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ジャービスの TE300i ハードエンデューロ専用

2022年にRockster Enagy Husqvarnaファクトリーレーシングチームを離れ、自ら立ち上げたプライベートチーム"GOAT"を率いるグレアム・ジャービスは、しかし依然としてトップレベルの実力を維持し、そしてハードエンデューロの"象徴"としての地位を堅持し続けている。
 マシンは長年の愛機であるHusqvarna TE300のフューエルインジェクション搭載モデル。彼の改造に対するスタンスは常に「シンプル」であること。虚飾を嫌い、最低限のプロテクションしかその外観からは見て取ることはできないが、その中身はいったいどうなっているのか? 「パドックで最も汚いエキゾーストチャンバーのバイクを見つけたら、それがグレアムのハスキーだ」。


世界一貧相なチャンバー

 そして私たちは、まずグレアムにそのことについて質問をぶつけてみた。なんでチャンバーがそんなに汚いのか? するとグレアムは次のように答えてくれた。
 「みすぼらしい外観にして、みんなの同情をひきたいんです。私たちのチームには助けが必要だから!(笑)」。
 それは半分冗談で半分は真実のようだ。グレアムのチームのバイクは、基本的に壊れていない部品、まだ使える部品は交換しない、という方針だ。ファクトリーチームではないので、軽さやルックスよりも、耐久性を重視した部品を使うこともある。
 「グレアムはもともと、マシンにダメージを与えないライダーで、このゲッツェンロデオみたいにヤバいコースでも、チャンバーをつぶすことすらめったにない。確かにこのエキスパンションチャンバーにはいくつか凹みがあるけど、まだ使いますよ」と、彼の専属メカニックが話す。
 ファクトリーチームを離れ、限りある資源でレース活動を続けるグレアムのスタンスは、私たちのようなアマチュアライダーに近く、時には辛抱も必要のようだ。一方で、ファクトリーチームの共通スポンサーに限らず、いいと思うパーツを使用する選択の自由が与えられたということはメリットと言える。つまり、このバイクはグレアムが自分の思うとおりに作ったバイクである、ということだ。
 グレアムのハードエンデューロ思想の集大成を紹介しよう。


リクルスの強化されたクラッチカバー


エンジンの秘密?

 エンジンは基本的にストックのTE300iで、主要なコンポーネンツに変更はない。またフューエルインジェクションシステムは新世代のTBI(スロットルボディ噴射)ではなく、掃気ポート噴射のTPI仕様であることに注意したい。これは彼がこれまでTPIのセッティングにかなりの時間を費やし、完璧な精度に仕上げられているためで、TBIに否定的というわけではない。「新しいFIステムをレースに最適化するには相当な時間が必要なので…」というのが理由である。
 グレアムはTPIエンジンのセッティングのため、TSP(Two Stroke Performance)製のシリンダーヘッドとECUを組み込んでいることも明かしてくれた。
 TSPにこのことを質問すると、グレアムはレースやコースのコンディションに合わせて、いろいろなセッティング変更を行っている、という答えが返ってきた。TSPのセッティングキットはハードエンデューロのパドックでユーザーが多いが、多くのライダーはミディアムコンプレッションのヘッドを使用しているとのこと。グレアムはハイコンプのヘッドを使用しているようだが、これについてグレアムは「好みの問題ですよ。あるライダーにとっては良いセッティングが、他のライダーには良くないというのは普通のことです。ハイコンプのヘッドは、アップダウンが多く、標高も高いルーマニアのようなレースで調子がいいですね」と話す。
 またグレアムは、TPIをTBI仕様に変更する移設キットも試したことがあるが「現時点ではアグレッシブすぎて使えない」と判断したようだ。

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