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1-ON-1 Interview 石戸谷蓮 No.247より

目標に向かって進むこと

これはだめかもしれない。4度目の挑戦にしてフィニッシュゲートはますます遠く感じた。しかし困難であることはあきらめる理由にならない。石戸谷蓮に聞く、日本のオフロードシーンの現況と課題。そしてライダーとして挑戦を続ける意味。

Text : Hisashi Haruki
Images : Masanori Inagaki

18番が石戸谷。激しい先陣争いにも臆することがない


かつては根性論を好む
がむしゃらなライダーだった


初めてエルズベルグに挑戦したのが2018年でした。当初から5年計画での参戦ということを聞いていました。今年4回目なので、まだ道半ばですね。エルズベルグへの参戦に限らず、ある目標設定をして、それに向かって計画的に物事を進めていくタイプに見えます。自分自身ではどう思っていますか?

石戸谷 : そうだと思います。思い付きで行動したり、行き当たりばったり、ということはしないほうだと思います。レースに取り組む時も、そのヒートで勝てばいい、このテストで1番を取ればいい、ということではなくて、レース全体、または年間を通じてどうなるか、ということを考えるようにしています。でも、もともとはそうではなくて、どちらかというと根性論が大好きなタイプでした。とにかくがむしゃらにがんばって、自分を強くしていきたいって感じで…。車の免許を取るまで、コースまでバイクを押して往復して練習に行ってたり、高校生でバイト二つ掛け持ちして、早朝に練習、学校いってバイトして、夜遅くまで働いてまた早朝から練習して(笑)。それで速くなっていくんだと思っていました。でもやがて追い詰められて限界を感じるんです。モータースポーツはお金がかかる。それが充分にないと行き詰ってしまうんだって。それから真剣に考えるようになったんです。がむしゃらなだけではとてもやっていけない。好きなモータースポーツを続けるには、きちんと資金が集まる仕組みを作らなくてはならないって。

-- それから目標設定と、それに向かっていく計画性ができてくるんですね。そうした考え方とか、知識というのはどこから得てきたものなんでしょう。例えば、いろんな本を読んだりとか?

石戸谷 : 本はよく読みます。経営学や心理学の本が多いです。精神的に行き詰った時には仏教の本も読んだりします。これを読んだらいい、と勧めてくれる人がいるんです。子供の頃ですか? 小学校の頃は、図書室の本もよく読みました。「ズッコケ三人組」も好きでしたよ。本は、時間を作って読むようにしています。


クロスミッション

-- レース、イベントの運営団体としてのクロスミッションを立ち上げたのはエルズベルグの参戦開始とほぼ同時でした。この二つには関連があるんでしょうか。

石戸谷 : 明確にあります。まず、エルズベルグへの参戦は完走という目標を持って数年かけた取り組みにしなければならないと思っていました。1度だけ参戦して思い出作りをする、というようなものではなくて、モータースポーツとして取り組みたいんです。そのためには、参戦コストを抑えることも大事ですが、選手自身が資金を作り出せる環境が必要だと考えたんです。これはぼくに限らず、モータースポーツに取り組む選手、全員に共通する課題だと思っています。クロスミッションは、ぼく自身がライダーとして活動しながら、走る場所、走る機会を提供して、活動資金を得ていくためのビジネスモデルを作るためのものでした。

-- その活動は成功しつつありますか?

石戸谷 : ある部分は成功してると思いますし、そうでもない部分もあります。ただ、以前はライダーの目線でしか見えていなかったものが、レースやイベント運営をすることで、日本のオフロードスポーツが抱えている様々な問題が見えてくるようになり、問題意識も持てるようになりました。主催、運営するひとたちの高齢化もそうだし、レース運営がほとんどボランタリーな関りに支えられていて、持続性に乏しいということも見えてきました。そうしたことをひとつひとつ解決して、持続可能なものに変えていきたいと思っています。

-- ケゴンベルグでは、地元神奈川の小学校に呼び掛けて、子供たちをレース会場に招いたり、バイクに触れる機会を作るなど、コミュニティを巻き込んだ普及活動も行っていますね。こうした取組もクロスミッションの使命ですか?

石戸谷 : 特にケゴンベルグに力を入れているのは、ロケーションとしてポテンシャルが高いからです。都市からアクセスが良くてレース会場としての規模が大きい。そういう場所ってなかなかないですから。オフロードイベントは、本当はこうあるべきだろう、ということ。例えば地域の人たちに来てもらったり、バイクを知らない人がバイクの魅力に触れる機会。来てくれた人ががっかりしないホスピタリティとか。そういう投資をして、きっと効果がある場所だということです。投資が多いので、収支はとても厳しいイベントなんですけど、まずは知ってもらうことが必要だと思っています。
 今、コロナが収束して、ソロキャンプに象徴されるようなアウトドアのブームが急速に下火になってきています。これは旅行とか、バイクの売上もそうで、コロナでたまっていたストレスがある程度放出されて、消費が急激に落ちていく動きです。それに人口減少も続いていくわけですから、これから、今のような熱量を持ったライダーの数というのはどんどん減少していくんです。
 そこで重要なのが、コアなライダーの層ではなく、少し乗る人、乗らない人、観客となりうる人たちを少しでも取り込んでいくことだと思います。


「ヒルクライムよりもキャンバーでのスピードが今のハードエンデューロのカギ」と話す


ライダーだけのもの
それでは継続できない

-- そのためには何が必要ですか?

石戸谷 : 機会の提供、体験の提供だと思います。これまでのオフロードのイベント、エンデューロは特にそうですが、完全に参加型のイベントですよね。参加する人のためだけに出来ている。それが悪いわけではなく、それを追求していく方法もあると思いますが、持続可能性のためには、いかに乗らない人を巻き込んでいくかが大切だと思います。
 例えばエルズベルグも、競技としてはアマチュアを中心に2000人近くか集まる参加型のイベントですけど、実は、観客がけっこう多い。会場が広いので目立たないですが、4日間×1日平均1万人以上が、90ユーロのチケットを購入しているんです。しかも、レースの映像はスタートからゴールまでライブ配信されていて、世界中のファンが注目している。その存在感はオフロードレースの中ではダントツですが、そこまでいかなくても、レースは走る人だけではなくて、来場する人、見る人がみんなで楽しむものにしていく必要があると思います。

-- クロスミッションはラリーイベントも開催していますが、やはりハードエンデューロのイメージが強いですね。ここにきて、ハードエンデューロというものが日本では飽きられ始めているように感じませんか?

石戸谷 : クロスミッションがハードエンデューロに取り組んできたのは、競技として多くの人にやりがいを感じてもらえるものである、ということと、エルズベルグに象徴されるように、バイクのことを知らない人へのアピール力があるジャンルだからです。ハードエンデューロが飽きられてきた、というよりも、ぼくは走る場所に飽きる人が出てきた、ということではないかと思います。「ハードエンデューロ」と言われるようになってから、ある程度時間が経過しましたから、長くやっている人は、どこのレースにいっても、走り慣れた場所になってしまった。
 未知のロケーションを走る、攻略するというのはオフロードバイクの根本的な魅力だと思います。だから走る場所は常に探していく必要があるし、それも楽しみのひとつだと考えるべきだと思っています。
 それから、ハードエンデューロに取り組む人にはいろんな層のライダーがいますが、競技として続けていくには、自分のポジションが明確になる仕組みも必要だと思います。ライセンス制や、クラス区分によって、自分がどこに位置づけられているか、一種のアイデンティティの提供が必要になると思います。

4年間、ライダーとして成長し、戦略も身に着けてきた。でもフィニッシュはますます遠い、と話す石戸谷蓮


成長はしている
でも世界との差は拡大する

-- ライダーとしての話に戻ります。今年、4度目の挑戦となったエルズベルグですが、またフィニッシュには届きませんでした。レースを終えてしばらく経過しましたが、振り返ってどう思っていますか?

石戸谷 : いやー、ますますフィニッシュが遠く感じています。スキルも体力も向上しているし、ライダーとして成長していると思っていますが、それでもますます遠い。最初の頃は、いろんなことがうまく?み合えば完走できる、と、後から考えると盛大な勘違いをしていたんですが、今は、根本的な何かを変えないと、永遠に完走できないと感じています。
 1年目、2年目は要領もまだよくわかっていないくて、移動や食事、睡眠などでベストなコンディションを作ることができなかった。それも3回目、4回目では学習して改善し、ベストな状態スタートラインに立つことができるようになった。到達地点(チェックポイント)も前進していますが、まだまだ遠いなぁー、って思います。

-- 具体的にはどんなところでそれを感じるんですか?

石戸谷 : 競技全体のレベルが上がっている。ライダーはどんどんスピードが上がっていて、層も厚くなっている。だから自分自身は成長していても、ますます引き離されているんです。ハードエンデューロは、ヨーロッパでは、ぼくたちが想像している以上にメジャーな種目になっていて、その証拠が、若手が増えてきたことですね。以前は、トップ10ぐらいにプロのハードエンデューロ専門家がいて、その下には普通のエンデューロのトップライダーやゲスト、そしてあとはアマチュアって感じだった。でも、今は、各国のディーラーチームぐらいの規模の中堅グループが増えてきて、そこにも若手が多い。若手が多いということは、シーン全体がその種目に将来性を見出しているということですよね。ますますレベルが上がります。今年は史上最年少、19歳のフィニッシャーも出ました。


現代ハードエンデューロ
その難易度とは

-- コース設定も変化しましたね。

石戸谷 : ますますいやらしくなりました(笑)。キャンバーとロックが増える傾向にあります。大きくて派手なヒルクライムが目立つものですが、実は、あれはイケるイケないがゼロか百ではっきりしていて、絶対に行けるようにしないと、レースにならない。ヒルクライムはだからいくら難しいといっても走れば一瞬で通過してしまうので、トップレベルでは差がつかない。じゃあ主催者はどうするかというと、キャンバーとか、進めるけど時間がかかるし体力も奪う、というセクションを延長するんです。そういうセクションでのスピードが、トップレベルでは本当に速くて、とても真似できないという感じがします。
 最近のハードエンデューロ用タイヤは、だからキャンバーでの性能を重視したものが多いんです。

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