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北海道物産展の裏技/おじぼっちの流儀

 おじぼっちはゴールデンウイークの前が忙しい。これを知っているだろうか。

 ゴールデンウイークは世の中の真っ当な人たちのためにある大型連休だ。家庭を持ち、週5日や6日きちんと仕事しているような人たちが、パパママ揃って子供たちと遊んだり、夫妻揃ってバカンスへ出かけたり、楽しく過ごす。多数派という名の、真っ当な人たちのために黄金週間はある。

 その分、この期間は旅行代金やホテル代金もべらぼうに高く、観光地やアミューズメントパークは昼飯どきのサル山のようにごった返す。耳の大きなネズミが出迎えてくれる千葉県の島では2時間3時間の行列ができる。
 だから、時間の自由が利くフリー業者や、孤独を生業にしている者たちにとっては、コストパフォーマンスが悪く、わざわざ出かけたくない期間になる。

 旅行代金が安いのは、旅行代金が高い期間の直前と直後である。
 楽しい場所が最も混雑しないのは、最も混雑する時期の直前と直後である。
 時間の自由が利くフリー業者や、孤独を生業にしている者たちは、ゴールデンウイークがやってくる直前に行動が活発化して、あちこちへと動く。

 ちょっと高齢者寄りの題材として、百貨店の催事を例に取ろう。多くの有名デパートはゴールデンウイークにぶつけて、集客のためのイベントを開催する。最近の流行は「北海道物産展」だ。
 昔からのおなじみの催事ではあるが、その集客力が知れ渡り、今や全国のデパートでゴールデンウイークに、力の入った北海道物産展が開かれている。長い冬を終え、美味しい春の食べ物がたくさん出回る時期にもあたる。

 例えば春の北海道物産展なら、ぜひ北海道の極太アスパラを賞味して欲しいが、特にホワイトアスパラガスは旬が短くて、本当に甘みがあっておいしいのは4月下旬から5月中旬の出荷分に限られるという。GWの北海道物産展がまさに旬なのだ。
 今年は3月に産地が冷え込んだ影響で、例年より出荷が遅く、4月の北海道物産展でもホワイトアスパラガスが間に合ったところと、間に合わなかったところがあった。桜の開花日で春の早さや遅さを知るのと同じ、ホワイトアスパラが間に合うかどうかで北海道の産地情報もわかる。海産物は冷凍できるが、農作物は冷凍できない。なんの話だ。

 これらのイベント、きっかりGWに合わせて始まるかといえばそんなことはなく、たいていGWの3日くらい前から始まる。ぼっち民にとっては、人でごった返す前のこの平日の3日間が狙い時、動き時だ。テレビのニュースが北海道物産展を特集した後では、もう激混みは避けられず、その前に動かなくてはならない。

 そこで今回はこれら北海道物産展など、百貨店催事の効率の良い立ち回り方を伝授しよう。
 ……と思ったけど、やめた。立ち回りなんて人それぞれ違う。北海道展に行くなら、何よりもイートインに出店しているラーメンを食べたい人もいれば、ウニ・イクラ・カニ・アワビなどの海産物にしか興味のない人もいる。

 六花亭、ルタオ、ロイズなど、名店を選び放題の洋菓子にしても、自分であれこれ食べ比べた末にお気に入りの店や商品を見つけていくのが正道であり、それ以外の近道はない。(それにしても数年前まで大行列を誇ったルタオのチーズケーキが、今はいつ行っても空いている諸行無常)

 食材を乗っけただけに見える海鮮弁当も、あの店のウニはパサパサだけど、こっちの店はトロトロでミョウバンの匂いもないぞとか、卸業者の直営店は他の店より価格がお得っぽいぞとか、いろいろ食べ比べた末にわかる。

 ひとつ注意点として、店がたくさんありすぎて、自分の買ったものが何という店の商品だったか、後日わからなくなりがちなので、おいしかったヤツはちゃんとメモや伝票を残しておき、次回以降の参考資料にしたい。
 効率の良い立ち回りを身につけるには、何度も通うことだ。って、普通の社会人はデパートの物産展に何度も通わねえよ!

 この北海道物産展、いろいろネットで調べていたら、哀愁を感じるニュースも見つけた。岐阜のタカシマヤが今年の7月に閉店することが決まっていて、その〝最後の北海道物産展〟が地元民たちに惜しまれながら盛り上がっているのだという。

 百貨店の催事は本来、将来を見据えた集客イベントだ。北海道物産展はその中でも、人手もお金もかかる目玉企画のはずである。数カ月後に終わりの決まっている老舗のデパートが、それにも関わらず、それだからこそ、毎年続けてきたイベントをいつも以上の規模で開催する。
 そしてそれが、さようなら感謝セールのような趣を持って地元民に受け入れられている。なんか、いい話じゃないか!

 実状は想像しかできないが、岐阜のタカシマヤまで駆けつけたくなった。海なし県の北海道展はまたひと味ちがうのだろうか。「明日、世界が滅びるとしても私はタネをまく」。そんな言葉を思い出した。

 逆に、いかにも後追い企画の、流行りに乗ってみました的な北海道物産展も見受けられる。
 某百貨店の売りは「催事に初出店の店がたくさんあります!」というものだった。いやいやいや、それはあんたのところが後発で、有名なお店を集められなかったから仕方なく初出店が多くなっただけじゃん、というツッコミが誰にも浮かぶ。風俗嬢でたとえると……やめなさい。

 私くらいの物産展マニアになると、出店する店の情報はほぼすべて、食べログなどを駆使して地元の評判をあらかじめ調べた上でのぞむが、そうやって調べても、こういう後発の北海道展に出店しているのは少々点数の落ちる店が多い。
 今やどの北海道展も店の奪い合いだから、おいしい店、評判の店はとっくに声がかかっている。催事初出店は売りにならないのだ。
 ただし、だからハズレとは言わない。まだ見つかっていなかった逸材や、ドラフト下位指名の選手からも当たりはたくさん出ている。

 最後に身も蓋もない裏技を伝授しよう。

 北海道物産展に何度も通っていると、ふと気付く。
「あれ、この海鮮弁当3000円するけど、もしかして地下の海鮮売り場へ行けばもっと安く同じレベルのものが買えるんじゃないの?」と。

 これは気付いていても、言っちゃいけないヤツだ。物産展には物産展価格があり、通常の価格より少々お高い。デパ地下のほうが安い。
 それも当然である。出店している店の中には、地元の店を休みにしてまで従業員が東京へ出張してくる例もある。旅費も出張費もかかるだろう。そもそも物産展はお祭りなので、気持ちがアガる分のお祭りプレミアムが価格に上乗せされるのは仕方ないのだ。
 だから私も、これはわざわざ東京まで出張してくれている人たちへのお布施なのだと割り切り、物産展価格は気にしないことに決めている。安さばかり優先する人間は、一生、うまいものに出会えずに終わる。

 と言いつつ、今週、東武池袋の大北海道展へ行くつもりで出かけたのに、その前にデパ地下へ寄ってしまい、海鮮売り場で買い込んだ品の数々。

 その辺のスーパーとはレベルが違うお寿司10貫セット+ぶりっぶりの有頭赤エビ寿司+富山産の生ホタルイカ。これ全部合わせて2500円くらい。
 北海道展の海鮮弁当1個分の価格で買えてしまい、もう海の幸はこれで良しの気分になってしまった。東武池袋のデパ地下は海産物のレベルが高い。

 教訓。北海道物産展に行きすぎると、通常店舗のありがたみと、お祭り催事の盛り盛り価格を再認識する。
 まあ、そう言いながら結局、北海道展でも追加の海鮮弁当を買っちゃうんだけどね。


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