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女マフィアのダブルボーダー

    2017年5月。コンケンのカラオケ店「クレオパトラ」勤務のプリヤウ、アーン、そしてジェーは、後に何者かに生きながらノコギリで刻まれ殺害された被害者エームさんと前述のカラオケ店でホステスとして同僚だった。しかしこの「クレオパトラ」はホステス全員が麻薬組織のメンバー。連れ出した客にホテルでヤーバーなど麻薬を売るのを常としていた。
 アウトローには男女問わずバイセクシャルが多い。刑務所など特殊な場所で生き延びやすいから自然とそうなるのかもしれない。日本でも硬派な兄貴風の不良が実はオネエだったりする。ここ数年LGBTの権利擁護、そして彼等とリベラルの連帯が盛んになっているが、その点アウトローの世界は肉体的な繋がりが深い分カタギの世界より相互理解が進んでいるのかもしれない。

 それは「女グレ」の世界も同じ。エームさんは同性愛者で、プリヤウは元恋人だった。エームさんの母親がそれを嫌って別れさせ、普通の男性と結婚させたものの、その後もプリヤウとその仲間と縁が切れず、エームさんはその夫と度々口論になっていた。エームさんは同容疑者を含む犯行グループが麻薬をやっている場所に警官を連れて来たことがあり、それが犯行の直接の原因とされている。

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※タイメディアに公開された犯行現場。画像枠内左がプリヤウ。


 また、プリヤウはホラー映画のキャラであるチャッキーのファンで、誰かを切断したいという願望を抱えたサディストだった。

「あの女、殺していいですか」12歳の時から武闘派の女ヤンキーとして地元コンケンで名を知られ、当時24歳のプリヤウは直属のボスにお伺いを立てた。裏切者が出ればタチレクとバンコクを繋ぐ麻薬搬送ルートの中継点であるコンケンの組織が世に知られてしまう。
 エームさんの行為は組織に対する裏切り。プリヤウがやらなくても誰かがエームさんを殺しただろう。取引のある台湾の組織(竹聯幇という説あり)にも顔が立たない。ヤーバーの製造法が台湾から輸入された経緯については下記リンク「ヤーバーと仁義なき米中貿易戦争」

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