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アンデルセンと歩くデンマーク文学の歴史

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今さらアンデルセンの話なんて……と思われる向きは少なくないのではないでしょうか。いったい私たちは、次のようなお定まりの書き出しを何度目にしたことでしょう。
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#コペンハーゲン

第2回「アラディンはデンマーク人」

14歳にして俳優を志して故郷を出たアンデルセンは、1819年9月6日に「私の世界都市(min Verdens Stad)」コペンハーゲンの西門をくぐりました。ローカルな牧歌的世界から抜け出て近代ヨーロッパの玄関口に立ったこの少年の目に、ただならぬ光景が飛び込んできます。街じゅうにあふれた群衆が、ユダヤ人の営む商店を破壊する、騒然たる有り様。「ユダヤ闘争(Jødefejden)」と呼ばれる排他的運動が高潮していた頃で、アンデルセン到着の前晩にも暴動が起こったばかりでした。180