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刃物を手に入れた 2024/5/3


起きるとすでに11時になっていて、焦って洗濯や身支度を済ませ、昨日のお味噌汁をあたためて飲む。ゴールデンウイーク中にしたいと思っていたことリストを眺めて、どれも別にやりたくないなーと外を見やると抜群に晴天で、もう散歩しかしたくないぜ、と帽子をかぶって自宅を出た。

目的地やルートを決めず、人気が少ない道を選んで進む。半袖Tシャツに薄い長そでのシャツを羽織ってスタスタ歩いても気持ちよい位の、ちょうど良い空気だ。「1年中この季節ならいいのに」的な。

世間の人々は皆、遠出をしているのだろうか。道沿いのお店はシャッターをおろしている所も多いし、いつもより人通りが少ない気がする。そういう道を選んでいるのだが。それにしたってシンとしている。街路樹の葉が鮮やかで瑞々しく、植え込みのツツジが最盛期を過ぎ、紫陽花にはつぼみが付き始めている。季節、進んでるぜ。


しばらく進んで突き当たった大通りは長堀通だった。谷町方面に進んでいたらしい。これまでの静かな路地から急に現実感あふれた大きな道路に戻って、同時にイヤホンで聴いていたアルバムが終わった。目の前には純華楼がある。お導きのようなタイミングだ、入るっきゃねえだろう。

純華楼には何年かぶりの訪問となったが、変わらず店員さんは愛想なく空いてる席を指さす。座る。瓶ビールと餃子一人前。周りは大勢の家族連れが多く、休日の趣だ。あっという間に出てきた餃子を食べると、びっくりするほどおいしい。あー、実家の餃子が世界一だと思っているけど、その次に純華楼の餃子が好きだ!興が乗り、春巻きも頼む。食べすぎかな。いけるよね。

「幸せな昼下がり」

春巻きもペロリと食べ切り、満腹で満ち足りた気持ちで外に出ると、知らない道を心向くまま進むようなハングリー精神はなくなっていた。自宅方面に戻りつつ、落ち着いてお茶でもしようっと。上本町まで歩く。

喫茶店でコーヒーを飲んでからドラッグストアと本屋をのぞいて自宅に戻ることにした。鶴橋駅前のマツキヨに寄ろうと高架下をくぐり細い路地へ入る。すると、焼き肉屋の前にリヤカー形式の研屋さんがいるのを発見した。
!!!
わたしは鶴橋に住んで以来ずーっと、研屋さんがどこかにいないかなと探していたのだ。興奮し、何時までこの場所にいるのか聞いて、買い物を済ませ自宅から包丁をタオルにくるみ持ち出しすぐさま向かう。研ぎ、お願いします!!!

お願いした包丁は数年前にデパートで購入したステンレスの三徳だ。一応奮発して買った木屋のものなので期待していたのだが、あまり切れがよくないのでガックリしながら使い続けていた。小さいシャープナーでだましだまし、しかし一度プロに研いでもらうとおそらく違うだろうと、研ぎに出せる場所を探していたというわけだ。

包丁を渡すと「新しいけど、これ切れないやろ」と研屋さん。さすがだなあ。そうなんです。「これは一度研ぐと切れるようになると思うで。大丈夫や。」あー、良かった。手際よく3種の砥石を使い分けながら石に寝かせた刃を前後させるのを眺めていると、音や熟練の動きが気持ち良い。目の前で仕事をしてくれる、この出張研屋の形式が好きだ。

東京の実家は田舎で下町で、近所に定期的に研屋さんが来ていた。金物屋さんも数軒あり、研ぎ場所に困っていなかったのだ。それが関西に来た途端、都会に住んだ。シティには研屋さんが全然いない……と愕然としていた。量販店に持って行くと、研ぎ終わるまで1か月、と言われる。それはちょっと。

「お姉ちゃん、どこの人?」と聞かれ東京の足立区だと言うと、「あのあたりは研屋けっこういるやろ」娘さんも東京の東部にいるそう。事情をよくご存じだった。この道30年になることや、メディアで取り上げてもらった時のことなど、仕事の手を止めず笑顔で色々話してくださった。

仕上がった包丁は、ステンレスの量産品とは思えない佇まいに変わっていた。すごい。しかしその場は高架下で暗い。自宅に帰ってしっかり刃を見ます、と支払いを済ませて御礼を言った。この包丁ははじめての研ぎになるので1,000円。

「東京の人は僕らに使う言葉も違うんやねえ」と笑っていた。言葉ですぐバレるんですよね、関西人じゃないって。と笑って伝えた。けど、きっとこの言葉にはいろいろな意味が含まれているのだろう。きっと
研いでもらっている間中、道行く人の珍しいものを見るような疑問の視線を強く感じていた。研屋さんは手元が黒っぽいし、路上で座り込むスタイルでやっている人もいる。好意的に見ない人もいるだろう。しかし、どうしてこの営業スタイルなのだろうか。いつか調べてみたい。

改めて家の台所で見ると、ステンレスの清らかな反射が、ぬらりとした発光に変わっていた。包丁っていうか、刃物だ。ちょっと怖いくらいだ。

写真で見せきれないのがざんねん

しかし最近あまり食材を買い足していない。その夜はかんたんなごはんで済ませた。切ったのはワカメだけ。戻した塩蔵のワカメに刃を当てると、怖いほどにスパリと身を二つに分ける。

けど自分が食材だったら、切れないノコギリでぎこぎこと刻まれるよりも、研ぎ澄まされた日本刀でスパッと行って欲しい。あの、切腹の後の介錯のように。

冷蔵庫に残っていたもの使い切り祭。ぶりを焼いて瓶詰のトマトソースを使い切り、ブロッコリーも玉ねぎソースも、もやしも卵も食べ切った。


今日のいい看板

美容院の料金表のネーミングがイケてた。

おしゃれのごあんない




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