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プライベーターの限界を超えろ - No.239より

本誌には書かなかった蛇足から始める。

ワールドレベルのエンデューロシーンでスカンジナビアンの名前が聞かれることが少なくなったのはリーマンショックによる世界的な経済不況以後だ。多くのモータスポーツがそうであるように、エンデューロもまた、その興行的な中心地は北イタリアにあり、チーム運営の縮小が図られる中、北欧のライダーたちは地理的に不利な状況に立たされている。

実力がありながらシートに恵まれない。

このインタビューの主役であるミカエル・パーソンがそうしたライダーの一人だった。

フルタイムでのENDURO GP参戦ができなくなり、地元、スウェーデンの選手権にプライベーターとして参戦。普段は、重機(ブルドーザーのような機械のこと)の運転手として生計を立てる。

もちろんスポンサーはいるが、彼がワールドレベルの競技に参加することになっても与えられるのは、バイク1台と参加費用程度。これは、日本の実力あるライダーとほとんど変わらない条件だろう。

ひんなライダーが、しかし、エンデューロへの情熱を失わず、2021年にイタリアで開催されたFIMインターナショナルシックスデイズエンデューロに参戦。並み居るトップライダーたちを相手に、総合3位というリザルトを残した。

この記事はそのストーリーである。

ミカエル・パーソンが、まぎれもなく優れたエンデューロライダーであることを再び世界にアピールする結果であったと同時に、この競技が、プライベーターもファクトリーチームのライダーも、遠い国からたった一人でやってくるライダーも、信頼できる1台のモーターサイクルと、最低限の工具、スペアパーツさえあれば、まったく平等に腕を競うことができる機会であることを証明することになった。

以下、本編。


6日間の相棒として選んだのはKTM250EXCF、エンジンは小さいがISDE用として完璧なパッケージに信頼を寄せた

最高峰のモーターサイクル競技とは何か。そこにはさまざまな意見があるが、ISDEをそのひとつに数えるのは間違いだろうか。6日間に渡る試練を自分の力で乗り切り、そして1/100秒の世界で戦い続ける。ミカエル・パーソンは、一台の信頼できるモーターサイクルとわずかな工具、スペアパーツ、そして類まれな精神力を武器に、世界の頂点に挑んだ。

Text & Images : ENDURO21 Team


夜明け前のパルクフェルメ

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