【神奈川のこと3】浜スタ道中(後編)

京浜東北線が大船を出発しましたが、ここからが長旅です。

わずか25分ですが、無防備でいると、とてつもなく長く感じてしまいます。

少しでも短く感じるために、まず、9つの駅を3つに分解します。

一つ目は、本郷台・港南台・洋光台の「台3駅」。

二つ目は、新杉田・磯子・根岸。これらは幼少時代に住んだことがあり、そして今でも親戚が暮らしている「馴染みの3駅」。

三つ目は、山手・石川町・関内の「ラストスパート3駅」。

こうでもしないと気が狂ってしまうほど長く感じます。

最初の「台3駅」が意外に長く感じますが、「勢い」でやり過ごします。

「馴染みの3駅」は、外の景色を見ながら「懐かしさ」を覚えつつやり過ごします。

途中駅で、ベイスターズのユニフォームを着た夫婦や、横浜高校のキャップを被った親子が乗ってくると「おっ?一緒じゃん!」と嬉しくなりますが、表情に出さないように平静を装います。

根岸を越えてしまえば、ラストスパートの3駅は、あっと言う間です。

最も興奮する瞬間は、石川町の駅を出て関内駅に向かう途中、進行方向右側に見えてくる横浜スタジアムです。いきなり巨大なスタジアムの外観が目に飛び込んできます。観客席の鋭角に伸びる壁、球場全体を取り囲む曲線、その上にそびえる照明塔。思わず窓際に駆け寄りたくなります。

球場の周囲に人だかりを見つけると、なぜか焦燥感にかられます。

球場の入口からチラッ、チラッと見える中の様子が、興奮を駆り立てます。

できる限り、はやる自分を抑えながら、関内駅の改札を出ます。走り出したくなりますが、歩行者用信号が点滅していれば、あえて止まり、深呼吸します。交通整理の警備員が拡声器を使って事務的に注意を呼び掛けています。その声が更に興奮を駆り立てます。

スタジアムの敷地内「横浜公園」の中に入ると、聴き慣れたウグイス嬢の声が漏れ聞こえてきます。速足になる自分を抑えながら、然るべきゲートを探し当て、もぎりの兄ちゃんに「こんにちは!」とあいさつしてからいざ、場内へ。

観客席に出るあの瞬間。暗がりから輝く太陽の下へ出る瞬間。まるで、母親の胎内から出てくるような恍惚感と興奮が身を包みます。鼻血が出そうになります。

興奮で頭が回らないので、できる限り係員にチケットを見せて席の場所を尋ねます。

「席に着いたら、即刻ビール」なんて野暮なことはしません。

まずは、球場全体をくまなく見渡して、横浜スタジアムを全身で感じ、鼓動の波長がスタジアムと同調するのを待ちます。

完全に同調ができたら、まず最初に、崎陽軒のシウマイ弁当の売り子の兄ちゃんを探します。ビールの売り子よりはるかに少ないので、シウマイ弁当確保が断然、先決となります。

首尾よくシウマイ弁当を買うことができてから、ビールの売り子さんを探します。可愛い女の子という野暮な選択基準は、この聖地では用いません。私の基準は、この2つ。「できるだけサッポロ」そして、「輝いている」ことです。

売り子さんの中には、「輝いている」子がいます。たくさんいる売り子の中で、ひときわ輝きを放っている子を見つけて、声をかけるようにします。

ビールが買えたら、できるだけきれいにシウマイ弁当の包装を解き、いただきます。これで、身も心もスタジアムと一体化するのです。

尚、高校野球を観戦するときには、お酒は飲まないようにしています。

浜スタ独特のチャイムが鳴り、ウグイス嬢のアナウンスが響きます。

幸せを感じます。

さあ、これから、ゲームよりも好きな「シートノック」が始まります。

プロ野球にしても、高校野球にしても、このシートノックを見ることがたまらなく好きです。

それでは、ナイスゲームを!



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