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定型詩について考えていたら

マンガも小説も省略の様々な形態だとすると、その省略の仕方に表現の個性が現われて作品になる。575,57577という型に言葉を省略する俳句や短歌のなどの定型詩について考えていると、繰り返しで平面を充填する絵画は定型絵画と言えるのではないかと気がついた。このような呼び方は初めてだ。この定型絵画も、まず、制限が前提にあって、そこが出発点になる。

自分で、一応制限のルールのようなものを決めている。ルールはいろいろ制作しながら、考えている。ついこの間作っていたのは、ハートの間に2人の女の子を見つける作品で、ハート作品は、その他に、ペンギンとかハトとかを制作している。ハートは同じ大きさであること。反転はOKという規制をかけている。その規制をすこしずつ溶かしていくと、絵の感じが微妙に変化してくるのが面白い。むしろ、規制することで形が出来上がるのではないか。不自由の中だからこそ、形を見つけることが出来るのかもしれない。そのような不自由の中の自由について考えていると、ジョセフ・コーネルの「箱」作品が思い浮かんできた。「箱」という、あえて、不自由な枠の中でお気に入りのものたちを配置した作品は魅力的だ。私も箱を買ってきて作ってみたい衝動にかられる。

ジョセフ・コーネル コラージュ・モンタジージュ 2019 3・23~6・16
 DIC川村記念美術館


ジョセフ・コーネル コラージュ・モンタジージュ 2019 3・23~6・16
DIC川村記念美術館

繰り返すことの絵画は、制限をかけているという点で、俳句や短歌に似ている。俳句や短歌になじみの深い日本人は、140字に制限されているツイッターも大好きだと思う。

この頃は、この繰り返し作品に、より絵画性を持ち込むにはどうしたらいいだろうかと考えている。枠の強調は必要だし、絵画性の念押し、手っ取り早いのが、最小単位にカットする方法だなあと考えている。

定型詩については、祖母の日記にある、祖父について詠んだ短歌を思い出して友人のSさんに話したことが考えるきっかけになった。母が、実家から祖母の毛筆日記を3冊借りてきた。祖母は”また戻しておいてね”と言っていたらしいけど、日記は返さずそのまま家にある。祖母も、母ももういないけれど、毛筆日記は大切においてある。
祖母の祖父についての短歌は調べると、8首あって、祖父のことを〈背の君〉と呼んでいる。〈背の君〉なんだなあと、早くに両親を亡くしたという祖母の祖父への思いが伝わって胸が温かくなる。

文章を書くにしても、絵を描くにしても、何かを表現したいという欲望がエンジンなので、それを失えば作品は出来上がらないし、残らない。書かれたものなど、表現されたものを見るとほんとに不思議な気がする。表現せずにはいられないもの、表現欲を駆り立てられるものには、不思議な力が宿っている。
もちろん、書くことに意味を見出だす人ばかりではなく、人それぞれの輪郭線の引き方がある。友人のkさんは3年日記を書いているというけれど、3年の輪郭線が一冊に纏まっているわけです。祖母の毛筆日記もそうだし、祖父についての短歌も、祖母にとっての大切な日常のアウトラインの引き方だったはずです。だから、"読んだら、返しておいてね”と言ったのです。

輪郭線の引き方については、以前読んだ千葉雅也さんの『別の仕方で ツイッターの哲学』の最後にある輪郭論が面白かったので心に残っています。

ツイッターの140文字以内というのは、短歌やフランスの12音節も、非意味的切断による固体化の「原器」であると言えるでしょう。これらの様々なフォーマット、決まり事は、私の「もっと」=欲望の過剰を諦めさせるものであり、精神分析の概念を使うならば「去勢」の装置である。

『別の仕方で ツイッター哲学』千葉哲也著 河出書房新社

「もっと」=欲望の過剰を諦めさせるという言葉に、まずくぎずけになり、さらに、去勢の装置いう言葉が詩の隣に配置されると、ますます言葉の印象がますます深まってくる。創作においての欲望の形態は、それぞれにあってそれをどうやってコントロールするか、交通整理するか、そのための装置だという考えに驚きました。

絵を描いている時、特に、シルクの原稿を作っている時、これでもかというほどの、その「もっと」の過剰に呆れることがあります。大抵は、その「もっと」の過剰に押しつぶされて失敗することがほとんどなのです。表現欲がないと作品は出来ないけれど、たびたび、その暴走する表現欲に作品が翻弄され台無しになることがあります。それで、「もっと」を諦める方法としての「去勢装置」という言葉に、視界が拡がり、575,やら57577の秘密も溶けていくような気がしました。


ハートの中/2人の女の子  2023


   葉っぱの中/ツインテールの女の子 2023


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