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常民の声を求めて〜ビッキンダーズ事始め〜

常民一座ビッキンダーズ座長の佐藤拓です。
はじめてnoteに投稿いたします。

この一座を立ち上げて5年、我々がどういった経緯で集まり、何を目指し、どんな活動をしてきたかを知っておいていただきたいと思い、ここに筆を執ることにいたしました。

座名の由来

「常民一座ビッキンダーズ」とはおかしな名前ですが、名付け親は座長の私です。

日本の民謡、特に、無名の人々によって日々の生活の中で歌われてきた唄を愛し、それを現代においても魅力的に響くように歌いたい、との思いで結成しました。

この「無名の人々」を総称するものとして、民俗学者・柳田國男が用いた「常民」という言葉を借用しました。
柳田にとっての「常民」は、移動狩猟民や山林の民に対して田畑をもって定住する農耕民のことを指していたようなのですが、我々は拡大解釈をして「ありふれた生活をする市井の人々」のすべてを包括してとらえています。
ですから農耕民も、漁民も、マタギや木こりも、時には都市部にすむ町人ですらも「常民」のくくりに入れてしまっているし、現代においては働いて対価を得る暮らしをしている人々すべてをこの言葉に取り込んじゃいたいとも思っています。

要は大概の人々が「常民」だと言ってしまってるんですね(笑)。

ビッキンダーズ”という言葉は、一座が結成当初から取り組んでいる間宮芳生作曲『日本民謡集』の第一曲「さそり節」(岩手県民謡)の歌詞から取られました。

雨の降るとき ナァ
よし湿地(やじ)通たれば
ビッキンダ 手ぶりして
せきはねた サンサヤ

これは岩手の方言で「カエルが」という意味です。私も岩手出身ですが、よくなじみのある言葉遣いです。

ビッキンダーズのロゴはかわいいカエルちゃん

で、この言葉に戦隊モノみたいに「~ズ」をつけて「ビッキンダーズ」となったのです。どうです、絶妙にダサかわいいネーミングでしょう。

座員たち


一座は三人の歌い手と一人の楽器奏者からなります。

  • 佐藤 拓(うた)

  • 田村 幸代(うた)

  • 日下 麻彩(うた)

  • 岡野 勇仁(ピアノ)

歌の三人は2011年に合唱の現場で知り合っています。座長以外の二人はまだ芸大の学生でした。

座長の私が日本の民謡に根ざした歌の活動を主宰したい、と考え出したのは2015年ごろ。しかし「歌が上手い」「声がいい」というだけでは足りなくて、同じ目線で日本の民謡文化を掘り下げていける探求心の持ち主をずっと探していました。

ちょうどその頃か、田村と日下の二人がデュオリサイタルを開き、そのプログラムの中に間宮芳生の『日本民謡集』があると聞きつけました。この二人、民謡に興味があるようだ…。

2016年11月、日下の出演するライブ(チャーリー高橋まつりというイベント)を聴きに吉祥寺マンダラⅡに行くと、そこには田村の姿も。いろんな刺激を受けたライブで、やはり何かをおっぱじめたいと思っていた私は、その帰りの道すがら二人にグループ結成の誘いをしたのでした。

初会合は2016年のクリスマスイブに新宿の「田村家」という店。三人ともこんな日に暇だったんですね(笑)。

ピアニストの岡野さんは上記の吉祥寺のライブにもいらっしゃり、変幻自在のピアニカ捌きをみて惚れ惚れ。結成当初から伴奏をお願いしていました。

間宮芳生がピアノに込めた様々な仕掛けや古今の音楽の影響をスパッと見抜き、どんな難曲もすらすらサラリと弾いている(ように見える)、絶対的信頼を置く演奏家です。

何を歌うの?

現在のところビッキンダーズのレパートリーの軸は二つ。

一つは間宮芳生作曲の『日本民謡集』
独唱とピアノのために書かれたこの曲集は、歌の旋律はほぼ元の民謡そのままで、ピアノに高度な技巧や仕掛けがたくさん散りばめられています。
五線譜に書かれたクラシックの作曲家による作品ですが、その実態は民俗的なものとクラシックとが激しくせめぎ合う、実験音楽のようなアクロバットさ。

一座結成当初から、この曲集を三人全員が全曲歌うまで続ける「まみやまみれ」というシリーズに取り組んでおり、最近ようやく折り返しにきたところです。

もう一つは、かつて常民が日常生活の中で歌っていた仕事唄(労作民謡)、伝統芸能・神事芸能の唄を、ほぼそのまま歌ってみるもの。
『日本民謡大観』や『日本労作民謡集成』など、昭和初期から中期に採集された音源を聴き込み、それが歌われる環境や肉体の動きを真似たり再現したりして、自分の体から自ずと現れる声を発見する試みです。
真似ではあるが、コピーではなく再表現とでもいうべきか。試行錯誤しながら常民の「声」の在り方を探し求めています。

こちら活動はコロナ禍以降に本格化し、山や海に歌いに行ったり、ワークショップで体験を共有することに繋がっています。

活動の軌跡

  • 2017年12月
    「まみやまみれ」壱巡目
    於:喫茶茶会記(四谷三丁目)

  • 2018年4月
    「まみやまみれ」弐巡目
    於::名曲喫茶カデンツァ(本郷三丁目)

  • 2019年4月
    「まみやまみれ」参巡目
    於:香音里(神楽坂)

  • 2020年4月
    「まみやまみれ」四巡目(中止)

  • 2020年12月
    ビッキンダーズ山に唄う」リリース
    initium;auditorium

  • 2021年9月
    #わからないフェス出演
    ビッキンダーズ山を想う
    於:府中の森芸術劇場ウィーンホール

  • 2022年1月
    渋川アートリラ出演
    「上州うためぐり〜芸妓と常民と〜」
    於: 千明仁泉亭(伊香保温泉)
    芸妓衆つたの家と共演

  • 2022年3月
    ビッキンダーズ海に唄う」リリースinitium;auditorium

  • 2022年6月
    野外WS「ビッキンダーズとうたおう!」

  • 2022年9月
    屋内WS「第二回ビッキンダーズとうたおう!」

初のホール公演へ

2022年11月4日、ビッキンダースとしては初めて音楽専用ホールを借りての公演を行います。
コロナ禍初期に中止になってしまった「まみやまみれ」四巡目を、この2年半の間に大きく変わった我々の歌声と精神でもってもう一度取り組みたい。

今回は初の試みとして、つわもの歌手10名による合唱団「常民唱団ばっきゃーず」を結成して、間宮芳生の傑作『合唱のためのコンポジション第1番』に、ビッキンダーズらしいやり方で挑みます。

すでに稽古が始まっていますが、私の想像を超える大変に面白いものが出来上がる予感です。

どうぞどうぞ、ご笑覧くださいませ!

「野のうた はじまりの音楽」 ~帰ってきた「まみやまみれ」四巡目~
11月4日(金) 19:15開演(18:45開場)
大泉学園ゆめりあホール

チケット:一般 3500円 学生 3000円
チケットお申込み:https://forms.gle/cVNL9ADfQW46oreJ6

【プログラム】
間宮芳生:日本民謡集より
間宮芳生:合唱のためのコンポジション第一番
ほか

出演:常民一座ビッキンダーズ(佐藤拓、田村幸代、日下麻彩)
岡野勇仁(ピアノ)
常民唱団ばっきゃーず(合唱)


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