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LOOKING BACK - KTM690ENDURO-R


一見、690ENDUROっぽいが、スイングアームが違う(市販車は鋳造)し、吸気はキャブ(市販車はインジェクション)仕様。690ラリーの軽量バージョンというべきだろう。


最新型のKTM690ENDURO-Rはこちら。かなりフロント下がりのローフォルムとなって、ストリートバイクっぽいディメンジョンであることがわかる



スパルタン - 骨太なダートバイク


 KTM690ENDUROは、KTM640LC4 ENDUROの後継機種として2008年に発売されている。実際には2007年の夏頃にリリースされた。すでにダカールラリーで活躍し、スピード、信頼性ともに最高の評価を受けていたLC4エンジンも、このモデルから新しくなっている。シリル・デプレらが走らせていた、KTM690ラリーに搭載されていたエンジンと基本設計を同一にする。クロモリスチールのトレリスフレームを基本骨格とした車体構成も690ラリーによく似ていた。事実、カスタマー向けのラリーマシンであるKTM690ラリーファクトリーレプリカはKTM690ENDUROがベースとなっていた。もちろん完成品としてはまったく別物のマシンだが、スタビリティの高いフレームと強靭なサスペンションで構成された車体を、60馬力以上を発生し、長時間の運転、質の悪い燃料でもへこたれることがないエンジンで引っ張る性能は、ラリーマシンの血統を受け継いだものとしてライダーを満足させるものだった。
 前モデルのKTM640 LC4 ENDUROは、プライベーターがラリーに供するに十分な性能を持つバイクだった。もともとLC4エンジンを搭載したモデルは、エンデューロで活躍することを前提としたもので、その運動性能は折り紙つきである。4ストロークのレーシングエンジンは、フサベルの技術を契機に新しい時代を迎え、LC4エンジンは、まさにラリーのような条件、長距離、長時間の高速運転に向いたものとして新たに位置づけられることになる。KTM640LC4 ENDUROまでは、どこかに初期のエンデューロモデルのテイストを残していたのだが、新エンジン、トレリスフレームの690ENDUROになって、完全に新しい世代のものとなった。
 640までは「最大排気量のエンデューロバイク」だったのが、690は、軽量なアドベンチャーバイクという位置付けを得たのである。ただし、おそらくこの当時はまだアドベンチャーバイクという言い方は一般化していない。


真のオールラウンダー

 実にKTMらしいバイクだった。2009年には、ENDURO-Rというモデルもラインナップに加わった。前後のWPサスペンションが強化。ホイールトラベルは25mm長くなって275mmに、グラフィックもレーサーっぽくなっている。ソフトなストリートバイクではなく、スロットルひとひねりですぐにフロントが浮いてしまうような…。オフロードでの性能が高い反面、ストリートバイクとして考えると、フロントの接地感に乏しい。同じころに発売されたツインシリンダーのBMW F800GSより、加速も最高速も上回り、サスはいいし、たいていのエンデューロ的なシチュエーションを難なく乗りこなす。ライダーは地上最速の乗り物を手に入れたようなものだった。まあ、ウデさえあれば、である。
 ぼく自身も、このバイクを所有し、5年ほどいろいろなところで走らせた。エンデューロも走れる。2016年だったかな、rider誌の編集長だった三上勝久が、東京の自宅から690ENDURO-RにFIMエンデューロタイヤ2本を積んで自走で北海道にやってきて、日高の2日間エンデューロを走って、また東京に帰っていったことがある。これが別にすごい、とか、690の正しい使い方だ、というつもりはないが、690とはそういう能力を持つバイクだ、ということは言えるのである。
 ガレージを出発して郊外の峠道から林道へ。舗装もダートもまったくバイクに遠慮することなくハイペースで走って楽しみ、そしてまたガレージに帰ってくる。KTM690ENDUROのいいところは、どこを走っても、バイクの性能が少し勝っていることだ。これは良いスポーツバイクの条件である。


特異なバランス

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