見出し画像

ボクサー神話の預言者 - HP2 Enduro

TEST RIDE BMW HP2
Text / HARUKI Hisashi
Rider / IKEDA Tadao
協力 / TANAKA Shoichi

2007年の記事の再編集です


トロフィモデルの再来か

 エンデューロ欧州選手権、インターナショナルシックスデイズトライアル(前者は後の世界選手権、後者はISDEとなる)に出場していたBMWのエンデューロマシン「トロフィモデル」は、1980年になって現実的なブラッシュアップを受けたプロダクト、R80G/Sとしてカタログに登場。その後、GSはBMWモトラードの一方のフラッグシップとしての役割を担い、また狭いフィールドに飽き足らないライダーの熱狂的な支持を受けて進化を続けてきた。

 1988年には高速走行に耐えるシャーシ、ドライブトレーンを持ったR80GSにモデルチェンジ、排気量を1000ccとして、パワーも10馬力上乗せしたR100GSも登場。1984~85年ガストン・ライエによるパリダカ連覇のイメージも重なって、"GS"は神話的なモーターサイクルになったといっても言い過ぎではない。また、GSにまたがったたくさんのライダーが世界中を駆け巡ることそのものが、GSのなにより効果的なプロモーションにもなってきた。その中でも、Helge PedersenとR80GSによる、77カ国、40万キロ、10年以上に渡った大旅行は圧巻だが、最近も、R1150GSに乗った二人のハリウッドスターによるユーラシア~アメリカ大陸の旅の記録が多くのメディアで紹介されたように、地球的な規模のフィールド(ゲレンデ)を相手にした存在として、数多あるモーターサイクルの中でまったく別格的な地位を築き上げてきた。

 当然、プロダクトとしての進化も、地球的、社会的環境の変化に呼応した正常なものだ。80/100系のいわゆるエアヘッド(空冷式)から、1100系(1150~1200へと進化)オイルヘッド(半油冷式)への進化は、タイミングとしては少々のんびりしすぎていた(といえなくなくもないBMWらしいといえばそのとおりなのだが)。高速道路を中心とした交通の流れは、この時期、完全にエアヘッドの速度域を過去のものにしていたからだ。
 R65をベースとしたエンデューロマシンの「トロフィモデル」をその源流に持つGSは、そうしてオイルヘッドの時代を迎える。高速道路を時速100マイル超で何時間も走り続けることができる性能。一方で、ダートバイク的キャラクターをスポイルされざるを得なかったのは当然のことだ。


リアビュー。シリンダーの張り出しが格好いい。サイドスタンドのみの装備。ちなみに、スタンドには小さいサンドシューがついているのだが、流石はBMW、砂の上で十分に実用的だった。低重心なので、スタンドにかかる重量が小さいためもあるのだろ


エアヘッドとHPN

 現代的なトランスポーテーションの環境に適合して、大きく重たくなっていくGSに対する反動は1997年のR80Basicの発売にも象徴された。すでに新型のオイルヘッドが登場しているなかでのエアヘッドの再発売は、懐古趣味とも言えないような陳腐さを感じさせもした。「工場に残っている部品で組み上げた在庫整理セール」とまで揶揄されたものだが、R80Basicそのものは、そんなひどいバイクではないし、事実、求められもした。ただひとつ確かなことは、それはやはり余韻に過ぎないということだ。しかしR80Basicが、フラットツインのパワーユニットをベースにした軽量なエンデューロモデルの、もっとも手軽で手頃なカタチであるということもまた一方の事実だった。各オーナーによって大切にあたためられている中古のR100GS、R80G/Sにも同様の意味がある。旧くはあるが、依然、その動力性能には、他には無く、もちろんオイルヘッドにも無い魅力があるということだ(その意味では単なるビンテージバイクではなく、スポーツバイクとして位置づけて良いのだと思う)。
 フラットツインの、エンデューロマシンとしての動力性能を最大限に引き出して、そのためには金に糸目をつけないユーザーに提供してきたのは、HPNだ。

 "HPN Motorradtechnik"。3人の創始者のそれぞれ頭文字を社名としたこの会社は、長年、BMWの開発分野の一翼としてアウトソースされているR&D部門だ。1981年ユベール・オリオールのパリダカ優勝マシン、そして1984~85年に連覇を成し遂げたガストン・ライエのマシン、また最近では2000年、2001年にジョン・デーコン、シリル・デプレらがライディングしたオイルヘッドR900GS-RRもまた、HPNの手になるもの('84~'85のパリダカマシンはBMW製で、フレームはメッサーシュットによるものだったという話もあるが、コンストラクションにHPNが重要な役割を果たしていたことは疑う余地が無い)。そのHPNが、事業のひとつとして行なっているのが、エアヘッドをベースとした、エンデューロライクな、完全なスポーツライディング用のマシン"HPN Sport"の製作・販売だ。

ここから先は

4,399字 / 8画像
1998年に創刊。世界のエンデューロ、ラリーのマニアックな情報をお届けしています。

BIGTANKマガジンは、年6回、偶数月に発行されるエンデューロとラリーの専門誌(印刷されたもの)です。このnoteでは、新号から主要な記…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?