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「アドベンチャー進化論」 大鶴義丹 - No.238より

 「ドゥカティワールドプレミア」にて、2021年12月10日 ・日本時間午前0時、最後の後出しジャンケンのごとく、ドカティから「デザートX」が発表された。以前より良い悪いを含めて噂が飛び交っていた。とくに2019年のEICMAでお披露目されたデザートXの開発車両のリアサスが、本格オフ的なものではなかったことが不安を呼んだ。どうせ、オンロード寄りになってしまうだろうなどと、悲観的なものも多々あった。しかし公開された動画を見る限り、CRFアフリカツインを四台乗り継いでいる私も唾を飲み込んだ。

「ここまでガチンコ系とは・・・」

 ドカのムルチやスクランブラーを走らせた経験も含めて、生粋のオンロードバイクメーカーが、どこまでオフロードに寄せてくるかは、私にも「疑念」があった。それはドカに対する偏見ではなく、マーケティングとして、ドカというブランドに大金を落とす層が、果たしてガチのオフロード行為にどれだけ触手を動かすかということへの「疑念」だ。

 本誌の読者のようなコア層には説明の必要もない話だが、大きなアドベンチャーバイクで本気で林道や脇道を走るのは、現実問題として簡単なことではない。安全管理が行き届いたサーキットで、ドカのパニガーレを速く楽しく走らせるのとは別角度のリスクがある。

 アドベンチャーバイクは、のんびりとした林道観光でもセローで走るのとは訳が違う。ちょっとした「立ちゴケ」一つが帰宅困難に結びつくこともある。ましてやソロで脇道遊びなどをすると、バミューダトライアングルのようなことになることも多々あるだろう。運転技術だけではなく、体格そのものが求められることもある。サーキットのように、全てをお金で解決できる「お遊戯」ではない。

 実際に私の周りでも、アドベンチャーバイクを本気で走らせているのは、エンデューロマシンと二台持ちのような連中ばかりだ。そんな現実を知っているゆえに、そんなジャンルに、ドカが本気で食い込んでくる理由が私には見当たらなかった。

 しかし公開された動画を見ると、私の「疑念」は揺らいだ。ディメンションもラリーマシン的な方向に強く寄せていた。値段も200万円と決して安くはないが、非現実的ではない数字だ。

 ハスクバーナの「ノルデン901」が、私見としては今の時点でのアドベンチャーバイクの在り方として「最右翼」だと思っていたが、そこにガッツリと寄せてきたという感じだ。何よりも、水冷リッターエンジンを積んでいながらも、その軽そうなルックスが素晴らしい。

 しかし発表された車重を見て、少しだけ落胆した。その細いルックスにも関わらず223キロという数値である。ちなみに私が乗るCRF1100Lアフリカツインのマニュアル仕様は226キロ。

 色々な場所で幾つかのアドベンチャーバイクを乗り回してきた経験の中で、最初はエンジンだのサスだの騒いでいたが、結局私のようなアマチュアレベルでは、「タイヤ」と「軽さ」が多くを解決するということを知った。

 「ノルデン901」は、「デザートX」の937ccエンジンと比べて、排気量が889ccと少ないこともあるが、乾燥204キロとかなり軽い。このあたりはやはりKTM王国のガチンコ度合いを感じる。

 この手のリッターエンジンを積むマシンにおいては、乾燥200キロを超えるか超えないが「分水嶺」だ。その分れ道において、マシンの走らせ方や、リアルな転倒トラブルの対処の方法が変わってくる。

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