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人間とテクノロジーの挑戦 - エンデューロ日記 No.32

ツインシリンダーエンジンでトップカテゴリーのオフロード競技に挑戦する。もちろんイロモノとしてではなく、あくまで真剣に勝利を目指す。その過程を通じて生み出されるものこそが、芸術の光だ。モータースポーツを経済活動としか認識できないものには理解できない世界がそこには存在する。

アプリリアVツイン。イタリアのモータースポーツ魂、その結晶は、エンデューロ世界選手権で活躍した後、舞台を南米に移す同時に、450cc規制が行われたダカールラリーで短い期間活躍し、さらなるスピード抑制のためにマルチシリンダーが禁止されたことで完全に姿を消すことになった。

Vツインエンジンを搭載したコンペティションモデルというのは、軽量コンパクトが至上命題のオフロード競技においては、それ自体がとても挑戦的なものだ。アプリリアはこのVツインで、スーパーモト世界選手権でタイトルを獲得。2008年には、エンデューロ世界選手権でも優勝ポイントを挙げる。ライダーの名はステェファン・メリマン。ニュージーランド生まれのオーストラリア人が、このマシンに栄光をもたらした。エンデューロ世界選手権に詳しい人であれば、彼を歴史に残るライダーの一人と数える人もいるだろう。

2000年から2004年の間に4度のエンデューロワールドタイトルを獲得。トライアルでもSSDTという6日間競技で上位入賞、ロードレースの経験もあるという…。欧州を中心として開催され、欧州のカルチャー、その土壌に根差すこの世界では、オセアニア出身というだけでかなりのハンデがある。それをものともせず、10年に渡ってEWCの頂点を走り続けたライダー。

だから、アプリリアのVツインが世界選手権で優勝した、と聞いても、「すごいなアプリリアは」とは正直思わず、「さすがはメリマンだ。どんなマシンでも乗りこなしてしまう」と思った。いや、多くの人がそう思っただろう。

写真は、彼が開発ライダーとなって、アプリリアが世界選手権に投入したファクトリーマシンのレプリカとして2009年に販売された「アプリリアRXV450ステェファン・メリマンレプリカ」。発売当時、幸運なオーナーのご厚意によって試乗する機会を得たのだった。

乗った瞬間に驚いた。Vツインの重さがない、確かにVツインらしい急激なトルク変動はあるけど、低回転ではものすごい粘り方をしてトラクションもすごい。苦手だろうと思ったトライアルのようなエクストリームセクションでも、思い通りにパワーを引き出せて、軽快に走れる。そして、面白い!! このVツインのエンデューロマシンにはスタンダード仕様があって、このレプリカに先行して発売され、日本ではいくらか売れていた。それにも試乗したことはあったが、それとはまったくの別物の仕上がり。こんなマシンができるんだなぁ。

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