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アンデルセンと歩くデンマーク文学の歴史

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今さらアンデルセンの話なんて……と思われる向きは少なくないのではないでしょうか。いったい私たちは、次のようなお定まりの書き出しを何度目にしたことでしょう。
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#教育

第5回「テクノロジーの魔法」

 いきなり時代が飛びますが、世界にその名を知られた物理学者アルバート・アインシュタイン(Albert Einstein 1879 – 1955)は、ナチスの台頭を危ぶんで1932年に合衆国への移住を決しました。ドイツに残してきた息子宛ての12月23日の手紙には、科学的問題への熟察が綴られるとともに、最近読んだ本についても触れられています。スピノザの生涯などを含むそれらの本の中に、アンデルセンの童話も含まれていました。とりわけ印象に残ったのは、中国を舞台に皇帝と小夜啼鳥と機械仕

第4回「沼地に生えたオレンジの樹」

◆『即興詩人』はコペンハーゲンのライツェル社から刊行され、ドイツ語訳は複数回にわたり版を重ねました。もっともアンデルセンは、ドイツ語訳者ラウリツ・クルーセ(Lauritz Kruse 1778-1839)がつけた『あるイタリア詩人の青春生活と夢 Jugendleben und Träume eines Italienischen Dichters』という題には不満を呈したようですが。『即興詩人』は、以後10年ほどの間にスウェーデン語、英語(イギリス、アメリカ合衆国)、ロシア語