩と突けません。△7七歩と打って清算するくらいですが、歩切れになるので攻めは続きません。

(2)△8六歩▲同歩△8五歩は有効な攻めですが、無視して△8六歩と取り込まれたときに▲8八歩と謝れば問題なく、場合によっては次に▲8六銀から歩を回収する狙いがあります。

後手はバランス型を意識した結果先手の速い動きに対応できなくなってるんですね。飛車角桂歩の反撃では攻めが軽く、カウンターになってません。

まだしも後手が右玉の形なら失敗図から△同歩▲同銀△3三銀と指し、玉の遠さを活かして互角なのですが、流石に玉が4一(5二)の状態では▲2四歩から銀交換されても▲3四歩△4四銀▲2四歩と強引に2筋突破されても自信がないように思います。

失敗図からは一例として後手は角銀交換の駒損の進行を選び、「角持ったけど使うところないでしょ?」を主張に手厚く指すイメージですが、先手ペースの戦いであることは否めません。

というわけで第1図に戻り、続いて③早めの△5四銀型を目指す指し方を見ていきます。

第1図(再掲)

第1図からの指し手③

△4一玉 ▲5六歩 △5四銀
で第2図。

どうやら後手は早めに△5四銀と出る手が有力で、これで先手の攻めを牽制できているようです。いくつか先手の攻め筋を検証してみましょう。

第2図からの指し手①

▲2六銀 △4五銀 ▲1五銀 △5六銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 銀 △5五角で第3図。

一目散の棒銀には△5六銀で歩を掠め取って△5五角と出るのがうまい切り返しで、これは先手困っていますね。▲2五飛△1九角成▲2三銀成で強引に突破を図っても△3一金で攻めをいなされます。続いて▲2二歩には△3三桂で飛車が当たってしまいます。

それでは棒銀ではなく早繰り銀を目指すのはどうでしょうか。これなら△4五銀がありませんが…。

第2図からの指し手②

▲4六銀 △4四歩 ▲3七桂 △6五銀
で第4図。

▲4六銀にはそこで△4四歩と突くのが呼吸。これなら次にすぐ△4五歩で銀を追い返せて先手が手損することになるので、道理にかなった指し方と言えます。

仕方なく▲3七桂と跳ねて次の△4五歩を防ぎますが、そこで△6五銀と揺さぶるのが面白い手。▲5七銀や▲5八飛にはそこで△5四銀と戻れば千日手模様。
▲5五歩には△5六銀と擦り込んでおき、△6五桂や△3三桂~△4五桂(歩)があるので攻めの手には困りません。
先手は桂を跳ねているためすぐに攻めの形を作りにくく、後手が軽い形です。

第2図に戻ります。

単に▲4六銀では△4四歩から追い返しを見せられて思わしくなかったので、先手は一工夫をします。

第2図からの指し手③

▲3五歩 △同歩 ▲4六銀 △3六歩
▲2六飛
で第5図。

▲3五歩の突き捨てを入れてから▲4六銀が勢いをつける定番の筋で、これなら△4四歩が間に合いません。
しかし後手も手筋の△3六歩で応戦。▲3五銀には△3七歩成~△3六歩があるので先手も▲2六飛としますが、形勢はいかに。

第5図以下の指し手

△6五銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲3五銀 △5六銀 ▲5八金 △5五角 ▲4六歩 △8六歩 ▲同 歩 △8八歩 ▲同 銀
△6五桂
で第6図。

少し長くなりましたが後手は中央から反撃します。最初のテーマ図と違ってここでは後手が△4四歩~△4五歩の代わりに銀を活用できているため、攻め駒が飛車角銀桂とかなり手厚い布陣になっているんですね。

細かい手順の説明は省きますが、第6図は次に△8八角成~△5七銀とぶちこんだり、△5七桂成から金を取って△2五金と打つ狙いがあり、先手は居玉ではとても太刀打ちできません。(玉が7九にいても危ないですが)

△5四銀型は△6五銀からの軽い揺さぶりに留まらず、本格的な攻めの狙いも秘めた形なのです。

第2図に戻り、先手からの3つの攻めを検証しましたが後手が互角以上に戦えることが分かりました。
先手としては急いで攻めずに▲5八金右と陣形整備を進め、後手の出方を見ながら攻撃の機会を探るのがよいでしょう。非常に手が広い局面だと思います。

一つ言うとしたら、▲6六歩は少し突きづらい意味があって、△6五歩からの仕掛けを誘発します。先手としては▲7七銀▲7八金▲6七歩▲6八角型が好形で、後手銀を5六に出させず、歩を大量に渡さなければ後手からの攻めはそこまで恐れる必要がありません。

以上が今回の内容です。△4五歩型からの展開が正直あまりぱっとしなかったので少し違う形を検討しましたが、形勢はともかく自分の中で一つ一つの指し手に納得がいったのは良かったです。本の内容を鵜吞みにしないことは重要だと思います。

次回はテーマ3、先手の急戦策を見ていきます。


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